第二章:帰還、そして復讐の序曲
数か月後。
王都アリュシアは、平和そのものだった。
王太子ニコラウス・フェリックス・ハイデンは、新たな婚約者と婚約を交わし、民衆はそれを祝福していた。
「アステリア様がいなくなって、本当に世界が明るくなりましたね」
「悪女がいなくなって、王宮も穏やかですわ」
そんな噂が、街中で囁かれていた。
だが、ある日、王宮の門前に、一人の女性が現れた。
黒いドレスに身を包み、赤い瞳を光らせたその姿は、かつてのアステリアとは別人のようだった。
「私は帰ってきたわ。アステリア・オーブラ・デルガルド。そして、今度は──貴方たち全員を、地獄へ連れていく」
警備兵たちが剣を抜いたが、彼女はただ手をかざした。
「黒炎の鎖よ、縛りつけよ」
黒い炎が兵士たちを包み、彼らは悲鳴を上げることもなく昏倒した。
王宮の扉が開き、王太子ニコラウスが姿を現した。
「アステリア……? なぜここに?」
「ニコラウス様、お元気でしたか? 私を追放したばかりなのに、もう会いたくなったんですか?」
彼女の微笑みは、かつての甘い仮面ではなく、本物の悪意に満ちていた。
「貴様……魔王の力を使っている!?」
「そうよ。魔王様と契約したの。そして、貴方たちが私にしたことを、すべて返すわ」
彼女は手をかざし、ニコラウスの足元に黒い影が這い寄った。
「地獄の手よ、這い上がれ」
影から巨大な手が出現し、ニコラウスを掴み上げた。
「待て! 話せばわかる!」
「もう遅いわ。悪女は、もう慈悲を知らないのよ」
彼女は、ニコラウスを空中に浮かせたまま、王宮の広場へと運んだ。
そこに、王と貴族たちが集まっていた。
「皆様、ごきげんよう。お久しぶりですわね。追放されたはずの、悪女アステリアです」
「何をする気だ!?」
「簡単よ。私のしたことを、すべて返すの。あなた方は私を悪女と呼び、民衆に私の悪行を広めました。でも、本当に悪かったのは誰?」
彼女は、記録の書物を空中に浮かべた。
「これを見て。誰が誰を陥れたのか、すべて記録されているわ。私の手が入っていない事件も、私の名前で処罰された。貴方たちが、私を利用したのよ」
王の顔が青ざめた。
「まさか……」
「そして、ニコラウス様。あなたが本当に愛したのは、平民のリリアンという娘。でも、彼女を魔女と偽って処刑させたのは、あなたたちの陰謀。私に罪を被せたのよ」
民衆がざわめいた。
「……信じられない。アステリア様が、冤罪だった?」
「私は悪女だけど、嘘はつかないわ。魔王の力で、真実をすべて見せてくれる」
彼女は手をかざし、記憶の映像を空に投影した。
そこには、王宮の陰謀、貴族たちの裏切り、そしてアステリアが悪女と呼ばれるまでの全貌が映し出された。
民衆の怒りが、王と貴族たちへと向けられた。
「我々は騙されていた!」
「王は正義を歪めた!」
アステリアは、静かに微笑んだ。
「復讐は、終わりました。でも、終わりじゃないわ。この国を、私が作り直す」