初代聖女様って
ん、いつの間にか眠っていたみたい。
目が覚めて体を起こすとベッドで寝ていたはずなのに、何故か見知らぬ花畑の中にいる。
ーーーー 光様ー、光様ー!
ん?誰か呼んでる、誰の声だろう。
声のする方を振り返ると、そこには見知らぬ10歳ぐらいの女の子と真っ白なワンピースを着た私と同じ黒髪の女の人がいる。
「光様、私光魔法が使える様になったんです!」
「まぁ、すごい。ラナも立派な神官ね。」
「そうですよ。これからもっともっと訓練して光様をしっかり守れる様になるんですから。」
「ふふ、頼もしいわね。」
私が見ているこの光景はなんだろう。
私と同じ光という名前…どこかで…
そういえば、謁見の間で陛下が初代聖女様の名前が私と同じって言ってたな。
だとするともしかして、あの人って…
もう一度2人を見てみる。
肩までの真っ直ぐな黒い髪、瞳の色は金色だけど、光の反射などで様々な色に変化してる。
そっか、あの人がきっと初代聖女様と呼ばれる人なんだろうな。
すごく優しそうな人だな。
どんな人だったんだろう。
そんの事を考えながら初代聖女様であろう人を見ていると、なんだか不思議な気持ちが湧いてくる。
初めて見る人のはずなのに、何故か懐かしいようなそれでいて、悲しいような気持ちになる。
そして、心が苦しくなって泣き出したくなる。
何故そんな気持ちになるのか困惑していると、
楽しそうに話していた2人の側に、いつの間にか近づいて声をかける人がいた。
「光、ここにいたのか」
「カルム」
カルムと呼ばれた人は黒髪の背の高い男性で、身なりからしてかなり身分の高い人なんだろうな。
「ラナ、神官長様が呼んでいたぞ。早く戻らないとまた叱られるぞ。」
「えぇ!皇太子殿下、ありがとうございます!光様神官長様の所へ行ったら、またお伺いしますからお部屋で待っててくださいね。」
ラナと呼ばれる少女は初代聖女様にそう伝えると2人に挨拶して急いで去っていく。
残された初代聖女様と当時の皇太子殿下であるカルムはラナの様子を微笑ましく見送った後、2人はそのまま花畑に座り話し始める。その様子はとても仲睦まじく、お互いに相手を見る眼差しが温かい。きっと2人は恋人同士だったんだと思った。
全く知らない人達のはずなのに、私はそんな2人の様子を見るのが楽しく、とても嬉しいと思ってしまった。
そんな2人をしばらく見ていたら、徐々に目の前の光景がぼやけ始めた。
もっと見ていたいのにと思って、待ってもう少しと思っていると、一気に何かに引っぱられる感じがして、怖くなって必死に目を閉じて何かを掴む。
「キャッ」
急に声が聞こえてびっくりして目を開ける。
キョロキョロ周りを見てみると、私が昨日案内された寝室で窓から差し込む日差しは柔らかく朝の様だった。
そして、私はベッドに横になっていてリリーの袖を思い切り掴んでいたらしい。
「光様、おはようございます。」
リリーは思い切り私に袖を掴まれているのに嫌な顔せず笑顔で挨拶してくれる。
私は慌てて
「ごめんなさい!」
謝り手を離す。
「びっくりはしましたが大丈夫です。どんな夢を見ていたんですか?」と尋ねられる。
もちろんはっきりと覚えていたけど、なんだか話さない方がいい様な気がして
「何の夢だったのか覚えてないの。」と苦笑気味にごまかす。
「そうなんですね。起きると何の夢だったのか覚えてない事はよくありますよね。」
特に疑問に思われる事なく納得してくれる。
「朝のお支度の準備をさせていただきますね。」
顔を洗う為の容器や水、タオルなどを準備してくれている。
さっと顔を洗いフワフワのタオルで拭く。
「光様、少しお顔をマッサージさせていただいてもよろしいですか?」
朝からマッサージって贅沢だなと思いながら顔を触る。
そこで、あっと気付く。
もしかして、昨日泣いて寝たから目元腫れてしまってるのに気づかれたかなと少し気まずくなったけど、リリーはそこには触れずに
「昨日はお食事も眠るのも遅くなってしまったので、水分が滞ってしまってますからね。そうだ、本日は、宮殿のご案内や庭園の散策はどうですか?」
笑顔で提案してくれる。
私はさりげない気づかいに感謝しながら
「朝はよく顔がむくんじゃうんです。マッサージしてくれるなんてすごく贅沢です。それに宮殿の中もなかなか見る機会もないし楽しみです。」
笑顔で答える。
リリーのマッサージは思っていたより顔も心もスッキリして癒された。
ほんと朝からこんな風にしてもらえるなんて、すごい贅沢。こんな経験出来ないからそこは正直に感謝しよう。
マッサージ後の着替えでは、動きやすい服がいいとの希望を聞いてくれて、足首までの長さのクリームイエローのワンピースを着せてもらった。袖がパフスリーブになっていて、ウエストはキュッと太めのベルトで閉める形の服で、襟や袖口に繊細な刺繍がされていて可愛い。
正直コルセットを着けて動きづらいドレスを着ないといけなかったらどうしようかと思ってたから、こういう服装もあってホッとした。
着替えた後気になって聞いてみたら、さすがにこっちの世界では女性はパンツを履くという習慣はないみたい。
ジャージやミニスカートは論外だろうな。
朝食も私が普段どんな物をどれぐらいの量食べるのか聞いてくれて、サラダや果物、スクランブルエッグやトーストだと答えると同じ様に用意してくれた。
もちろん味や見た目は比べ物にならないぐらい完璧だった。
美味しい朝食を食べながら、食べる物が元の世界とそう変わらないってすごい大事な事だなと改めて思う。
よく、海外旅行に行って料理が合わないと大変って聞くしね。
ちなみに飲み物は、こっちでは果実水や紅茶、コーヒーが一般的な飲み物でお茶はないみたい。
朝食を食べて食後の紅茶を飲んでいると、ミラが今日の予定を確認してくれる。
「光様、今日は滞在されている宮殿を案内させていただく予定でよろしいですか?せっかくなら図書館や庭園を散歩するのも良いかと思います。」
この世界に来て、ただ嘆いて帰りたいと言っているだけなのは嫌だなと思っていたし、せっかくなら自分の目でいろんな物をみて感じたいと思っていたからありがたいなと
「ぜひ、お願いしたいです。でも、誰に案内してもらうといいの?」
「宮殿といえば、一番よく知っている方にお願いするのが良いかと。」
ニコニコとミラが答えてくれる。
誰の事だろうと首を傾げていると
コンコンと部屋をノックする音が聞こえた。
「あら、ちょうど良いタイミングで光様のお迎えに来てくださったのかもしれませんね。」
ミラが嬉しそうに扉へ向かう。
扉を開けて部屋へ入ってきたのは、ランドルだった。