一期一会、されど手放せない関係
『K賀団』クツシッタ山脈南東支部アジトにて。二人の男、ヤンとゾローが帰ってきた。
「ひぃ、疲れた疲れた。誰かあったかい飲み物持ってきてくれへん?」
寒そうに自身の身体を抱くゾロー。ヤンもクールぶっているが、やせ我慢だ。そんな二人を門番は出迎える。
「おう、おかえり。どうだった、何か手掛かりになりそうなものは」
「ダメですわ。吹雪で痕跡が消えとるし、近くの洞穴とか覗いてみたけど全部外れ。加えて本来上におるはずの『ノースブラドン』がいて危険がいっぱいや」
「危うく雪崩にも巻き込まれかけたしな。最悪だぜ」
「そりゃ災難だったな二人とも。とりあえず支部長に報告してこい」
「ひえー、手ぶらで帰ってきたなんて言ったら怒られるでー!ヤン、ワイの分まで叱られてくれへん?」
「オメェも一緒に頭下げるんだよアホンダラ」
そう言って二人はアジトの中へと入っていった。
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「…………門番が邪魔ね。どう入ろうかしら」
「裏口とかないのか。前回はどうやって侵入したんだ?」
「前は門番がいなかったから、気配を消して真正面から………って、何でいるのよ!!」
「声が大きいぞ」
「あんたには関係ないって言ったでしょ!早くどっか行きなさい!」
「別についてくるなとも言われてないし」
『木の腕の女』の後をつけると、『K賀団』のアジトへと辿り着いた。一度盗みに入ったこの場所に、何故わざわざ戻ってきたのか。
「ふざけないで。どうしてついてきたの」
「どうして、と言われてもな」
去っていく女の背中をみながら、俺は考えた。
このまま一人で村を目指すのも良いが、どうにも『木の腕の女』を放っておけなかった。
捨てようと思っていた♡を拾ってもらった借りもあるし、ここで出会ったのも何かの縁。それに、一人で何十回と死んで模索するよりも、味方を得てこの窮地を突破する方がいい。
「あんたといる方が、色々良さそうだったから……かな。助けて貰った借りもあるし」
「訳分からないわ。第一、あんたみたいなガキに何ができるっていうのよ。相手は人殺し上等のイカれ集団よ」
「そうだな……速い」
「は?」
「俺は速い。その点だけでいえば世界トップクラスの自身がある。囮でもいいし、撹乱でもいい。なんならそこの門番を一瞬で潰してきてやろか?」
「…………………………」
「信じられない、って顔だな。じゃあ見せてやる」
「ちょ、あんた何を……!」
アジトの門番までの距離は50メートル程度だろうか。この距離なら、数秒で近づいて門番を無力化できる。だが、気付かれれば終わりだ。何か注意を引きつけれそうなものは……
「なあ、お前さんって手で触れずに物を持ち上げたり人を掴んだりできるか?」
「………何で知ってるのよ」
「いや、その、なんとなく」
「……できるけど、この距離じゃ射程範囲外よ。せいぜい、門番の少し前辺りまでしか届かないわ」
「じゃあ、そこの雪をドバっと舞い上がらせたりできる?」
「まさか目眩ましのつもり?そんなのほんのちょっとの時間しか稼げないわよ」
「2、3秒もあれば十分だ。その隙に叩く」
「………チッ、ヘマすんじゃないわよ。―――万能の籠手』」
女がギュッと木の腕の手を握り締める。すると、そこに見えない何かが現れた。姿形けそ見えないが、そこに何かがあるというのが、ビリビリと肌で感じられる。
「いくわよ。準備はいい?」
「ああ、いつでもいけ」
次の瞬間、ブワッ!!と。目の前の雪が門番へと降り掛かった。
「うわ、何だ!?」
――今だ。
俺はすぐさま走り出し、門番へと一気に距離を詰める。脚の筋肉に全神経を注ぎ込み、全速力。何かを避ける必要はない、ひたすらにトップスピードで突き進むのみ。
舞い上がった雪をくぐり抜け、門番の真正面まで到達する。雪によって閉じられた門番の目が、もう少しで開かれそうになる。本当にたった数秒しか時間を稼げなかった。
「―――けど、間に合った」
「は?ぐぶ」
「………よし、と」
背後に回り込んで、門番の首をへし折った。昔軍で習った音もなく相手を無力化する技がここで役に立ったな。
「速………!?」
「どうだ?ついでにいえば俺は反射神経もいい。囲まれても全ての攻撃を避けきれる自信がある。役に立つだろ?」
「………どうして、私に協力してくれるの。見ず知らずの私に」
「借りがあるってさっき言ったろ。それに、見ず知らずの人間を借りも無しに助けるお前さんには言われたくないな」
「………………………」
「俺は『滝ケ平四郎』。お前さんは?」
「………………………」
『木の腕の女』はすぐには答えてくれなかった。その赤い瞳には揺れがあった。彼女の背景に何があったのかは知る由もないが、相当悩み詰めてるようだ。得体のしれない俺を、仲間として認めるかどうか。
俺は力も理由も示した。さぁ、どうする?
長い沈黙の後に、彼女は口を開く。
「………リリスよ。よろしく、シロウ」
「よろしくな、リリス」
この世界に来て、四回の死を重ねて、ようやく仲間を得た。この出会いに感謝しよう。世は常に一期一会だが、時には長続きする関係だってある。
「さて、やりますか」