Act.14 鉄火のプランセス・デ・ネージュ(雪子姫)・1
「オールファイン・ノーケア(大丈夫、心配いらない)!」
そのリサの声が耳朶を打つと同時に、アディのがトラックベルト(履帯)・モーターサイクルをぐいっと左へ転進させる。
時速100キロをあっと言う間に超える。氷表の小さなモーグル(こぶ)を越える度、車体が軽くどころではない程に跳ね飛ぶ。
アディがちらりと後ろを振り返る。
ファイア・バーキー(非装甲戦闘車輛)のドライバー、ターヘルが時折り半身を覗かせて、ペッパーガンらしい銃撃を浴びせて来るが、アンジュレーション(起伏)に速度が出ている上、運転しながらでは目瞑撃ちと然して変わらず、脅しにも為らない。
アディは、バーキー(非装甲戦闘車輛)を走行可能な状態で奪い取ろうと目論んでいた。車体への直接ダメージを極力与えず、ドライバーだけを排除したい。車高の低いモーターサイクルで走行しながらでは、射角度的にドア越しでドライバーを撃ち斃せない。どうしても車輛自体に飛び乗る必要がある。
ドライバーの死角になる車輛右後方から迫りたいが、銃を振り回すドライバーは、常にアディを運転席のある左側から追い込んで来るため、アディは右に位置取りできない。
「──見てろよ、サンボの虎バターにしてやる・・・!」
右手奥に見える一際太い幹の巨木へと、アディが履帯モーターサイクルのボリューム・ノブを煽る。
巨木への回り込みを巧く使い、幹陰で相手の目線を切った隙にターンし、すれ違いざま再度ジャックナイフ・ターンでバーキー(非装甲戦闘車輛)の右背後を取る──そのために巨木の陰に飛び込むと同時に、リアを滑らせながら巨木の幹から1メートルと開かずに回り込む。
ずりずりとリアを滑らせながらも、アディは履帯モーターサイクルを幹陰に勢い良く回り込ませる。バーキー(非装甲戦闘車輛)からの目線が切れた隙を突き、アディが体重を前に掛けながら、軽くブースト・ノブを煽る。トラックベルト(履帯)・モーターサイクルのリアが浮き、フロント立ちになると同時に、ステア(操向)ペダルをでノーズを僅かに傾けた。履帯モーターサイクルの車体がフロント部を起点に、ジャックナイフターンでくるっと向きを変える。
すかさずアディが腰を落とすと、トラックベルト(履帯)が再び氷地に着いて正立する。
と同時に、正面左手の方向20メートル向こうに、横滑りを起こしながらも強引に向かって来ようと、氷表を蹴り上げ氷粉を巻き上げているバーキー(非装甲戦闘車輛)の姿が目に映る。間髪入れず、アディがブースト・ノブを煽った。
2秒と掛からず、バーキー(非装甲戦闘車輛)の右側、幹との間隙を駆け抜ける。ドライバーの座る運転席側からは射線の死角なので、銃撃はない。すれ違いざま、アディが再びジャックナイフ・ターンで向きを変える。これでバーキー(非装甲戦闘車輛)には右後方から追い付いて、荷台に飛び移れる。
そう目論んだ、2度目のジャックナイフ・ターンの最中だった。
赤い車体影が目の端に映る。距離にして50メートル。
“──新手か・・・ッ!”
ペトロフスキーの指示で後発の追撃に出た、ゴーンのホィーラ・スクート(前輪操駆式雪氷橇車輛)だった。迫撃されていたファイア・バーキー(非装甲戦闘車輛)とは反対の方から、回り込んで来ていた。中腰になった黒尽くめのドライバーが、ホィーラ・スクート(前輪操駆式橇車)の車上から厳つい銃を構えていた。
“──まずいッ! 背後を取られた・・・ッ!”
アディは咄嗟にボリューム・ノブを噴かし、バーキー(非装甲戦闘車輛)の背後から離脱する。間際、アディの右肩口を銃弾が掠める。被弾したバーキー(非装甲戦闘車輛)後部のフラップ(荷台あおり)がぐすぐすに凹む。
“ニードルガン(短針銃)か・・・!”
