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Act.17 戸惑う氷地は悲嘆に暮れて・3

「分からない・・・人間が光に変換されて消し飛んでしまったような、まるで手品だ・・・」


「人が結晶化したり、光になって消滅するって、ここは何て惑星(ほし)なのよ・・・!」


「見てみろ、ネルガレーテ」違う画面の映像に、ジィクが目を向ける。「ここのセキュリティが出て来た。武装ギャリア(汎用重機)だ」


画面の奥に立ち並ぶデッキ・タワー(塔櫓)の、一際(ひときわ)大きいホッパー(漏斗型)シューターの陰から、試掘坑で襲って来たのと同型の、オリーブドラブに塗られた6輪の武装ギャリア(汎用重機)が、2台姿を見せていた。施設の保安警備用なのか、さすがにロケット弾ランチャー(発射架)は架装していない。


扇のような大きな触手を波打たる白い巨獣が、画面手前側を右から左へ次々と複数の列を作って横切っている。距離は30メートルほどだろうか、武装ギャリア(汎用重機)の腕が持ち上がり装備された連装レーザー砲が照準を始めた事に、氷表を泳ぐ白い巨獣たちは全く注意を払っていない。


射撃はいきなり始まった。


不可視のエネルギー弾が、クローリング・エンジェル(這う天使)の巨体に難なく突き刺さる。


最初の一撃を浴びたと思われる、一番向こう側の列の1頭はそのまま通り過ぎたが、次のエンジェルは2輛の砲撃をもろに浴びた。呻くように鎌首が持ち上がり、白い巨体が不規則に蠕動(ぜんどう)して、爬行(はこう)の速度を落とす。負傷した1頭が歩みを遅らせた事で、後続のクローリング・エンジェル(這う天使)たちが次々と行き場を失い、立ち往生し始める。


何時(いつ)の間にか姿を見せたセキュリティたちが、ギャリア(汎用重機)の脇から白い巨獣目掛けて射撃を浴びせ始めていた。白い巨獣たちが、座礁した船舶宜しく身動きが取れなくなって、累々と一塊(ひとかたまり)に集して行く。


屠所の羊のように群れるエンジェルたちを一網打尽に始末しようと、ギャリア(汎用重機)の1輛が此処ぞとばかりに唸りを上げて突進した、その一弾指(いちだんし)


いきなり画面左から、そのギャリア(汎用重機)向かって、クローリング・エンジェル(這う天使)数頭が体当たりを掛けて来た。流れ込んで来る方向とは反対側からで、一旦行き過ぎたエンジェルたちが何処からかでUターンして来たらしい。


体当たりする相手のギャリア(汎用重機)は、全長こそ巨獣の半分程だが車幅は4メートルを超え、車高も4メートル近く、威圧感では白い巨獣に劣らない。だがエンジェルはそれに怖ける気配を全く見せず、瞬く間に3頭が競うようにしてギャリア(汎用重機)の車体に、一気呵成に伸し掛かる。鋼鉄の塊であるギャリア(汎用重機)は、重量だと白い巨獣の個体の3倍以上はある筈だが、それでも何度か揺さぶられた末に見事に横転させられた。


「さすがに、目から怪光線は出さないのね・・・」


「何だ? そりゃ」


冗談とも付かない真面目そうな口調のネルガレーテに、ジィクが口をヘの字に曲げる。


「──なんて言う、お馬鹿な目撃談があるらしいのよ」


小さく首を振ったネルガレーテは、強張った笑みを浮かべた。


3頭に伸し掛かられたギャリア(汎用重機)は、まるで鳥葬に供された遺骸だった。


クローリング・エンジェル(這う天使)もギャリア(汎用重機)を横転させたところまでは良かったが、その後の動きが取れなくなっていた。ギャリア(汎用重機)の上に乗り上がった3頭が、もがきながら絡み合っている。その隙に、横転させられたギャリア(汎用重機)の操縦者が、這う這うの体で逃げ出した。数名のセキュリティが駆け付け、援護の射撃を始めた、その矢庭。


