聖女の力って怖いです
私の感情がこの国に大きな影響を与えるって何?
私の気持ちで良くも悪くもなるって事?
そんな怖い状況なの?
何て言っていいのかわからず黙っていると、私の目の前に立っていた綺麗な男性は、ふぅと息を軽く吐き皇帝の側へ戻っていった。
ざわついていた周りも徐々に落ち着き、先程薄く壁が出来ていたのが、今は何もなかったかのようになくなっている。ただ、みんなの服装がやや乱れているのが目に入ったが気づかなかった事にしよう。
自分でも何でそこまでなったのかよくわからないけど、さっきまですごい怒りやいろんな不安とか負の感情でいっぱいだったのに、それが落ち着いて冷静になれてる。
だから、もう一度きちんと話をすべきだよねと気持ちを奮い立たせて皇帝陛下に顔を向けると、先程の綺麗な男性と何か話していた。
私の視線に気づきこちらに顔を向けてくれる。
「光殿、ひかるそなたの気持ちをきちんと汲み取る事が出来ず、わかっているつもりでいた事を申し訳なく思う。この国について、聖女についてを早急に伝えようとしすぎてしまった。まずは、落ち着く事が必要だろう。安全の為にもそなたの身をこの宮殿で預からせて欲しいがどうだろうか?」
国の一番偉いはずの人が命令ではなく、私の気持ちを確認してくれる。
私はさっきの自分の取り乱しが恥ずかしくなり、
「さっきは取り乱してしまってごめんなさい。この世界の事を何も知らないので、どうかよろしくお願いします。」
そう返事をすると、少しホッとした表情をして
「では、光殿の部屋を準備させていただこう。あと、何かと不便だろうから、専属の侍女をつけさせよう。」
と視線を左へ移し皇帝陛下と同じ年代の男性が返事をして手配を始める。
その様子を見ていると、皇帝陛下は少し言いにくそうに
「ここからは少し大事な話をさせて欲しい。先程そなたが感情の波に呑まれそうになっていた事についてだが…難しいとは思うが、出来る限り負の感情に支配されないように心がけて欲しい。聖女が負の感情に支配されてしまうと先程の様に周りを巻き込んでしまい、酷くなると全てを破壊してしまう程の力の暴走が起きてしまうのだ。そうなってしまうと、誰も止める事が出来ない。それ程聖女の魔力は桁違いなのだよ。」
と少し苦笑気味に話される。
え?聖女の魔力ってみんなを救う力だけを持ってるわけではないの?
破壊の力も持つ聖女ってどんな存在?
混乱していると、
「力という物は必ずいい面と悪い面が存在する。この世界に存在する魔力もそうだ。例えば、火だと水を暖める、寒さを和らげるなど良い面もあれば、攻撃的な物に使われる悪い面もある。水や風もそうだ。そして、光殿は全属性の魔力が備わっている為、闇属性の魔力も持っている。先程の現象は負の感情によって闇の魔力の悪い面が出てしまったのだ。しかし、我が息子が同じ闇属性魔法を使える為、負の感情を鎮め、安らぎを与える魔法を使った事で事なきを得たのだよ。」
と詳しく説明してくれる。
だから、さっきあんなに負の感情に呑まれそうになってたのが落ち着いたんだ、と納得する。
そして、私を助けてくれた男性が何者か確認する為
「あの、さっき私を助けてくれたのって…」と訊ねると
「私の息子だよ。」と笑顔で答え紹介してくれる。
皇帝陛下の横に立っていた綺麗な男性が、
「皇太子のランドル・ル・メイユール・クレールです。」
と自己紹介してくれる。
「さっきは助けてくれてありがとうございます。」
私は慌ててお礼を言うと
「いえ、お役に立てて何よりです。それにしても、歴代の聖女様と違い光殿は感情豊かな方の様ですね。」
笑顔で言われたけど、何だろういい気分ではないなと思って少しムッとするが、皇太子ランドルは何故か落ち着いた笑顔を保ちながら、少し口の端がピクピクしている。
何がしたいんだろ、読めない人だなぁと怪訝な表情をしていると、
「先程父が説明したように私は闇属性の魔法が使えます。なので、もし良ければ私が魔力コントロールの使い方をお教えするのはどうでしょうか?」
と提案してくれる。
確かにさっきは助けてくれたし、ありがたい提案なんだけど、なんとなくあまり関わり合いなるのは避けたいなと思っていると
「私なら、この国の事も聖女様の事もお教え出来ますし、魔力量も多いので何かあってもある程度の対処は出来ますよ。」
更に自分をお勧めしてくる。
「何より私もこの国の皇太子として、少しでも光殿のお役に立ちたいのです。」
徐々に前のめりになってきたところで、
「ランドル。」
やや疲れた表情をして皇帝陛下が声をかける。
皇太子様はハッとなって表情を引き締め、姿勢も整えてる。
「光殿、すまない。ランドルは聖女様と会えるのを楽しみにしすぎて少し落ち着きがなくなっているみたいだ。」
と言ったあと、ふむと右手で自分の顎を撫でながら何かを考え、
「まぁ、確かにランドルは魔力の扱いには長けているし、いい方法でもあるな。光殿さえ良ければ、ランドルにこの国でそなたの対応をさせようと思う。神官長、そなたはどう思う?」
ずっと黙って私達のやり取りを聞いていた神官長さんは、
「良い判断だと私も思います。神官達は光の神クラルテ様に遣える者達の為、闇属性の者がおらずコントロールをお教え出来ません。そうなると皇太子殿下が適任かと。ですが、魔力コントロール以外については、出来れば私共や陛下が選ばれた方にお教えしていただくのが良いかと。」
「うむ、確かにランドルでは偏った説明をしそうではあるな。それに、ここで過ごす為には様々な事を知っていく必要があるからな。」
皇帝陛下の言葉に、ランドルは少し眉を寄せていたけど無視して、皇帝陛下と神官長は話を進めていく。
「では、神殿からから光様へお教えする役を担うのは…」
言いながら、一緒に来た神官達を確認し
「アン、そなたに頼むとしよう。」
私はその名前を聞いて、もしかしてと神官達を見ると
「喜んでお受け致します。」
前に出てきてくれたのは、私がこの世界に召喚されて心細い時に優しくしてくれた人だった。
「光様、どうぞよろしくお願い致します。」
丁寧に頭を下げてくれる。
「私こそ、どうぞよろしくお願いします。」
つられて私も頭を思い切り下げて挨拶する。
その様子を確認後、
「では、時間も遅くなった。後はこちらに任せて光殿はゆっくり休んでもらおう。」
皇帝陛下の言葉で周りがさっと動き出し、私は初めに案内された部屋へ戻る事になった。