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貴女を手にする悪巧み

作者: 紫葵

 華やかな夜会に、領主の娘エリサは一際目を引く存在だった。聡明で美しい彼女には、次々と貴族たちが声をかけていたが、エリサはどこか冷めた目でその光景を眺めていた。「皆、結局は私の家柄が目当てなのよ」と、彼女は感情を見せない。


 そんな彼女に、密かに思いを寄せているのが、若き貴族ロレンツォだった。彼はただの告白ではエリサの心を動かせないと考え、ある『悪巧み』を思いつく。だが、そのやり方は彼女を驚かせ、楽しませるためのものだった。




 まずロレンツォは、エリサに自分の存在を少しずつ印象づけることから始める。ある日、夜会の後、彼女が話していた本についてさりげなく話しかけることにした。


「エリサ、あの本について話してたけど、読んだことがあるんだ。結構深い話だよね」と、控えめなトーンで声をかける。


 エリサは少し驚いた表情を見せる。「あなたも読んでいるなんて意外ね。そう簡単に理解できる内容じゃないと思ってたけど?」


 ロレンツォはにっこりと笑い、「僕も同感だよ。でも、何度か読み返してやっと掴めた感じかな。もしよかったら、感想を聞かせてくれる?」


 エリサは興味を引かれながらも、「少しなら、話してもいいわ」と控えめに返答。彼女にとって、ロレンツォは少しずつ「ただの貴族の一人」という認識を超えつつあった。


 


 ロレンツォは次に、エリサが何か困ったときに偶然助けるという『偶然』を演出することに決めた。ある日、エリサは夜会で音楽家に頼んでお気に入りの曲を弾いてもらおうと考えていたが、タイミングが合わずに不満げな表情を浮かべていた。


 そこでロレンツォは、さりげなく音楽家に近づき、「あの曲、エリサが大好きなんだ。次の演奏で弾いてくれないか?」と頼んでみた。音楽家は快く承諾し、その場ですぐにエリサのリクエストを叶えた。


 曲が流れ始めた瞬間、エリサは驚いた顔をしたが、すぐに微笑んだ。ロレンツォはその場にいながらも、彼女に気づかれないよう遠巻きに観察していた。


 夜会の後、エリサが偶然ロレンツォと出会ったとき、彼女は不思議そうに尋ねた。「あの曲、まさかあなたが?」


 ロレンツォは軽く肩をすくめ、「偶然だよ。でも君があの曲を楽しんでくれたなら、それで十分さ」と、笑顔で返した。


 エリサは少し戸惑いながらも、心の中で(この男、少し面白いかもしれない)と感じ始めた。


 


 次にロレンツォが企てたのは、エリサに『小さな思い出』を植え付けることだった。ある日、彼はエリサが頻繁に通う図書室で、わざとペンを忘れていく。そして、そのペンには家紋が彫られており、持ち主が誰であるかがすぐにわかるようにしておいた。


 翌日、エリサがそのペンを見つけ、図書室で出会ったロレンツォに声をかける。「これ、あなたのペンじゃない?」


 ロレンツォは驚いたふりをして、「ああ、それだ!探していたんだ、ありがとう。君に見つけてもらえるなんて運がいいな」と微笑む。


 エリサは微笑み返し、「忘れ物には気をつけないとね」と言いながら、彼とペンを通して会話を続けるきっかけが生まれた。ロレンツォは、何気ない仕掛けでエリサとの距離をさらに縮めていった。


 


 ロレンツォは、エリサが庭で落としたリボンを見つける機会を利用しようと考えていた。彼女は庭園で花を摘んでいる最中に、お気に入りのリボンを落としてしまった。ロレンツォはそれに気づき、さりげなく拾って彼女に声をかけた。