いきなり画面の外から何かが伸びて来たと思ったら、銃を構えたセキュリティの体を捕まえた。先程見た、漆黒に朱色の毒々しい羊歯(シダ)状のテンタクル(触舌)が、あっと言う間に絡まって、姿が見えなくなったと思ったら、あの目を覆う閃光が爆発し、セキュリティの姿が虚空に消え失せた。


「まただ・・・」ジィクが唸るように声を漏らす。「また、人間が消えた・・・」


画面では援護に駆け付けた残りの2名と、逃げ出したギャリア(汎用重機)の操縦者が、数頭のエンジェルに囲まれていた。ネルガレーテが、何か言葉を口にしょうとした刹那、その3名が次々と長い下顎に捕獲され、抵抗する間もなく羊歯(シダ)状のテンタクル(触舌)に絡まれて、そして光となって消滅した。


「こんな土着生物が棲んでいるなんて・・・」


ジィクが深い溜め息とともに声を上げる。


「アールスフェポリット社は言うに及ばず、ヒゴ社でさえ棲息を確認出来なかったなんて・・・全く謎だわ」


信じられない、と言った顔付きで、ネルガレーテがヒップフラスコ(携帯用酒容器)の酒を一口煽った矢先、腕の通信機が着信を告げる。


「──確保できたわよ、逃げ出すための足」


ユーマの声だった。


「どこまで様子見に行ったのよ・・・?」


「ダイニング・ホール(食堂)下のピロティ(高床)・ガレージよ」


それを聞いたジィクが、監視カメラの画像データのフレームを探り出す。


先程目にしたピロティの、柱の影に停めてある4輪のオフロード・ホィールカー(装輪車輛)の脇に、一際大きな人影が立っていた。


「本当よ、自由に歩き回れるのは」画面の中のジャミラ人は、これ見よがしに上げた手をお茶目に大きく振っていた。「隣のリッジ(棟屋)へ行くには、一番下の階のコリドー(通廊)を通るしかないけど、途中セキュリティとは1人も出会(でくわ)さなかったわ」


「──んじゃ、ネルガレーテ」


ジィクはシステムを閉じ、密着させてあったオペレーティング・インターフェイスを剥がすと、耐寒ジャケットに袖を通しながら、痺れを切らしたように立ち上がった。


「さっさと、アディたちを救けに行こうぜ・・・!」


「シャワーを浴びられなかったのが、残念だわ」


ネルガレーテもヒップフラスコ(携帯用酒容器)を一口傾けると、内懐に仕舞い込んだ。


「──確かに誰もいないな・・・」


少しだけ開いたドアの隙間から、ジィクが左右に目を走らせる。ジィクは右手に小さなブーツナイフを握っていた。刃渡り4.5センチ、薄さ3ミリ、全長でも11.5センチほどしかない、刃柄一体形成の補助武器だ。グリフィンウッドマックが着用しているフィジカル・ガーメントのブーツ部、膝下から外の(くるぶし)までを巻き付くように覆うレガース(脛当)の、右足側に匿装してある。


ドアを開くと、ジィクは跳ねるように飛び出した。


「ホンキィドーリィ(問題ない)」


少しばかり緊張を解いたジィクが、身構えて丸めていた背筋を起こした。


「ダイニング・ホール(食堂)のあるリッジ(棟屋)って、2つ向こうって言ってたわよね」


銀の耐寒ジャケットを羽織ながら、ネルガレーテが姿を見せる。ジィクは頷くと、慎重な足取りで廊下を歩き出した。ちらっと後ろを振り返ったネルガレーテが、足早にジィクの後を追う。


小さなミーティング・スペースの脇を抜け、連れて歩かされた廊下を右に左に折れながら逆順に歩き、ランドリー・スペースの横から階段を下る。


「──ネルガレーテ」先に下るジィクが、ネルガレーテを振り返る。「あんたはあのクローリング・エンジェル(這う天使)が、トトの失踪と関係があると踏んでいるのか?」


「ギルステンビュッテルの言うような途轍も無い発見に繋がる端緒を、トト教授が見つけているのかどうかは、私には見当が付かない」ネルガレーテは困惑の表情で肩を(すぼ)めた。「けど本人が失踪するほどの重大事が、あの得体の知れない白い巨獣に関係しているのなら、ミルシュカを態々呼んだ事に得心は行くわ」


