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○屋よろづ事顛末記  作者: 霜月ニ條
第三章 見えてきた”モノ”
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一.守るべきモノ




「虎之助、大丈夫か?」

「大丈夫っすか、虎之助ちゃん?!」

「お、おう……」

「別に紀伊屋が殺られた訳じゃないのに。ほんと、過保護だねぇ~」

「成次郎兄さん!!」

○屋に入るなり心配そうな顔で懐いてきた輝平と涼次郎の反応に驚いていると、口の悪い○屋次男坊の皮肉が飛んできた。

そんな流れに呆気に取られている自分と違ってしっかり反応してみせる千之輔は、ある意味場慣れしている。だがその感心も束の間、

「お前にしてはちょっと気が利かなさ過ぎるんじゃないか、成次郎」

最後に店に入ってきた伊兵衛がそう咎め。言われた成次郎が

「かも知んねぇけど、皮肉の一つも言いたくなる展開だろう?」

と一向に意に介さず。結果伊兵衛まで

「確かにな」

と同意したと合っては、調子の早さについていけないことよりも、胸の奥に仕舞いこんだはずの責任感と無力感が頭をもたげて来るというものだ。

「俺が悪いんだ……」

「そうだねぇ。ま、やり方がまずかったってのは確かかな。で。これで若旦那達も分かっただろ?こいつはもう素人が手ぇ出して良いような話じゃない。人死にが出てるんだ、ここから先は俺達に任せてくんないかな?」

「……それは出来ねぇ」

「は?」

「それだけは絶対にイヤだ」

「いやいや、好き嫌いの問題じゃなくてさ。命の問題。分かってる?」

「分かってる」

虎之助はじっと俯いたまま、それでも答えを譲る気はなかった。

成次郎が言う事は間違っていない。

いくら千之輔がついていたからと言っても、失敗は失敗だ。

それにどうやら千之輔自身もまだそれほど深く○屋の仕事に関わった事はないらしい。

それは何度か耳にした兄弟達の会話から分かる。

素人が迂闊に手を出した結果が留介の死に繋がった可能性は極めて高い。

しかもそれが盗人だのの集団であればともかく、武士となれば更に話は面倒だ。

仮に下手人を見つけたとしても、それを奉行所に訴えた所で事は片付かない。

浪人者であれば一応奉行所で裁けるが、その武士が所謂旗本であれば目付に話を持って行かねばならない。

更にそれがどこぞかの藩士であれば尚の事厄介で、その裁きは所属する藩が行う為幕府の管轄外だ。

きちんと裁かれるかどうかは、藩主の意向次第。

場合によっては訴えた自分達の方が処罰されかねない。

それでも。

「こいつは俺がつけなきゃいけないケジメなんだ」

「紀伊屋……」

「そうですね。これは私達でつけなきゃいけないケジメです」

「千ちゃん!」

「乗りかかった船ってヤツだね」

「留を殺ったヤツのツラ拝まずに女抱いてちゃ寝覚めが悪ぃしな」

「ちょっと、海道屋に桐ノ屋まで何言い出すかな。あのさ、人の話ちゃんと聞いてる?義理じゃ命は守れないの。真っ当なやり方が通る相手なら留介さんは死んでない。いい加減そこんとこ分かってくれないかなぁ?」

軽い口調で話してはいるが、成次郎の眼差しは鋭い。

「どうしてもやるって言うなら、止めはしません。若旦那達の命は若旦那達の物だ。好きになさったら良い。けど、千之輔は別だ」

「伊兵衛兄さん?!」

「お前は手を引け」

「イヤです」

「好き嫌いの問題じゃないと成次郎が言っただろう?」

「それでもです」

「千之輔」

「だったら家出します」

「千之輔!!」

「ちょ、千ちゃん!!勘弁してよ」

伊兵衛の焦り顔と成次郎の困り顔の前で、千之輔はぎゅっと一文字に唇を閉じてキッと兄達を睨みつけている。

この男が見かけの割りに頑固者なのは虎之助も知っている。確かにか弱く見えるし、線も細いが一応男なのだ。虎之助から見れば、この兄二人の方が余程過保護である。

「あの」

「何?」

「前から思ってたんだけど、何でそんなコイツ過保護にしてんですか?」

「「何?」」

兄弟が一斉に睨みつけてくる。

「あ~それ俺も思ってた。何でですか?」

「アンタらには関係ないだろ」

「いやまあそうなんだけど」

気になるのだ、仕方無い。

と睨みつけている弟を宥めるように肩を叩くと伊兵衛が

「紀伊屋には紀伊屋の事情があるように、うちにはうちの事情があるんだ。そこは詮索しないで貰えると有り難い」

と頭を下げた。

「いや、あの……何かすみません」

ムキになる成次郎と違って伊兵衛はあくまでも冷静だ。

こういう下手の態度に出られると強く言えない虎之助の性格を確実に見越して頭を下げてきた。

それが分かる程度には人を見てきている虎之助だが、だからと言ってそれを逆手に取れる程駆け引きが出来ないのも見透かされている通りな訳で。

だからと言って、こちらとしても、納得が行かないと全身から発しながらむっつりとしている俄か相棒がいないと、それはそれで困るのだ。決して下心的な意味ではなく。

素人に毛が生えた程度だと分かってはいても、やはり彼の柔軟性と判断力、洞察力は明らかに自分には欠けている。兄二人の心配が弟の命だというのなら、その不安要素を消し去れる何かを提示出来れば良い。

(これしかねぇか……)

ふと、ある場所が虎之助の脳裏に浮かんだ。

「あの……伊兵衛さん、成次郎さん、今から時間ありますか?」

「何?」

「ちょっと付き合って欲しいんですよ」

虎之助の申し出に二人は顔を見合わせた。

すると

「私も言って良いですか?」

と千之輔が少しだけ表情を和らげて顔を覗き込んできた。

その予想以上の近さに一瞬ドキっと鼓動が高鳴る。

「お、おう。別にいいけど」

「じゃ俺も行きたい!!」

「んだよ、面倒臭ぇなぁ」

「お前らは誘ってねぇ!!」

楽しそうな涼次郎はともかく、ニヤニヤ笑いを浮かべている輝平が気に食わない。

「何だよ。ケチ臭ぇ事言うなよな」

「お前は知ってるトコだ」

「だから行くんじゃねぇか」

輝平はどこまでもニヤニヤ笑いを崩さない。挙句他の者には聞こえないような小声で

「そんなにアイツに惚れてんのか?」

と付け加えてきた。

「なっ?!」

「かーいい弟分の為だ、付き合ってやるよ」

「誰が弟分だ!!つか、可愛いって何だよ、てめぇふざけた事ばっか言ってんじゃねぇ!!ぶん殴んぞ!!!!」

「あのさ、じゃれてるとこ悪いんだけど。俺らどこ連れて行く気?それ聞かなきゃ付き合うも何もないんだけど?」

「あ、すみません。俺ん家の近所の道場です」

「道場?」

こくりと頷く。

「六間堀町にあるんですけど」

「六間堀町の道場……なるほどね」

どうやらそれだけで伊兵衛には見当がついたらしい。

「面白そうだ。成次郎、お手並み拝見と行くぞ」

「はい?本気、伊兵衛兄?」

「ああ。こっちも、可愛い弟を部屋閉じ込めるかどうかの瀬戸際だからな。行って損はないだろう」

「へーい」

随分と物騒な言葉が聞こえた気がする。

一抹の不安を抱えながら、虎之助達は深川六間堀町に向った。



次回更新は11月21日です。

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