尻に帆掛けるように大きく弧を描き、アディが一目散に突き放しに掛かる。
ニードルガン(短針銃)は超硬質の針状弾を使った、元来は大型害獣駆除用の銃だ。
専用の発射機構で、50本以上のニードルが収容されたシェル(弾装包)を、プラズマ膨発で発砲する。ニードルは直径1.5ミリ、長さ20ミリから30ミリ程の僅かに紡錘形をした針状で、表面にはドリル刃のような螺旋状の細い溝が切られてあり、発射後の空気抵抗を受け流す事で高速自転し直進安定性を確保する。
有効射程は大きくないが、パウダー(発射薬)使用のフィジクス・ブレット(撃発弾)よりも初速が大きいため、ストッピング・パワー(対獣抑止力)は絶大で、一般的な司法機関が採用するボディ・プロテクタも貫通可能だ。生身に喰らうと針弾が器官、筋肉や血管を切り裂き、衝撃による複雑骨折を起こす。ただプライマー・パーカッション(雷管打射)に比べ、チャンバー・コッキング(薬室閉栓)に厳密な密閉性が求められるためにフルオートマチック化が実現しておらず、発砲毎に手動によるロイティング・ボルト(回転遊底)閉鎖が必要になる。
「何て酔狂な銃を持ってやがるんだ・・・!」
アディがちらりと後ろを見遣る。
追尾してくる赤いホィーラ・スクート(前輪操駆式雪氷橇車輛)との距離は30メートルとない。そのさらに20メートル後方に、さっきのグレイメタリック色のファイア・バーキー(非装甲戦闘車輛)が追走してくるのが見えた。
ホィーラ・スクートはバーキー(非装甲戦闘車輛)より小回りが利いて、履帯モーターサイクルよりトップ・スピード(速度)が出るので厄介な相手だ。それに携帯しているニードルガン(短針銃)も侮れない。
直線的な軌跡を取らないよう、目に飛び込んでくる巨木の幹を次々に遮蔽にしながら、アンジュレーション(起伏)のある氷表を蛇行する。
“──かと言って、ここで手間取ってはいられない・・・!”
目にした、宇宙艦から投入された機材陣容から、あのホィーラ・スクート(前輪操駆式雪氷橇車輛)は最後の1台の筈だ。となるとトラックド(履帯)・モーターサイクルの残り1台も投入されている筈だが、こっちに来ていないのなら、リサの方の追撃に回ったのかもしれない。
“武装ギャリア(汎用重機)にトラックド(履帯)・モーターサイクルが相手だと、さすがにリサがきつい・・・!”
それに加えてまだ他に、別のギャリア(汎用重機)1輛とスクリュー・プロペラ・タンク(螺旋櫂駆動氷上車)も残っている。相手の展開が意外と早い事に、アディの気が逸る。
“指揮を取ってる奴は侮れない──”
真っ直ぐ突っ込む正面の巨木、その僅か10メートル目前で車体を右に振りながら、ボリューム・ノブを開けると同時に、ステア(操向)・ペダルを左に踏み込む。履帯がずりずり滑りながら、車体が幹に沿って回り込む。
アディが一瞬、背後を窺う。追って来る赤いホィーラ・スクート(前輪操駆式橇車)との距離は20メートル強にまで詰められている。だがホィーラ・スクート(前輪操駆式橇車)が巻き上げる氷霧の向こうに、バーキー(非装甲戦闘車輛)の姿が失せている事に、アディは気付いていなかった。
回り込んだ幹の陰で、ホィーラ・スクート(前輪操駆式雪氷橇車輛)からの目線が切れる。
振り切ろうと、アディがボリューム・ノブに力を込めようとした矢先。
真正面から、いきなりファイア・バーキー(非装甲戦闘車輛)が姿を見せた。
距離にして20メートル、トラックド(履帯)・モーターサイクルの速度は時速90キロを超えている。
