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ライフ9999で生き延びる異世界生活  作者: agohie
白亜の出会い、滅国の帝姫
7/24

人は話してみれば案外通じるもの


「……………………………」


「……………………………なによ」


「…………いや、別に」


「どうせこの腕が気になるんでしょう?」


「まぁ、はい」



そりゃあ誰だって気になるだろう。

木製の腕。角ばった木材を使って作った腕というよりかは、木の枝を人の腕の形にしたというか、マッチョなミイラみたいな、そんな感じ。


不気味であるのもそうだが、何より、その腕から発せられる奇怪なオーラがどうにも気になる。女の意思とは別に、腕そのものにもう一つ意思があるような。


「特別製の義手よ。かっこいいでしょ?」


「え。あ、はい。そっすね」


「ふふ、見る目あるわね」


「…………なぁ、あんた。どうして俺を助けてくれたんだ?今にも人の首を180°回転させそうな目つきしてるが」


「あんたには私がどう見えてるのよ。そんなの、今にも死にそうだったから、で十分でしょ」


「お人好しの割には、ぎっちり人を縛るんだな。趣味?」


「得体のしれない奴に対して警戒するのは当然でしょう。まぁ、あんたからはこれと言った脅威も感じないけど」



………俺は少し勘違いをしていたのかもしれない。

最初、『木の腕の女』に遭遇した時はすぐに敵対され、中々無惨な殺され方をした。おかげで、『木の腕の女』はてっきり近づく奴らは全員敵だ殺すっていう奴なのかと思っていた。


今に思えば、それは俺が『K賀団』の奴らと一緒にいたのと、奴らから借りた防寒着を着ていたからだ。『木の腕の女』は『K賀団』に追われてるから、近づいてきたら排除しようとするのは当然だ。


だが、腕が異形なだけで、別に怪物とかではない。普通の人間だ。むしろ『K賀団』の奴らよりもよっぽど人情派だ。


「なぁ、この縄解いてくれないか。俺は無害だ。あんたには危害なんか加えないし加えられない」


「………まぁいいわ。私よりも背の小さいガキにどうにかできるとは思えないもの」


「あれ、今の俺ってそんなに背が小さいのか。いくつに見える?」


「なによ急に…14、5歳ってところかしら」


「へー、そうなのか」


「何で自分の年齢も把握してないのよ。年寄りみたい」


「実際年寄りだからな」


ジジイになると、自分が今何歳なのかよく分からなくなることなんてザラだ。何年生まれなのかもたまに間違える。


手足の縄を解いてもらい、ようやく自由を手に入れた。すると、女の方からキノコが飛んできた。焼きたてホカホカのキノコだ。


「………食べていいの?」


「むしろ食べなさい。この寒い雪山では、その『ポカポカダケ』は重宝するわよ」


はぁ。カイロのように暖かいのか、食べると暖かくなるのか。どちらにせよ安直なネーミングだな。

見た目はオレンジ色で、燃え上がる炎のような形をしている。匂いは悪くない。感謝して食べよう。


「いただきます。……味は普通だな」


咀嚼し、飲み込む。するとアツアツのシチューでも食べた時のような、身体の芯から温まる感覚がする。久しぶりのまともな温かみで、ちょっと感動する。


「食料分けてやってるんだから、味に文句言うんじゃないわよ。他のあげないわよ」


「他のもくれるのか。優しいな、お前さん。見ず知らずの俺を助けたばかりか、食い物もくれるなんて」


「そう?普通でしょ。食料自体は十分あるしね」


そこには大量のキノコ、キノコ、キノコが………キノコしかねぇのか。色はカラフルだが、結局はキノコだ。焼いたそれを美味しそうに食べる女。キノコが美味いのか単にキノコが好きなのか。


「そういや、お前さんは何しにここにいるんだ?まさかここに住んでるって訳じゃないだろう」


「………まぁ隠す必要もないか。正直に言うと、盗みよ。盗みを働いて、今はその帰り」


「それは、もしかして『K賀団』からか?」



瞬間、『死』が迫る。

女の顔色が代わり、赤い眼光が間近に接近。喉元に手刀が突き刺さった。たらり、たらり、と俺の首元から血が流れ出す。


「お前、何故それを知っているの」


「ま、待て!俺は」


「答なさい」


グリグリと指先が奥へと進む。

この木の腕は人をノーバウンドで10メートル近くも吹っ飛ばす怪力だ。人間の頭を手刀で切り落とすのも可能かもしれん。返答を間違えればまた(ライフ)が減る。


落ち着け。相手はただ警戒しているだけだ。


「………まず、俺は『K賀団』じゃない。本当だ」


「…………………」


「『K賀団』といえば、有名な厄介者集団だろ?あんたはいい人だ。盗みって言ってもただの盗人じゃなくて、悪者から盗む………義賊的な、あれじゃないかと。こんな山奥に悪徳貴族なんかいない。だったら、『K賀団』とかの犯罪組織かなーって、そう思ったんだ」


「………………………あ、そ。悪かったわね」



木の腕(凶器)が離れ、俺はホッと息を吐いた。即興のアドリブで思いついた言い訳だったが、なんとか通用してくれた。


だが女は赤い瞳の警戒色を緩めない。少しでも怪しい動きをしたらただじゃおかないと、ギラギラの目つきが告げている。



「……雪が止んだわね」



外で猛威を奮っていた吹雪が、夜になる頃には止んでいた。それを確認した女は荷物を背負い、出掛ける準備をし始める。


「予備の防寒着と、数日分の食料はあんたにあげるわ。ここから南西に下山していけば、村がある。そっからは自分でなんとかしなさい」


「お前さんは、どこに行くつもりだ」


「あんたには関係ないわ。じゃあね」


「おい、ちょっと!」


「ついてくるんじゃないわよ!危ないから!」



そう言って『木の腕の女』は去っていった。

せっかくマトモな人間に出会えたのに、また一人か。一応人がいる場所は教えてもらったが、無事に辿り着けるかどうか。というか南西ってどっちだ。太陽は向こう側に沈んでたから………いや、この世界の太陽はちゃんと西に沈むのか?


「さて、どうしたものか」




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