スタート地点が極寒すぎる
「…………へくしょん!!寒!?」
穴抜けた先は、真っ白の銀世界でした。川端康成じゃねぇんだぞこの野郎。
「な、なんじゃあここは……?」
さっきまで俺は病院にいてそのまま……そうだ、謎の男に穴に突き落とされてそれから……
「……どうしたものか」
この際、死んだはずとかあの男はなんだったのかというのは無視する。後で考えればいい。問題はこの環境だ。
見渡す限り真っ白。吹雪の吹き荒れる山岳地帯と言ったところか。風と共に木々が揺れ、大粒の雪が肌を冷やす。服装はさっきまで着ていた薄い病衣と愛用の羽織のみ。この寒さではあっという間に体温が下がり凍死してしまう。
「とにかく、寒さを凌げる場所を探さなくては」
ひとまず歩く。のっしのっしと雪道を進んでいく。かなり雪が深い。自力で歩くのにも一苦労なこの老体では………
「ん?」
今、気付いた。強烈な違和感。長らく失っていた何かを取り戻したこの感覚。そもそも歩けている時点でおかしいのだ。枝の棒のような脚ではこの雪を掻き分けて進むことなどまずできない。つまり……
「若返って、いる!?」
ズボンの裾をまくると、そこには在りし日のピッカピカ健脚がぁぁぁぁ!?
若さの象徴!我が全盛!黄金の武器!更に……
「腕も、腰も、肌の潤いも、若さを!取り戻している!?」
あまりに仰天な出来事に、温存しなければ体力を消費して叫ぶ。こんな極限環境に放り出されたことも驚きだが、それよりも身体が若返っていることの方が驚きだ。
「まさか時間が巻き戻った……?いや、こんな雪山見覚えがない……いやしかし、何故!?」
死んだ自分、謎の男、見知らぬ場所、若返った自分………少ない情報から、導き出される結論。勝手な憶測だが、この言葉を使えば妙に腑に落ちる。
そう、今風に言うならばこれは………
「異世界転生ってやつか………」
だとしたらこのスタート地点は、あまりにも酷いんじゃないだろうか。老人………否、少年は心の中で文句をぼやいた。
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「どうする、外に逃がしてやる殺す?」
「「「「殺す」」」」
「はいわかりました」
「待て待て待て、気が早過ぎるだろうお前さん達」
という訳で山賊のような輩に捕まってしまった。
吹雪を凌げる場所を探し、当てもなく彷徨っていたところ、なんとか人を発見。助けてもらおうと声をかけたところ、そのまま捕虜にされてしまった。
まぁ、牢屋の中とはいえ暖かい場所に来られたことは幸運なのだろうが。
目の前で物騒な話し合いをされ、流石に黙ってるわけにもいかない。
「な、なぁ。どうにか命だけは助けちゃくれねぇか。意味のない殺生は仏さんにも顔向けできねぇだろ」
「殺す意味はあるぞ。食料が増える」
「まさかの食人族………!?」
「まぁ待てよテメェら。殺す前に一つ聞いておこうぜ。情報は何よりも大切だ」
山賊達のまとめ役のような男が騒ぐ山賊達をなだめる。男は俺の入ってる牢屋に顔を近づけて言う。
「なぁ、ここいらで『木の腕の女』を見なかったか?」
「…………木の腕の女?他に特徴は?」
「ふーん……顔はローブを被っててよく見えなかったんだが、背丈や骨格的に女なのは確定。あと……赤い色の目立つローブだったな。あと、変な紋様が刻まれていた。こんなのだ」
男は宙のキャンバスに指をなぞらせて紋様を描く。さっぱり分からない。とりあえず頷いておく。
「一応聞くが、その女が何をしたってんだ?」
「盗みだよ、盗み。ボスに献上する大事な貴重品をあの女に盗まれちまったんだ。いやはや、情けねぇ。とはいえ取り戻さねぇと俺が叱られちまう。だから、何か手掛かりを知ってたら教えて欲しいんだけど……」
「…………………」
そんなものは知らん!!!
…………と、馬鹿正直に答えれば俺は用済みと見なされコイツらの胃袋の足しにされてしまうだろう。コイツらに情け容赦はない。たとえ女子供であっても煮込んだスープの具材にするはずだ。
だが、ただの野蛮人ではなく話は通じる。『木の腕の女』とやらについて全く知らない以上、ハッタリで通すしかない。
「………道中、赤いローブを被った奴を見かけた。どこに行ったかは分からないが……この吹雪だ、そう動けないはず。きっとあの近くにいるはずだ!案内する、いや案内させてくれ。命が助かるならなんだってする」
「お、その反応を待ってました!!朗報だな。おい、コイツ拾ってきたやつって誰だっけ」
「ヤンじゃなかったか?」
「オレだ!」
「よし、よくやったぞヤン!いい拾い物だったな」
「ふふ、褒められちゃった」
「じゃあお前とゾローでコイツについて行け。あの女を確認したら急いで連絡しろ。いいな」
「「了解」」
「じゃあガキ。案内頼むわ」
「へ、へへ……お安い御用……」
さて、どうしたものか。