「糞ったれ・・・ッ!」
反射的にアディが、幹側に車体を捻る。
ホィーラ・スクート(前輪操駆式橇車)からの追撃に気を取られるあまり、バーキー(非装甲戦闘車輛)への注意を怠っていた。バーキー(非装甲戦闘車輛)は、アディの回り込む反対側から、この巨幹を回り込んで来たのだ。
アディの強引なステア(操向)に、モーターサイクルのトラックベルト(履帯)がグリップを失い、半ば横滑りしながらも、履帯モーターサイクルの車体が幹際ぎりぎりまで寄せ込まれる。その直ぐ脇をアディが右肘を出せば当たる至近で、氷粉を巻き上げるバーキー(非装甲戦闘車輛)と、瞬く間もなく擦れ違う。アディがバーキー(非装甲戦闘車輛)を視認してから1秒と無かった。
バーキー(非装甲戦闘車輛)の方が、僅かに回転半径が大きかった事が幸いした。
だが接触しても面妖しくないすれすれの行き交いに、車重の軽いアディの履帯モーターサイクルが風圧に煽られる。フラつく車体に、瞬間アディがパワーを掛けて車体を正立させる。と同時に立ち上がったアディが、手を伸ばしたまま激しくブレーキング、さらにそこから前のめりにハンドルに全体重を掛けながら、188センチの体を僅かに右に捩る。リアを持ち上げたトラックド(履帯)・モーターサイクルがそのまま右に傾いて、フロントを起点に車体が右へとぐるりと振れた。
アディが咄嗟に見せた、三度の見事なジャックナイフ・ターンだった。
だが事はそれで終わらなかった。
リアに荷重を掛け、トラックベルト(履帯)が氷表に着いてグリップすると同時に、走り去ったバーキー(非装甲戦闘車輛)が巻き上げた氷粉の霧が立ち篭める中、アディがボリューム・ノブを煽った、その矢先。
ぼんやり赤い影が目に映ったと思ったら、真正面からホィーラ・スクート(前輪操駆式雪氷橇車輛)が迫って来ていた。
文字通り薮から棒、回避している暇など無かった。
「こな糞ッ・・・!」
罵声を上げるアディが反射的に、ボリューム・ノブを煽ると同時に腰を下げ、全体重を後部に掛けフロントを持ち上げる。まるで馬がいきり立ったように、トラックド(履帯)・モーターサイクルの車体が起き上がった。
上がったフロントが、ホィーラ・スクート(前輪操駆式橇車)のフロント・ノーズに乗り上がる。
刹那、アディがボリューム・ノブを目一杯開く。
バキバキと玩具を踏み潰すような音が立って、アディのトラックド(履帯)・モーターサイクルが、ホィーラ・スクート(前輪操駆式橇車)の赤い車体の上を駆け抜ける。勢い余った履帯モーターサイクルの青と銀の車体が、ホィーラ・スクート(前輪操駆式橇車)を踏み台にして飛び出した。
宙を飛ぶその先に、こっちを向いたバーキー(非装甲戦闘車輛)が居た。
擦れ違って遣り過ごしてしまったアディを再追撃しようと、バーキー(非装甲戦闘車輛)が停車してスピンターン(超信地旋回)を終えた直後だった。
バーキー(非装甲戦闘車輛)向かって、アディが跨がる青と銀の車体が落ちて行く。
モーターサイクルのトラックベルト(履帯)の後ろ側が、バーキー(非装甲戦闘車輛)のフロントウィンドウ上部に殴ち当たる。バーキー(非装甲戦闘車輛)のハードトップに大きな凹みを作って、履帯モーターサイクルが今度はバーキー(非装甲戦闘車輛)に乗っかった。だが勢いのついたモーターサイクルの車体はルーフの上をずるりと滑り、そのまま倒れ込むように吹っ飛ぶ。横倒しになったモーターサイクルは履帯側から、バーキー(非装甲戦闘車輛)の荷台に架装してあった、ガトリング(多砲身斉射)・レーザー砲に突っ込んだ。