「それで最初は黙ってたんだな、エンジェルの事を、奴らに」


セカンド・フロアにもある共有のリビング・スペースからラウンジを突っ切って、奥に見える隣のリッジ(棟屋)へのコリドー(通廊)へ急ぐ。


此処でも20名以上の採鉱従業員が手持ちぶさたに集い、雑談やカードゲームに興じていたが、先に通らされた最下層のリビングより少しむさ苦しい。胡桃(くるみ)色の肌に白橡(しろつるばみ)色のふんわりヘアを(なび)かせるドラグゥン・デューク(編団頭領)は、特に若造と呼んでも良いような男性(おとこ)連中の耳目を再び釘付けにした。


「──ミルシュカが興味持っちゃったから、話さざるを得なかったけどね」


遠慮ない好奇の視線に、ネルガレーテは不快感を隠さない。


「ただあの画像以外に、これと言ったデータが残っていなかった」


苦い表情で首を振るジィクは、こう言った情欲の混じる視線をネルガレーテが本気で生理的に受け付けないと充分に知っているので、逆撫でするような茶化しは入れない。


「なら結晶化していた、巨人エイリアン(異惑星人)とかの記録は?」


「結晶化した生体は、そもそも生体視覚感覚以外じゃ、認識できないんじゃないか?」


ジィクとネルガレーテは足早にコリドー(通廊)を、隣のリッジ(棟屋)へ抜ける。


「ああ、そうだっけ・・・」ネルガレーテが苦笑交じりに肩を(すぼ)めた。「──そもそも30億年前にも、いえ、“前から”、あんな奇っ怪な現象が生じていたなんて、このピュシス・プルシャって惑星(ほし)って一体・・・」


コリドー(通廊)の先も、隣接するリッジ(棟屋)の同じような公共の溜まり場になっていた。この溜まり場でも、集うレジデンス(居住棟)の採鉱従業員たちが、わいわいがやがやと(かまびす)しい。


「この惑星(ほし)にちょっかいを出すと、天罰が下るんじゃないか?」


ジィクたち2人はそんな連中に目もくれず、とっとと脇を隣のリッジ(棟屋)に繋がるコリドー(通廊)へと駆け込む。ユーマが逃亡用車輛を押さえているリッジ(棟屋)だが、そこはフロア全体が2層の吹き抜けになった、大きなダイニング・ホール(食堂)になっていた。


高い天井の下に、8人掛けの長テーブルが数十脚並ぶ様は、どこかの大学の学食そのものだった。3、4人でグループを作って、てんでに座って食事とお喋りに夢中になっている。ここは男性社員だけではなく女性社員も交じっていて、如何にも楽しそうな雰囲気に()ちていた。


「天罰、ね・・・」ネルガレーテが広いフロアを見渡す。「──あの小難しい理屈捏()ねのセンセイが言ってた、“何とかデーモン”の調査記録とか、研究とかも見当たらなかった・・・?」


「プロセッサ(情報演算処理機器)のデータ・バンク内では、行き当たらなかった」ジィクが、こっちだ、とネルガレーテを促した。「あのピット(採鉱坑)の記録はあったんだが、残っていた掘削進捗のデータ自体も、ある時期を境にして記載が止まっていた」


トレイに食事を盛って席を探す連中を足早に追い越し、テーブル列の間をすり抜け、ドリンク・サーバーの脇から手洗いの横にある階段へと急ぐ。此処では明白(あからさま)に場違いな2人に、大勢の視線が集まる。端正で背が高く、紺青(こんじょう)の長い髪を穏やかに(なび)かせるジィクに気付いた女性従業員たちが、小さく指差しながらこそこそと笑みを浮かべて言葉を交わす。ネルガレーテも男性社員は言うに及ばず、女性陣からは好奇に羨望が交じった視線が向けられる。