「エリサ、このリボン、君のじゃないか?ここで見つけたんだけど」と、穏やかに差し出す。


 エリサは驚きながらも微笑んで、「あら、ありがとう。気づかなかったわ」とお礼を言った。


「いつも素敵なリボンだと思ってたから、目についたんだ」とロレンツォが軽く冗談めかして言うと、エリサは少し照れながら「そんな風に見られていたなんて知らなかったわ」と返した。これにより、二人の会話はさらに自然なものとなり、ロレンツォはエリサに対する印象を確実に深めた。


 


 ロレンツォはエリサが好きな花をさりげなく覚えておき、ある日、彼女が特に疲れている様子を見て、さりげなくその花を贈ることにした。だが、あくまで控えめに、名前を出さずに庭の職人に頼んで、エリサの部屋に花束が届くようにした。


 エリサはその美しい花束を見て驚き、誰が贈ったのかを考えたが、手がかりがなく、ただその美しさを楽しんだ。その後、彼女がその花束について話題にすると、ロレンツォはそっと笑みを浮かべて、「君がそれを好きだと知ってたから、庭の職人に頼んでみたんだ。僕が送ったなんて言わなかったかな?」と軽く冗談を言った。


「そうだったの?」とエリサが驚きながらも、心の中でロレンツォの心遣いを感じ、彼に対する好感をさらに抱くようになった。


 


 ロレンツォの悪巧みは、エリサに『偶然』を演出し、彼女の好みに合わせて彼自身を印象づけることで進行していた。そして、最終的にはエリサ自身が彼に対して興味を抱くように仕向ける。


 ある日、二人は静かな庭園で会話を楽しんでいた。その日、ロレンツォは自然な流れで彼女に告白することを決意する。


「エリサ、君とこうして話していると、時間があっという間に過ぎていく。君は他の誰とも違うんだ。僕にとって、特別な存在だよ」と、彼は真剣な目で言った。


 エリサは一瞬驚いたが、彼の誠実な表情に心が動いた。これまでのさりげない優しさと自然な接近により、彼に対する信頼感がすでに芽生えていたのだ。


「あなたがこんな風に思ってくれてるなんて、正直驚きよ。でも…あなたといると、私も悪くないと思うの」と、彼女は微笑みながら答えた。




 こうして、ロレンツォの悪巧みは見事に成功し、エリサとの関係は深まっていった。彼の計画は緻密であったが、決してエリサに恐怖や不安を与えるものではなく、むしろ彼女を楽しませ、自然に引き寄せるものだった。


 ある日の夕暮れ、二人は再び庭園で共に過ごしていた。ロレンツォはエリサに目を向け、穏やかな声で言った。「これまでのいろんな偶然が、僕たちをここまで近づけたんだね。」


 エリサは彼の言葉を聞いて、少し微笑みながら答えた。「偶然だったのかしら?あなたが少し仕掛けていたのは、なんとなく気づいてたわよ。」


 ロレンツォは一瞬驚いたが、すぐに笑顔を見せた。「さすがだね、エリサ。でも、君がそれを楽しんでくれてたなら、それが一番だ。」


「まぁ、悪くはなかったわ」とエリサは冗談交じりに返し、さらに微笑んだ。彼女の心にはすでにロレンツォへの信頼と愛情がしっかりと根付いていた。


 そしてロレンツォは、そっと彼女の手を取って言った。「これからも、君のそばでこうしていたい。」


 エリサはしばらくロレンツォの顔を見つめ、静かにうなずいた。「その悪巧み、しばらく続けてもいいわよ。」彼女の言葉に、ロレンツォは再び笑みを浮かべ、二人はこれからの未来を思い描きながら、穏やかな時間を過ごしていった。


 それは、彼の思いやりと工夫が結実した、微笑ましい恋愛の始まりだった。

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― 新着の感想 ―
 相手の反応をきちんと見て、押し引きのタイミングを測るのって人間関係でとても大切なスキルですよね。  もしよくある作品のように「エリサが嫌がっているのに周りをちょこまかする」とかだと単なるストーカーで…
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