第一章:悪女令嬢の末路
アステリア・オーブラ・デルガルド。
貴族の令嬢にして、王国一の悪女と呼ばれる少女。
優雅なドレスに身を包み、微笑みながらも冷たい瞳を持つその姿は、まさに「毒を含んだ薔薇」そのものだった。
彼女が悪女と呼ばれる理由は、数知れず。
平民の少女が王太子に好意を寄せたと知り、その家族を没落させ、婚約者を他の令嬢に寝取らせ、その令嬢を「魔女」として告発したうえに、王宮の舞踏会で、自分より美しく振る舞った姫を、毒入りの紅茶で昏睡状態に陥れた。
悪女という言葉は、彼女のためにあるかのようだった。
しかし、その悪行も、ついに終わりを告げた。
「アステリア・オーブラ・デルガルド、貴様は王国の秩序を乱し、貴族の名誉を汚した。即刻、国外追放を命ずる!」
王の宣告に、彼女は笑った。
「ふふ……本当に、愚かな王様ですね。この国を支えていたのは、私ですよ?」
しかし、誰も彼女の言葉を聞こうとはしなかった。
凍えるような冬の夜、彼女は馬車に乗せられ、辺境の森へと放り出された。
凍てつく風、吹雪、そして孤高の影。
「……ふん。この程度で終わるとは、思ってもみなかったわね」
唇を震わせながらも、彼女は立ち上がった。
「でも、諦めるなんて、私らしくないわ」
そして、彼女は森の奥深くへと足を踏み入れた。
伝説に残る場所──「冥界の扉」。
「魔王様……もし本当にいるのなら、助けてください。私は、この世界に復讐します。力が欲しい。絶対的な力が!」
彼女の叫びが、森に響き渡った。
すると、地面が割れ、黒い炎が立ち昇った。
「……面白い。貴様、本当に私を呼んだのか?」
深淵から響く声。
それは、人の心を凍らせるような、しかしどこか魅惑的な声だった。
「はい。私はアステリア・オーブラ・デルガルド。貴族の令嬢であり、悪女。そして、今や追放された身。魔王様、力をください。復讐のための力を!」
黒い炎の中から、一人の男が現れた。
漆黒の鎧に身を包み、赤い瞳を持つその男は、まさに魔王そのものだった。
「契約はできる。だが、代償は重いぞ。貴様の魂の一部を我に捧げよ。そして、我の使徒となり、この世界の均衡を乱す者たちを裁くのだ」
「構いません。私の魂? とっくに汚れきっていますわ。どうせなら、もっと汚してみせます」
魔王は、わずかに笑った。
「……面白い娘だ。ならば、契約成立だ。我が名はルカイン・ゼル・アザール。貴様は、我の使徒、黒の魔女アステリアとなる」
手を握り、黒い契約の紋章が彼女の左手に刻まれた。
そして、彼女の瞳は、赤く輝き始めた。