履帯モーターサイクルが倒れた際に投げ出されたアディは、為す術もなくそのままルーフ上を車体と一緒に吹っ飛び転がった。目も眩むような衝撃を感じて、モーターサイクルの車体の後を追うように、バーキー(非装甲戦闘車輛)架載のレーザー砲に殴ち当たる。
「しゅ・・・醜畜・・・めッ・・・!」
何がどうなったか全く訳が分からないアディが、激しく喘ぐ。
アディは履帯モーターサイクルの車体の脇で、仰向けに倒れていた。
真上にガトリング(多砲身斉射)・レーザー砲のバレル(砲身)が見える。襲われる激しい眩暈に頭を振り、アディが這う這うの体で身を起こす。
履帯モーターサイクルは正立する格好で、架載レーザー砲とキャビン後部の間に、見事に落ち込んでいた。尤もトラックベルト(履帯)は外れてしまい、ロード・ホィール(転輪)の支持架も拉げて捻じ曲がり、車体全体も僅かに歪んでいるようで、とても走れる状態ではなかった。
痺れ上がるような痛みを全身に感じながら、アディは深呼吸一つ辺りを見渡す。飛び込んでしまったファイア・バーキー(非装甲戦闘車輛)は停車していて、動く気配はない。
「ろくでもない目に遭わせやがって・・・」
ぶつくさと吐き出す呪いの言葉にも力なく、アディは架載レーザー砲に手を掛けながら、身を屈めた体を引き摺るようにして、荷台の上を歩き出す。
「サーカスの曲芸乗りじゃないんだぞ、俺は・・・!」
よっ、と声を漏らしながら、アディが荷台のフラップ(あおり板)を踏み越え、バーキー(非装甲戦闘車輛)左の氷表の上に飛び降りた。降りた途端、支えきれない足腰が崩れ、半歩半歩と後ろに蹌踉めきながら、無様に尻餅を舂いた。
「全身に力が入らねェ・・・」
半分泣き言のような声を上げ、アディは銃を支えに立ち上がる。
一瞬、何かの気配を感じたアディが、咄嗟に銃を構えセイフティを外し、トリガーガードに指を置く。鋭い目付きに中腰で、素早く辺りを見回し、耳を欹てる。警戒を解かず、ゆっくり足を繰って後退りし、バーキー(非装甲戦闘車輛)の車体を背にする。
そのまま摺り足に運転席の方へ足を忍ばせながら、00(ダブルオー)ストライクのフォアエンドをスライドさせてフィーディング(送弾)し、トリガー(引金)に指を掛ける。
人の気配に五感を澄ます。
車高の高いファイア・バーキー(非装甲戦闘車輛)のキャビン内を、ドアのウィンドウ端から窺う。ドアフレームがひん曲がり、ドア自体が歪んでいるがウィンドウは割れていない。
ドライバーの姿は見えなかった。
シートの上か、床に倒れているのかも知れない。
身を屈め右足を軸に、ウィンドウ下でくるりと身を翻す。
ドア前方に位置取りし、車体を背に身を屈めたままドアハンドルに左手を伸ばす。勿論、右手の銃は脇口に抱え込み、いつでも撃てる体勢は崩さない。
歪んだ衝撃なのか、ドアラッチ(留金)は外れている。ゆっくりとドアを開く。
「素直に出てこなければ、撃つ・・・!」
そう声を張り上げて二呼吸待ったが、返事がない──気絶しているのか、それとも狸寝入りで隙を窺っているのか。
「残念だったな・・・ッ!」
そう叫ぶが早いか、ドアを開くそばから右腕だけを突っ込み、盾にしたドア陰からトリガー(引金)を絞った。銃声が一発轟くと同時に、バスッバスッとペレット(散弾)がシートにめり込む強烈な音が立つ。余韻を残す銃声以外に、何も反応がなかった。
“誰もいない・・・?”
