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君に出会えてよかった

あの日、私はすべてを失った。大好きな家族も、笑う理由も。


高校受験を控えた雨の夕方。塾の帰りを迎えに来てくれた家族は、交通事故で帰らぬ人となった。

「私のせいだ」――自責の念に囚われながら、少女は児童養護施設で心を閉ざして生きてきた。


そんなある日、彼女は一人の少年に出会う。

「じゃあこれからは、“雨=俺と一緒にいた日”ってことにしよう」

その言葉が、崩れかけた彼女の心を少しずつ溶かしていく。


けれど、彼にもまた“ある秘密”があって……。


雨の日に始まった、喪失と再生の物語。


悲しみの先に、もう一度、生きたいと思える未来を。

雨の日は大嫌いだ。なぜなら—— 私のせいで“大好きな”家族を失った、あの日を思い出すから。あの頃、私は高校受験に向けて、毎日塾に通っていた。 ある日、大雨警報が出ていた。学校が終わり、塾に向かう途中でスマホに届いた通知。「大雨で帰りにくいでしょ。終わる頃に迎えに行くから、待っててね」そう、母からのメッセージだった。だから塾が終わっても私は外に出ず、迎えを待っていた。 だけど——着信が鳴った。非通知からの電話だった。まさか。 そんなわけ、ないよね。そう思いながら通話に出た。 相手は、警察だった。「ご両親と弟さんが交通事故に遭いました。今、警察病院に来れますか?」……嫌な予感は、的中だった。「今塾なので、少しかかりますが向かいます」

相手は、警察だった。「ご両親と弟さんが交通事故に遭いました。今、警察病院に来れますか?」……嫌な予感は、的中だった。「今塾なので、少しかかりますが向かいます」それだけ伝えて、私は病院へ向かった。重い足取りで歩く途中、周りの視線なんて気にする余裕もなかった。


ただ、ひたすら——孤独だった。


でも、涙は出なかった。警察病院に着き、案内された部屋。


そこには、白い布をかけられた3つのベッドが並んでいた。


その下には、ついさっきまで笑っていた家族が、静かに眠っていた。私は近づいた。


それでも、泣けなかった。親戚はみんな県外で遠く、身寄りのない私は、そのまま児童養護施設に引き取られることになった。「はじめまして。○○○児童養護施設の源です。今日はスタッフが私一人でごめんね。話せたりするかな?」管理人さんの優しい声に、言葉を返そうとしたけれど——声が、出なかった。


その様子に、警察の人も管理人さんも、驚いていた。「とりあえず、お部屋へ案内するね」


そう言って案内された部屋には、爽やかな笑顔の男の子がいた。「相部屋が空いてるの、ここだけで……いやだったら個室にもできるけど、どうする?」スマホを取り出し、「この部屋でいいです」と文字を打って見せた。その晩、彼——慶介くんと簡単な自己紹介だけをして眠った。


彼も私と同じく、家族を亡くした子だった。気づけば、太陽の光で目が覚めた。


周りにはたくさんの子どもたちがいて、じっと私を見つめていた。“自己紹介しなきゃ”慌てる私を見て、慶介くんが代わりに言ってくれた。


「彼女の名前はあみちゃん。昨日遅く来た子だから、びっくりしたよね。でも大丈夫。声が出ないだけで、優しい子だよ。仲良くしてあげてね?」


「はーい!」と、みんなが元気に返事をした。

――――私は、彼に救われた気がした。


それからの日々は最高に楽しかった。施設の子と遊んだり、慶介君と話したり二人で出かけたりいろいろたのしいことがいっぱいだったから通院も頑張れたし塾も頑張れて病気は診断受けてから参加血くらいはかかったけど完治して高校も無事合格。高校生活はまさかの慶介君と同じ保育士コースだった。理解者がいる高校だったからか凄く満喫できる三年間だった。文化祭を通し気になっていた男子諒くんとも距離が縮んで体躯際のあとに告白され受け入れて交際開始もした。

交際が始まってからの日々は授業含んだ日常が楽しくて仕方ない毎日だった。諒くんは過去のことをすべて知ってくれているよき理解者だからこそうれしかった部分もある。憧れだった遊園地デートや動物園デート、遠出だってしたし彼の家だって何度か泊まったりもした。ご両親も親切に私を妹のように受け入れてた。