「あの他人を信じない嫌みなジャックオフ(ちんこ野郎)の事だわ、機密扱いにしてデータを残さないようにしたのね」ネルガレーテが見せた歯噛みは、当のギルステンビュッテルにか、フロアにいる有象無象の連中にか、量りかねた。「──だとしたら情報自体は、上の“ファック・シット・シート(糞ったれ便座)”ね」


「ファック・シット・シート(糞ったれ便座)?」


ネルガレーテの妙な言葉に、階段を下りかけたジィクが思わず振り返る。


「あら私とした事が下品な言い方を」ジィクの脇の通りすがりに、ネルガレーテは皮肉っぽい笑みを見せ、トントンとリズミカルに階段を下りて行く。「“レフトオーバー(齧り残し)・ドーナツ”だっけ」


「何だ、そりゃ?」


怪訝な顔付きのまま、ジィクがネルガレーテの後を追う。このリッジ(棟屋)のファースト・フロアは厨房とストックになっているらしく、其所は彼となく漂って来る美味しそうな匂いに、思わず鼻腔を(くすぐ)られる。


階段を小気味よく下りた2人は、ウインドブレイク・エントランス(風除け室)から外に出た。


「ギルステンビュッテルが拡げてる大風呂敷通り、こんな現場には残せないほど、あの話の内容や資料を重要視してるって事よ」ネルガレーテは手袋を嵌めながら、周囲の冷気に思わず身震いする。「全く業突く張りな連中に相応しい、ワック(不細工)な箱物よ」


「奴らの、ステーション型の移動支社、ってやつか?」


ジィクもポケットから手袋を出しながら、少し眉根を寄せた。


「──まあ、あんな化け物ステーションがこの宙域に展開してる限り、アールスフェポリット社に勝ち目はないけどね」


灯りの乏しい薄暗いピロティの大きな柱の向こう、厨房搬入用リフトの横に停車している厳ついオフロード車が目に入る。


「けどあんたは、奴らの汚いダートシュート(尻穴)を、ヒールで踏ん付けてやるつもりなんだろ?」


「素っ裸にひん剥いて、氷原に放り出してやる」底意地悪そうな北叟笑(ほくそえ)みで、ネルガレーテが振り返った。「──牝狐サンドラと一緒に」


「そいつは面白そうだ」


「──サンドラをどうするって?」


銀の耐寒ジャケットに手袋をしたジャミラ人が、オフロード車の運転席から巨躯を屈めて降りて来た。


車輛は前後席の6人乗り4輪全輪駆動で、大きなスパイク・タイヤを履いている。先程乗せられたアーマード・パーソナル・キャリア(装甲人員輸送車)のような車輛と違い、フロントウィンドウを含めてガラス面が大きくて、視界が良さそうだ。


「世間の風は存外に冷たい、って骨身に染みてもらうのよ」


軽く肩を(すぼ)めたネルガレーテは、さっさと後席に乗り込んだ。


「あら、楽しそうな余興」にやっと笑みを浮かべたユーマが、車のフロント側から助手席の方に回る。「あのファップジャーク(自慰野郎)には、アディの分まで震え上がって貰いましょう」


「──さあ、いくぞ」


ドライバーズ・シート(運転席)に腰を落とすなり、ジィクがパワー・ペダルを踏み込む。


太く大きなタイヤが一瞬空回りして氷表を蹴り出すと同時に、ネルガレーテが声を上げた。


「ベアトリーチェ、聞こえる?」


その途端、酷い雑音にネルガレーテが思わず顔を(しか)める。


「──また通じなくなってる・・・?」


「明らかに、ジャミング(通信妨害)とは違うな」ジィクが口をヘの字に曲げる。「原因がこのピュシス特有の環境条件なら、ちょっと厄介だな」


「こっちも、その影響かしら」コンソールのインフォメーション・モニタを操作していたユーマが、忌々しそうに言った。「位置情報だと、今、隣のレジデンス(居住棟)の上を走ってるわよ」