束の間訝ったアディが銃を構え、半歩跳び退きながらドア陰から躍り出た。
まだ少し硝煙ただよう車内に目を走らせる。人影は無く、反対側のドアが開いていた。
罠だ──しまったと、アディが思った矢先。
バーキー(非装甲戦闘車輛)の反対側フロントの陰から、飛び出て来る影があった。
アディが咄嗟に身を投げ出す。同時に銃声が鳴り響いて、バーキー(非装甲戦闘車輛)のドアが一瞬にして穴だらけになる。だがコンマ数秒遅れて、アディのベネリ・00(ダブルオー)ストライクも火を吹いていた。投げ出したアディの身体が、氷表に倒れ込む刹那だった。
バーキー(非装甲戦闘車輛)のドライバー、ターヘルが、アディのペレット(散弾)を喰らってもんどり打つ。
氷表に身体を打ち付けたアディだが、その体勢から躊躇無く2射目の引き金を引く。
身を躍らせていたターヘルの、右脇腹から右腕に掛けて、ペレット(散弾)がヒット(命中)する。ウゲェと醜い悲鳴を上げ、ターヘルが氷表に転がった。
早足に駆け込んだアディが、ドライバーの手放したペッパーガンを蹴り飛ばし、00(ダブルオー)ストライクの銃口を男の鼻先に突き付けた。
「散々、良いように追い掛け回してくれたな、えっ?」
撃たれた右脇腹を左手で押さえ、睨み付けて来るターヘルは黄土、茶、深緑のまだら色した肌で、鼻梁が長く口蓋の開度が大きな見た目から、テペト人系だと思われた。散弾2射を浴びているが、分厚い防寒着を着込んでいるため、重傷には違いないが落命とまでは行っていない。
「お前らは何者だ? 何で俺たちを攻撃した?」アディは男の足首を、掻き爪が立つスタッドチェーン(滑り止め靴具)の靴底で容赦なく踏ん付けた。「この赤道地帯に態々来たんだ。トトとか言うオールド・バガー(おっさん)に、何の用がある?」
「・・・手前ェら・・・破落戸・・・ドラグゥン(傭われ宇宙艦乗り)に・・・答える・・・義理は・・・ねェ・・・ッ」
うぐッと小さい悲鳴を漏らしたテペト人が、歯を剥き出しに睨み返した。
「そう言うあんた、ドラグゥン(傭われ宇宙艦乗り)じゃないな」アディは銃口で男の顎を小突き、踏み付けている足を軽く捩った。「だがあの宇宙艦にも、ドラグゥン(傭われ宇宙艦乗り)が居るんだろうが」
「さ・・・あね・・・直接・・・聞いて・・・みな・・・」
テペト人の男が、へっと鼻先で笑った。アディの投げる質問から、アディたちが何も知らないと見透かして、高を括っている。
「頭を吹っ飛ばさなかったのは、聞きたい事があったからだ」アディもそんな事は百も承知とばかり半歩歩み寄ると、男の右手を踏み付け00(ダブルオー)ストライクの銃口を眉間に押し付けた。「だが、それも聞き出せないなら、あんたに用はない」
「──用無しに・・・なるのは・・・どっち・・・かな・・・?」
苦痛に顔を歪ませるテペト人が、強がりとも思える醜い笑みを浮かべた刹那。
アディの背後に、氷表を蹴り上げる駆動音が轟いた。
振り返り首を巡らせる向こう、巨木の幹陰から、いきなり赤い車体が飛び出して来る。擦れ違いざま、アディがトラックド(履帯)・モーターサイクルで踏み台にしたホィーラ・スクート(前輪操駆式雪氷橇車輛)だ。完全に拉げて潰れたノーズ越しに、黒尽くめのドライバーがニードルガン(短針銃)を構えていた。
咄嗟にアディが身を翻したが遅かった。
シュバッという空気の漏れるようなくぐもった音が立つと同時に、左上腕から肩口に掛けて激痛が走る。それでもアディは突き出した00(ダブルオー)ストライクの引き金を絞っていた。
被弾の衝撃に膝を着き、痛みの疾る左腕を抱え込むアディの目の前を、赤いホィーラ・スクート(前輪操駆式橇車)が猛スピードで駆け抜ける。アディの銃撃を浴びたホィーラ・スクート(前輪操駆式橇車)のゴーンが、車上で身を捩らせる姿が目に映った。
★Act.14 鉄火のプランセス・デ・ネージュ(雪子姫)・1/次Act.14 鉄火のプランセス・デ・ネージュ(雪子姫)・2
written by サザン 初人 plot featuring アキ・ミッドフォレスト