―――こんな毎日が続けばいいのに。

そう思っていたから、ある日、ぽつりと「憧れ」の話をした。

将来のこと。夢のこと。

そして、諒くんとどうなっていきたいか――それも、全部。

「いつか、一緒に暮らせたらいいなって。お互い保育士になって、休みの日にはどこか出かけたり、夕飯は交代で作ったり……」

私がそう言うと、諒くんは一瞬、きょとんとしたあと、照れくさそうに笑って、

「それって……つまり、結婚したいってこと?」

なんて、茶化すように言ってきた。

私は思わず、枕を投げた。

「ちがっ……そうだけど! そうだけどそういう言い方しないでよ!」

笑い合いながら、それでも心のどこかでちゃんとわかっていた。

諒くんも、同じ未来を思い描いてくれていること。

「その夢、俺も乗った。だから一緒に叶えよう」

そう言ってくれた彼の声は、冗談まじりなのにどこか本気で。

私の胸の奥まで、じんわりとあたたかく染み込んでいった。

夢はまだ、はじまりの場所にある。

だけど、こうして2人で語り合える今があるなら、

きっとどんな未来だって、乗り越えていける気がした。

でも――現実は、そう甘くなかった。

あの日、将来の夢を語り合って、笑い合ったあの翌日から。

諒くんが学校に来なくなった。

LINEを送っても既読はつかず、電話をかけても留守番電話。

“何かあったのかな”――そう思いながらも、私はただ、信じて待ち続けるしかなかった。

一日が、二日になり、やがて一週間が経った。

その間、私は毎晩泣いた。眠れない夜もあった。

でも諦めきれなかった。

そして迎えた卒業式の日。

私はどこかで期待していた。

「今日なら来てくれるかもしれない」って。

だけど、彼の姿は最後までなかった。

卒業式が終わる頃、私はまだ彼の姿を探していた。

けれど、結局最後まで会うことはできなかった。

そんなときだった。一件の通知がスマホに届いた。

送信者の名前を見て、胸がざわついた。―――諒くんのお姉さん。

彼女とは一度、家に泊まった時に挨拶しただけ。それなのに、なぜ彼女から?

恐る恐るメッセージを開くと、最初に表示されたのはたった一行だった。

「急にごめんなさい。本当はもっと早く伝えるべきだったんだけど――」

続く言葉を読むのが怖くて、手が止まる。

けれど震える指先でスクロールすると、衝撃の事実が目に飛び込んできた。

「連絡が取れなくなった“あの日”、諒は実は病院にいて、検査入院していたの。でも……今は違うの。ごめんなさい……彼、余命宣告を受けてるの。」

画面がじんわりと滲んだ。涙だ。

スマホを持つ手が震えて止まらない。

信じたくなかった。信じたくなかったけど、あのとき感じた小さな違和感――

優しかった彼の笑顔、あの日交わした「未来」の話――すべてが脳裏を巡って、

心の奥が、静かに、けれど確かに崩れていった。

スマホを抱きしめたまま、私は膝を抱えてベッドにうずくまった。

何も考えられなかった。ただただ、涙が止まらなかった。

どうして言ってくれなかったの?

