今になって気付く事
私が召喚後に案内された部屋へ戻ると、その時私の世話をしてくれていた3人が待っていてくれた。
「「「光様、お帰りなさいませ。」」」
笑顔で3人それぞれ出迎えてくれる。
「ただいま戻りました。」
ちょっと照れながら返事をする。
「光様、改めてご挨拶させていただきます。この度光様の専属侍女を任せていただくこととなりました、私ミラ、サーシャ、リリーです。少しでも快適に過ごせるよう精一杯努めさせていただきます。」
3人共姿勢を正し、表情を引き締めて挨拶してくれる。
私は慌てて
「不安でいっぱいだった私にとても優しく接してくれた皆さんが一緒にいてくれるのはとても心強いです。私こそご迷惑をたくさんかけてしまうと思うけど、よろしくお願いします。」
深々と頭を下げると
「光様、頭をあげてください」
ミラに慌てて言われる。
「光様は私達が仕える方になります。下の者に頭を下げられると私達は主人に頭を下げさせたという事になります。どうか、その様に頭を下げないでください。」
と懇願されてしまった。サーシャとリリーもミラの横で思いきり首を縦に振って頷いている。
「そうなんですね。私はお世話をしていただくのできちんと挨拶しないとと思ったんですけど、それがミラ達の立場を悪くしてしまうなら気をつけますね。」
「ふふ、光様はとても素直でお優しい方ですね。では、お優しい光様にもう一つお願いがございます。私達への話し方も畏まらずに話してくださいませ。これから、いろんな方とお会いする機会が出てくると思います。その時に侍女に敬語を使っていると光様の立場が弱いと受け取られる場合がございます。光様の為にも私達や下の者には敬語を使うのを控えてくださいませ。」
「そうなんですね。無意識に敬語を使うクセがついてしまってて。すぐには難しいですけど、がんばります。」
グッと両手を握って話すと3人共温かい目で見てくれる。
「さぁ、少し話が長くなりましたが、お疲れになりましたでしょう。軽めにお食事を用意させていただいております。こちらへどうぞ。」
部屋の奥に大きな窓があり、その側にテーブルと1人掛けの椅子が配置されていてそこへ案内される。
座ると窓から庭園が見える。
夜なので、あまりはっきりとは見えないけど、とても広くどこまで繋がってるのかわからないぐらい。
きれいに剪定されている木々に暗くて色がはっきりわからないけど、様々な花々がバランスよく植えられている。
明るい時に見れたらすごく綺麗だろうなと思っていると、食事が運ばれてくる。
温かい湯気が出ているスープに様々な野菜を使ったサラダ、フワフワのパンに柔らかそうなお肉をサーシャが並べてくれる。
ずっと緊張していて、お腹が空いた感覚もなかったけど、美味しそうな匂いを嗅いでいると空腹だったのを思い出したのか、お腹がいいタイミングで鳴る。
「ふふ、お腹が空いてそうで良かったです。こちらの世界のお味がお口に合うと良いのですが。もし、何かご希望がありましたら遠慮なくおっしゃってください。」
お腹の音が聞こえたのか、少し笑いながらサーシャが優しく話してくれる。
「ありがとう、いただきます。」
テーブルマナーはわからないけど、多分外側から使うんだよねと少し挙動不審になりながら、食事を始める。
スープはすごくまろやかで優しい味のポタージュ、サラダも新鮮でシャキシャキ、もちろんお肉も焼き加減が絶妙でこんな柔らかいお肉初めて食べる。
どの料理もすごく美味しい。
量が多かったので、食べられるかなと心配していたけど、気づいたらペロリと完食してしまっていた。
もちろんデザートも残さず美味しくいただきました。
お腹がいっぱいになると人間眠くなってくるよね。
私があくびを噛み殺していると、リリーがその様子に気づいて、
「光様、お着替えをしてお休みなさいますか?」
と声をかけてくれる。
「うん、お腹もいっぱいになってなんだか眠くなってきちゃった。」
私がいる居間の隣に寝室があるらしく、寝室へ移動し着替えを準備してもらう。
普段通り自分で着替えをしようとすると、リリーに私の仕事に何か不安がありますか?と悲しそうに言われたので、恥ずかしいけど着替えもお手伝いしてもらう事になった。誰かに着替えさせてもらうなんて小さな子どもの時以来だなと思っていると、何かが込み上げてきそうになり慌てて首を振る。
「光様、どうかされましたか?」
私の行動にリリーはびっくりして尋ねてきたので、
「ううん、なんでもない」
笑顔を作る。
ダメダメ、今はダメと自分に言い聞かせる。
高級そうな肌触りの良い生地で作られたワンピース型の寝衣に着替えさせてもらった後、おやすみなさいませと言ってリリーは退室した。
私は大きな天蓋付きのベッドに腰を下ろした。
この世界に来て初めて1人になれた。
ふぅ、と息を吐きながら寝室を見回してみる。
自分の部屋が何個入るんだろうと考えるぐらいの広い部屋、細かな装飾のされた鏡台に何かちょっとした作業が出来るぐらいの机、庭に面した窓には外に出れるようバルコニーがある。
何もかも、今まで自分が暮らしてきた場所とはかけ離れすぎて現実味がない。
何も音のない部屋、今まではテレビを見たり、ラジオを聞いたり、スマホをいじったりしていたのにこの世界にはそういう物が何一つない。
シーンと静まった部屋にらいるといろんな事を考えてしまう。
たった1日で全てが変わってしまった。
何もかも知らない世界、家族も友達も誰も居ない世界、こんなに心細いなんて…
自分の両膝を両腕でグッと抱き締めて身体を縮こませる。顔を腕にぐりぐり擦り付けて少しでも、1人の寂しさや寒さを紛らわせる。
元の世界は一体どうなってるの?
お母さんは?お父さんは?
私が居なくなった事をどう思ってる?
私はここにいるよ…
帰りたい、あの毎日平穏な日々に戻りたい…
毎日退屈だと感じていた学校、面倒だなと思いながら受けていた授業や嫌味な先生、少しは勉強しなさい、手伝いなさいって口煩く言われていた家、全てが幸せな日々だったのに今更気づくなんて…
目頭が熱くなって堪えきれなくなった涙はどんどん溢れてくる。声を上げて泣きたいけど、自分が泣いてる事に気づかれたくないから我慢して声を押し殺す。
どれぐらいそうしていたのか、いつの間にか泣き疲れて眠ってしまっていた。