第四章 偽証
「どうも」
「あの・・・・、服がどうかしたんですか?」
私はわざと聞いてみた。
「いや、別に」
そう答えると、浅村は顔の隅に少しばかりの残念さを浮かべながら私の前から消えて行った。
そんな背中を見て、私は可笑しくて大声で笑いこけたい気分になった。
「馬鹿野郎。お前の魂胆なんかお見通しなんだよ」
玲子は、昨日の朝イチで同じ店から同じ服を購入し、すぐに二度洗濯機に掛けていたのであった。
それよりも奇妙なことが夕方のニュースで流れた。 殺害された男は下半身裸であったが、何故だか陰部だけが切り取られており、それが付近の何処を探しても見つからないという。警察は、続けて90人体制を崩さずに捜査する方向だということであるが、そのニュースを聞いた私も首を傾げるしか無かった。
捜査は難航した。しかし、現実問題として隣室の住人が死体で見つかり、階下の住人が行方不明なのである。隣室の住人を殺した犯人も捕まっていないのに、今度はアパートの住人ではない男が変死体で見つかった。捜査本部としてもこれが同一犯人なのか別々の犯人なのか、どちらとも言えない状況に苦悩していた。
玲子にはどうしても引っ掛かるところがあった。
行方不明になった階下の住人のことである。
正確にはいつからなのかは分からないが、先日の事件の夜か、またはその少し前か。とにかく、その辺りで居なくなったという事は、今回の事件に何か関与している可能性も考えられる。もしかしたら、隣人の事件についても関係があるのかも知れない。
早速、管理会社に問い合わせてみた。だが、住人がいくつくらいの人間か。男なのか女なのか、何一つとして教えてくれなかった。よくよく考えてみれば、それも当たり前の事である。逆の立場であれば、他人においそれと情報を流してくれるアパートなどに住むのは常識からみて外れているのだから。
アパートの他の住人は階下の住人を見たことあるのだろうか。いっそのこと他の部屋の住人に聞いて廻ろうか。いや、ちょっと待て。浅村がこの部屋に来たという事は、他の部屋にも聴き込みしてることは十分に考えられる。もしも、再度浅村がこのアパートに来た時に他の住人から私が階下の住人について聞いて来たなんて言われたら最悪だ。
だが、浅村はまたやって来た。
「実は妙な事を聞いたんですが、もしかしたら下の階の男性とお知り合いじゃないんですか?」
「はあ?」
「お知り合いですよね?」
「お知り合いな訳ないじゃないですか。男だって事も今聞いて初めて知ったんですよ」
私はムカついた。
「まあ、落ち着いて下さいよ」
ヘラヘラした口調だったが、浅村の目はまたしても野蛮な獣を匂わせた。
「そうなると可笑しいですよねえ・・・・」
「何がですか?」
「いえ、それがねえ。貴女が部屋を出ると必ず彼が付いて歩いてるという目撃証言があるんですよ。それでもお知り合いじゃない?可笑しいですよねえ・・・・」