あんなにたくさんの時間を過ごしたのに。

夢の話までしたのに。

一緒に未来を描いたのに――どうして。

けれどすぐに思った。

「きっと、言えなかったんだ。私が泣くから、私が崩れてしまうから。だから……優しいあの人は、全部飲み込んでしまったんだ」って。

私は制服のまま、夜が明けるまで泣き続けた。

でも――泣いてばかりもいられなかった。

何ができるのか分からないけれど、今すぐにでも、会いに行きたかった。

翌朝、私は諒くんのお姉さんに連絡を返した。

「彼に……会いに行かせてください」

すぐに既読がつき、短く返事が来た。

「きっと、喜ぶと思う。今、〇〇病院の個室にいるよ」

私は電車に飛び乗った。通い慣れた制服のポケットに、まだしわくちゃになった卒業式のしおりが入っていた。



スマホを抱きしめたまま、私は膝を抱えて泣いた。

声にならない嗚咽が、胸の奥からこぼれ落ちる。

心が張り裂けそうだった。けれど、それでも――

“会いたい”という気持ちが、私の背中をそっと押してくれた。


翌日、私は諒くんの姉から送られてきた病院の住所を頼りに、電車に乗って向かった。

一人で向かうその道中、胸はずっとざわついていた。

「間に合うだろうか」「ちゃんと笑顔を見せられるだろうか」

いろんな感情が入り混じっていたけれど、ただひとつだけ確かなのは――

“会って、ちゃんと伝えたい”という気持ちだった。


病院に着くと、案内されたのは個室の病室だった。

ドアをノックすると、ベッドの上に横たわる諒くんが、少し驚いた顔でこちらを見た。

「……あみ?」

かすれるような声。それでも確かに、私の名前を呼んでくれた。


私は涙を堪えながら、スマホに言葉を打ち込む。


《なんで黙ってたの? 私たち、夢を語り合ったばかりだったのに》


彼は、ほんの少しだけ目を伏せたあと、静かに答えた。


「怖かったんだ。あんな風に未来を話したあとに、“実はもう長くないんだ”なんて言える自信、なかった。……あみを泣かせたくなかった」


私は、首を横に振った。

もう涙は止められなかった。けれど、それはただ悲しいだけの涙じゃなかった。

悔しさも、愛しさも、全部混ざった涙だった。


スマホを見せる。


《泣くよ。悲しいもん。……でも、逃げないで。私、あなたとちゃんと向き合いたいの》


彼は、少しだけ笑った。あの日、夢を語り合ったときと同じように、優しく。


「ありがとう……来てくれて、本当に嬉しいよ」


その日から、私は毎日のように病院へ通った。

学校が終わればすぐに駆けつけて、手をつないで、話をした。

声は出なかったけれど、私の心はいつも、彼のそばにあった。


彼の病状は、少しずつ、だけど確実に進行していった。

日に日に痩せていく身体。言葉を発するのもしんどそうになっていったけれど、

それでも彼は、笑っていた。


ある日、彼がふと呟いた。


「……あみの声、いつか聞きたかったな」


私はその言葉に、胸がぎゅっと締めつけられた。


夜、帰り道。私は星空の下で、そっと口を開いた。

声はまだ出なかった。けれど――心は叫んでいた。


「―――出て、お願い……諒くんに、届いて……」


その瞬間、胸の奥に、何かが溶けたような気がした。


次の日、病室で私は、小さく囁いた。


「……おはよう」


それは、かすれた声だった。けれど、確かに音になっていた。

諒くんは、目を大きく開いて、それから泣いた。

私も泣いた。お互いの手を握り合って、何度も名前を呼び合った。


それが、彼と交わした最後の会話になった。


数日後――

彼は、静かに旅立った。

まるで眠るように、穏やかな顔だった。


葬儀のあと、私は彼の姉さんから一冊のノートを渡された。

それは、彼が入院中に書き続けていた「未来日記」だった。


“あみと一緒に叶えたかった夢”

“結婚して、一緒に暮らしたい”

“どんな日々でも、あみとなら乗り越えられる”


一文字一文字に、彼の想いが詰まっていた。

私は泣きながら、それを全部読んだ。


―――そして決めた。


彼との夢を、私が生きて叶えよう、と。


私は今、保育士として働いている。

子どもたちの笑顔に囲まれながら、諒くんと交わした「未来」の続きを生きている。

毎日忙しくて、大変なこともたくさんあるけれど、ふと空を見上げるたびに、彼を思い出す。


「あの日の約束、ちゃんと守ってるよ」


心の中で、何度もそうつぶやく。

それは、私にとって希望であり、強さの源だった。


――雨の日も、もう嫌いじゃない。


今では、彼と出会った奇跡を思い出せる日になったから。


空を見上げる。

今日も、彼の声が聞こえる気がする。


「……がんばってるな、あみ」


うん、がんばってるよ。

――ありがとう。私は、あなたと出会えて、本当に幸せでした。

そして今も、あなたの想いと共に、生きていく。

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