最終章:悪女と魔王の新世界
数年後。
王国は、大きく変わっていた。
貴族の特権は廃止され、教育と医療がすべての民に開かれた。
教会は改革され、聖騎士団は「正義の監視者」として再編された。
アステリアは、王位を狙わず、「均衡の守護者」として、国を導いていた。
人々は彼女を「黒の魔女」と呼ぶが、その声には恐れよりも、尊敬が込められていた。
ある日、彼女は魔王ルカインと共に、王宮の屋上に立っていた。
「どうだ? 貴様の理想の世界は、形になったか?」
「まだ途中よ。でも、確実に近づいてる。魔王様、あなたも満足?」
「我は、孤独を愛する者だった。だが、貴様という存在が、我の心に光を灯した」
アステリアは、少し驚いたように目を見開いた。
「……魔王様が、そんなことを言うなんて」
「貴様が、我を変えたのだ。悪女と魔王が手を組んだ世界。誰もが笑えない、でも、誰もが生きられる世界」
彼女は、空を見上げた。
「悪女だった私が、今こうして立っている。誰かが、私のことを悪だと呼んでも、構わないわ。だって、私は、自分の信じる道を進んだんだもの」
ルカインが、彼女の手をそっと握った。
「ならば、これからも共に歩もう。我の使徒として、そして──我の伴侶として」
アステリアは、赤い瞳を輝かせて微笑んだ。
「ええ。魔王様と、永遠に悪を演じましょう。でも、その悪は、誰かの正義になるのよ」
風が吹き、黒いドレスが翻る。
空には、一つの星がきらめいていた。
THE END