身を委ねよう
年配の神官さんの提案で、私は羽織物をかけてくれた女性神官さんに案内され、ダンスホールの様な場所から移動する事になった。もちろん、移動する時にはしっかりと羽織物で体全体を覆い、履き物も履かせてもらって。
ずっといろんな視線が自分に突き刺さっているのが怖くて、なるべく視線を下に向けながら扉に向かっていたら、
一際豪華な服を着ている男性が視界の隅に入り、視線を向けるとその男性も私を見ていたのか目が合った。
私が拾った石が放つ光と同じ金色の瞳、私がずっと生活してきた世界ではよく見かける黒色の髪、顔は今までテレビや雑誌で見たどの俳優よりも桁違いで綺麗な顔立ちをしている。
普段の私ならこんなにかっこいい男性を見たらテンションも上がるだろうけど、今はさすがにそんな気持ちにもならず、ただ綺麗な人がいるなぁとしか思わない。
普通は目が合うと何かしらの反応があるはずなのに、その綺麗な男性は私を無表情でじっと見つめているだけで、私はあまりにも見つめるのでなんだか怖くなり、目を逸らしてしまった。向かうがどう思ったのかわからないけど、考えないようにして、そこからは誰とも目を合わせずにホールを後にした。
女性神官さんに案内された部屋の前には、侍女さんらしき人が3名並んで立っていて、私達がくると部屋の扉を開けて中へ案内してくれた。部屋の中は物凄く広く、床にはふかふかの絨毯が敷かれ、中央に低めのテーブルとその両端に高級であろう3人掛け椅子と1人掛け椅子が2脚設置されている。天井には豪華なシャンデリアがあり、奥には大きな窓が設置され外からは夕方なのか夕陽が差し込んでいる。どうにも居心地が悪く中へは進まず扉の側で立っていると、女性神官さんが「聖女様、お体も冷えているかと思います。まずは湯に浸かり、着替えをしてゆっくりなさってください。また、後ほどお伺いさせていただきます。」と声をかけてくれ、侍女さん達へこの後の段取りを説明後、部屋から退出しようとしていた。私はさっき羽織物をかけてくれたお礼を伝えたくて、「あの…」と声をかけたが、何て呼んでいいかわからず困っていると、察してくれたのか女性神官さんは「聖女様、私はクラルテ様に遣える神官をしております、アンと申します。」と名乗ってくれた。クラルテ様というのがどの様な人なのかは置いておき、私はアンさんに「さっきは助けてくれてありがとうございました。」とお礼を伝えた。アンさんは優しく微笑みながら、「当然の事をしたまでです。」と返してくれ、それではと退出していった。
アンさんが退出してからは、侍女の方がそれぞれ自己紹介をしてくれた。一番歳上で私の母ぐらいの人がミラ、20代後半ぐらいの人がサーシャ、私と同じか少し上ぐらいの人がリリーと名乗ってくれた。「どうぞ私達の事は気軽にお呼びください。」とミラが言ってくれる。私も名のならないとと「私は園家光と言います。私の事も気軽に光と呼んでください。」と自己紹介をした。みんななぜか優しい表情で私の事を見ていて、一番歳上のミラが「では、光様とお呼びさせていたます。光様、まずはお風呂に入りましょう。お手伝いさせていただきます。」と声をかけサーシャとリリーが素早くお風呂の準備を始め、浴室へ連れて行かれた。
浴室は石の床の上に大きな猫足のバスタブが置かれている。普通に大人2〜3人は余裕で入れそうだなと思っていると、リリーが「光様、羽織物を取りますよ。」とさっと取ってしまった。えっ?とビックリしていると、さぁさぁとバスタブに入れられる。何か言おうとする前に手際よくサーシャとリリーに頭や体を洗われ、恥ずかしいと思う間もなく気づけばマッサージまで受けていた。誰かに体を洗われるなんて子どもの時の母親以来だし、ましてや、他人に隅々まで洗われるなんて普通じゃ恥ずかしいすぎるはずなのにあまりにも慣れていて、手際がいいから自分を委ねてしまってた。恐るべし侍女達と思っていると、サーシャが「光様、ご不安な事ばかりかと思いますが、私達は光様が少しでも心地良く過ごせる様にする為にいます。なので、難しいかとは思いますが、私達には気を遣わずに接してくださると嬉しいです。」と言ってくれた。リリーもうんうんと頷いている。不安な気持ちでずっと気を張っていたからか、優しさがすごく嬉しくでちょっと泣いてしまった。
お風呂後は、用意してくれていた服に着替えさせてもらったけど、その服が、白の足首まで隠すストレートワンピースで首元はハイネック、腰は布ベルトの様な物で軽く絞られていて、首元から胸元、袖口、裾にら金地の刺繍が施されており、清らかさの象徴の様な服だった。そんな畏れ多そうな服に着替えるのをだいぶ渋ったけど、上手く説き伏せられて着る事になってしまった。髪は背中の途中まであるロングヘアだから綺麗に髪を整えておろしてくれている。3人共すごく褒めてくれたけど、私としては、ほんと勘弁してほしかった。
お風呂の間にミラがお茶やお菓子を用意してくれていて、そういえば、元の世界でお風呂入っていた途中でこっちに連れてこられたから、喉もかわいたし、少しお腹空いたなと思っていたからありがたくいただく事にする。
お茶やお菓子は元の世界の物とそう変わらず、紅茶とケーキやクッキー、スコーンなどがあり、それぞれの名前も同じだったので食べれないかもと困る事もなかった。
紅茶を飲んでいるとようやく、少し今の状況を考えられる様になってきたのか、一気にいろんな事を頭が整理し始めた。






