婚約破棄された男爵家の末子、特にざまぁをしない話
私の名はスヒィン・ドルク、変わった名でしょう・・・男爵家出身です。
これでも誰でも知っているマイヌケ商会の婿候補だったのです。
15歳で商会に見習いで入って、それから15年頑張って幹部にまでなりました。
お嬢様との婚約を結ぶ話が出た時は喜んだ。そりゃ、さえない男爵家の末子にとって商会長は夢です。
しかし、お嬢様にとっては不服だったようで。
歳が離れている。8歳差。
お嬢様はいつもムクれていましたよ。
結婚の相談をしても、やれ、新居は豪邸が良い。ドレスは伯爵家待遇と。
いろいろ言われました。
だから、商会を大きくしようとささやかながら頑張りました。
しかし、叶えると、次から次へと要求が大きくなる。
そして。ある日、若い貴族の令息を隣に婚約破棄を宣言されました。
理由は・・・
やれ、稼ぎが悪い。誰かと浮気をしている。
と。
恨みに思っていないと言えば嘘になりますが正直ほっともしました。
どんな美人でも自分を慕っていない者との婚姻はまるで便所で豪華な料理を食べているようなものです。
男が全てそうだとは言わないが私はそうです。
当然、商会を追い出されました。賠償としてお嬢様との婚姻に備えた屋敷とドレス類は取られました。
商会長は娘の話を信じて激怒しまして。
そして、私は卑しい金貸しをすることにしました。
金主はいません。わずかな蓄えで小口融資を始めました。利息は高いです。
小さな貧民街に拠点を構えました。
それからしばらくして、お嬢さんと貴族の婿殿がやってきました。
いつだったかな。それは忘れました。
『スィヒン、惨めね』
と口角を上げて笑っていました。見物に来たようです。お嬢様は一度嫌ったら再び好意を抱くことは愚か中立の目で見ることも出来ない気質です。
婿殿は色男でしたね。
それから、私は面白い事に気がつきました。
ある村ではわずか合計金貨三枚の借金の利息で苦しんでいる。
『おい、私が立て替えてやるから、年五十パーセントでどうだ?』
『本当ですか?』
ああ、それは上手くいきました。対抗する金貸しからいろいろ妨害が来てね。
それで商会はどんどん裏組織化していきました。
貧しい者に金貸している裏組織です。訳分からない不気味な商会と皆は思ったでしょう。
女神教会にも献金しました。
そしたら、女神教会は資金の運用に困っているとの相談を受けて。
女神教会を金主にして、貧民救済目的での金貸し事業の名目が出来ました。
もう、他の金貸しは妨害しなくなりました。
私は小口金融です。貴族には手を出しません。
借金を返せなくても娘を売るほどではない。親父を山に送って働かせれば良い金額を設定しました。
ああ、でも完全ではない。土地を取ったり家財一式を差し押さえたり。
取り損ねたのもある。
だから年五十パーセントです。ご理解頂けますか?
他の金貸し商会が手を出しずらい分野に活路を見いだしました。
それでも、どうせどっかで借金をするのならと小さなカジノも経営を始めました。
無理な賭け金をかけようとする親父やマダムを止める事が出来る。
これぞ自給自足ですか?
まあ、いいです。
結婚は忙しすぎて出来ませんでした。
美人じゃなくても気立てが良くて、出来たら子供を産んでくれる女性が好みです。
仕事に理解があるのなら尚良い。
・・・・・・・・・
「・・・これが私の人生です。マダム、私の名を知っているようですが、どちら様ですか?人違いではございませんか?利息は年五十パーセント、初めては銀貨五枚までです。保証人が必要ですね。使い道に関しては、生活再生の相談を受け付けます」
今日、小口金融にやつれたマダムがやってきた。
私を出せと云う。
「スヒィン!嘘、私の事が忘れられないから結婚していないのでしょう?また、婚約を結んであげてもいいわよ!」
そう言えば、マイヌケ商会は今年、貴族に出資したのが原因で倒産したと云う・・・
あれから二十年か。ナリスマシか?
「マダム、私のお嬢様は恋愛に関しては正直な方でした。真摯に向き合っていました。お金に困って捨てた男の所にくるはずはございません。救貧院にお連れしろ」
「ヒィ、スヒィン、あそこは嫌!」
「さあ、マダム、こちらへ」
「・・・商会長、大丈夫ですか?」
「え、ケリー、俺がどうしたって?」
「涙出ていますよ・・・」
「風邪だ」
思い出は美しい方が良い・・・あれでも美人だったのだ。ナリスマシは許せない。
『惨めね』の一言で奮起したが、お礼を言うことでもない。
今、お嬢様は破産した商会を建て直そうと頑張られているはずだ。
・・・その日、救貧院名簿に元マイヌケ商会夫人の名が記載されたことをスヒィンは知らない。
最後までお読み頂き有難うございました。