「多分そっちは違うだろう」ジィクが苦笑いを浮かべる。「近くに設置してある複数のビーコン(導標)を測量しながら実走行データと組み合わせて、自車位置を割り出してる筈だから、単に精度の問題じゃないか? ジオ・サーフェイス(衛星測位地理的位置情報)システムは、整備されていないから」


「その上に反応も鈍い。ルートは頭に入ってる?」


ユーマが忌々しそうにモニタ画面を指で弾いた。


白夜の(とばり)が降りた外は薄暗く、似たようなリッジ(棟屋)が幾つも並んでいて、ヘッドライトの限られた光源だけでは直ぐに迷ってしまいそうだ。


「ホンキィドーリィ(問題ない)。横のリッジ(棟屋)沿いに進んで、コリドー(通廊)下を抜けた先を右に折れた向こうだ」


そう言いながら、ジィクがステア(操向)を切る。


リッジ(棟屋)の配置は一直線に並んでいる訳ではないので、意外と道順に戸惑う。ヒゴ社のコリドー(通廊)はアールスフェポリット社の基地と違い、施設棟屋のセカンド・フロア同士を結んでいる。架橋位置が高いのは、セキュリティ・ディビジョン(警備保安署)が車高の高いギャリアを、敷地内で運用する事を想定してあるからだ。


急ぐ余り、猛スピードや急ステア(操向)で不審感を(いだ)かれないよう、気を付ける。小さな車輛と擦れ違い、車のヘッドライトが薄暗闇を横切り、車がコリドー(通廊)の下を潜り抜けた矢先、ヘッドライトに照らし上げられたシルエットに、ジィクが反射的にブレーキを踏むのと、フロント・ガラスを手で突っ張るユーマが声を上げたのが同時だった。


「──ギャリア(汎用重機)・・・!」


ヘッドライトの灯火に、試掘坑で襲われた半人半車の姿が浮かび上がっていた。


半ば滑りながらもアンチロック機構が働いた車体が、左右に小刻みに揺れながら氷表にジャリジャリ音を立てて停車する。


急ブレーキに虚を突かれ、ネルガレーテが肩口から前席のシート背に()ち当たった。ギャリア(汎用重機)の姿に、ちッと舌打ちしたジィクが、間髪入れず逃げ出そうとリバース(後進)にシフトし掛けたが、直ぐに手を緩めた。


「悪い、ネルガレーテ」緊張で怒らせた肩を静めたジィクが、申し訳なさそうに後ろのネルガレーテを見遣った。「──追っ手と勘違いした」


「ねえ、あれって、もしかして──」


前のめりに顔を突き出すユーマが、唖然とした表情で声を漏らす。


「ああ、“クローリング・エンジェル(這う天使)”だ・・・」


ジィクのその言葉に、ネルガレーテが前席の間から頭を覗かせた。


フロント・ガラスの向こうには、1輛のギャリア(汎用重機)が背を向けていた。その周囲には三脚の赤いデリネータ(保安誘導灯)が立てられ、十数名の作業員が皆同じ方向を見詰めている。その視線の先には、少しばかり宙に浮いた白い巨獣の体があった。


全長10メートル、高さは2メートルを超えている。鰭脚海象(セイウチ)鰭脚海馬(トド)みたいにも見え、足があるのかどうか判別が付かない。


初めて目にする“クローリング・エンジェル(這う天使)”の容姿に、想像と違ったのか、ユーマは口をヘの字に曲げている。ジィクも不鮮明な映像を目にしただけなので、実物を目にするのは初めてだ。


「何やってるの? あれ」


ネルガレーテの言葉に、ユーマ同様に腰を浮かせていたジィクが、フロント・ガラス越しに上を見遣った。


ギャリア(汎用重機)の向かいに停車するクレーン車が、10メートル近い白い巨獣を釣り上げ、脇に停車している大きな資材運搬用トラックのフラットデッキ(平荷台)に載せようとしていた。





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 written by サザン 初人(ういど) plot featuring アキ・ミッドフォレスト

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