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第二章 雨

「何が連絡下さいだ。バーカ」


 それにしても、階下の住人が居なくなったと警察が知ってるという事は、捜索願いでも出ているのか。刑事は、あくまでも居なくなったというだけで、隣室の住人のように死体で見付かったとは言っていない。ならば、巷で耳にする夜逃げというやつなのでは無いのか。借金から逃れる為に人知れずに住まいを変える。この可能性も無くはないだろう。だとすると、これも私には無関係だ。何も気にする事は無い。


 翌朝、出勤する為にアパートから出た瞬間、いつもとは違う違和感を感じた。足を止め、振り返ろうかとも考えたがそれは止めておこう。多分、あの浅村に違いないだろうし。昨日の今日で警察を気にする素振りは大きなマイナスとなる。そんな些細なことがキッカケで冤罪にでも持ち込まれたら堪ったものではない。 私は、他の人達の歩調に合わせ駅に向かった。 

 電車に乗る。同じ車両に奴が乗っているのは間違いだろう。私は、立ったままずっと車窓に顔を向けていた。 

 駅に着くと、いつものように通路がごった返す。尾行してくるという事は私の会社でも確認しようという事か。隣室の住人の死亡推定時刻辺りの私の退社状況でも会社に問い合わせるのかも知れない。そんな事でもされたらこっちは大きな迷惑だ。私は、あっちこっちから肩や背中を押されながらも巧みに人混みに紛れた。

 駅を出て少し歩いたところで尾行の気配がしなくなった。だが、油断は禁物だ。あの角を曲がって奴がついて来ていない事を確認して会社に向かったほうが良いだろう。もしもの事を考え、角を曲がるとすぐに立ち止まり、スマホを取出し電話を掛けているようなマネをしよう。 

 腕時計を見ると二分が経過した。どうやら奴は私にまかれたらしい。 

 私は、スマホをバッグにしまうと会社へと向かった。 

 会社では何も不穏な事は起こらなかった。今日のところは先ずは一安心だ。私は帰宅の電車に乗り込んだ。毎日の事ではあるのだが、この時間帯の電車の混み様には閉口する。ただ単に混んでいるだけなら良いのだが、私の場合は高い確率で痴漢に会うのだ。尻だけならまだしも、見境もなくそれ以上の行為に及ぶ輩がいるから手に追えない。たまには触っている手でも掴んでやろうかと思うが、そんな汚らしい手に触れることのほうがゾッとする。そして今日もタイトスカートの上から私の尻を撫で回し始めた。私は、駅に停まる度に場所を移動し、相手が諦めるのを待つ。四つ目の駅を過ぎたところで痴漢の手を感じなくなった。毎度毎度のことながらホントに変態の多い電車だと逆に感心してしまう。

翌朝は尾行の気配は無かった。もしかすると他に容疑者が見つかったか。そうであれば私は救われるのではあるが、事が確定するまでは気を抜かずに生活するに越したことはない。 


 週末は午後から雨になった。天気予報には気を遣う私のバッグには折り畳み傘が待機している。出来れば、今夜の飲み会が終わる頃には雨も上がっていて貰いたいのだが、こんな事を願っても仕方がないことくらいは私にだって分かるというものだ。 

 飲み会での会社の連中のはしゃぎっぷりは見事としか言い様がないザマで、夕方以降もそんなに元気があるのなら、勤務時間内にもっと働けば良いのではないかと思うが、決して口にすることはしない私はお利口さんなのだ。


 居酒屋での飲み会が終わるとカラオケに誘われた。だが、お利口さんの私は丁重に断り、家路につくことを選択した。雨はまだ降っており、幾分が雨粒も大きくなっている気がした。今夜の電車には痴漢は潜んで居なかった。他の女性の場合は知らないのだが、とにかく私は無事に駅に到着出来たのだ。 

 駅から外へと出た。雨は相変わらずであった。


 目前の交差点の先の大橋では、傘をさしていてもこの横殴り気味の雨では恐らく濡れてしまうだろう。だが、後はアパートに帰るだけだ。濡れたってどうってことは無い。私は、橋に向かってサッサと歩きだした。 


 橋を通り過ぎると予想通り、腰の部分から下はびしょ濡れになっていた。会社へ向かう時ならいざ知らず、帰宅するだけの私にタクシーなどこの上なく勿体ない。橋の先を左折し、そしてまた右に折れる。ここまでくればもう少しだ。歩いてるせいか、今ごろ酔いが回ってきた気がする。アパートに着いたら今夜は早目に寝てしまおう。 


 最後の小さな交差点を右折した。暫くは暗い夜道だ。そう思った時、後方からニュッと腕が現れ私の顔を覆ってきた。上半身に回された反対側の腕と、押さえ付けられた顔とで身動きが出来ない。そう思うのもつかの間、私の意識は一瞬の内に飛んでしまった。

翌日、目が覚めると開いたままカ―テンの間から眩しい陽の光が射していた。 

「今、何時だ・・・・」


 小さな白いテ―ブルの上の時計を見ようと上半身を起こそうとした。 


「痛っ・・・・」



 身体のあちこちに強い痛みが走った。どうしたのだろうと思い身体を見ると、乱れて破けた服のままの格好が目に入り、私は仰天した。 


「何なのよ、これ?」 


 乱れて破けた服は濡れに濡れ、おまけに頭は朦朧としている。上手く繋がらない思考回路で昨夜のことを思い出そうとしたが、歩いてる最中の記憶が途中から途切れていた。

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