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Act.8 砲火轟く氷坑・3

「──どうするの?」


目の前の、外のデッキを駆け抜けていくユーマの姿を目で追いながら、ミルシュカが不安そうな声を上げた。


「奴らの目的が、よく解らない」


ジィクが首を(すく)め、態とらしく(おど)けて見せた。


「当面のハイエナ共にはクライアント(雇い主)から、殺すな、って指示が下りてるらしいが、(はな)から手放しに当てにするのは危険だ。だが、どうしようもなくなったら、その時はミルシュカの身柄だけは保障するように交渉する」


「ジィク・・・」


「ミルシュカが、ドラグゥン(傭われ宇宙艦乗り)じゃないのはすぐ判る。アールスフェポリット社の技術顧問、と言う立場を説明すれば──」


「それは駄目」ミルシュカが力強く首を振った。「──と言うより、嫌よ」


戸惑うジィクにお構いなく、ミルシュカが言葉を継ぐ。


「此処が一私企業の単なる開発基地と知っている筈なのに、彼らは問答無用の武力制圧を仕掛けて来たのよ。(たと)え、ジィクたちドラグゥン(傭われ宇宙艦乗り)が居る、と知っての対抗策だとしても、よ。それこそ(はな)から」ミルシュカは明瞭に言い切った。「私の乗っていた船を攻撃したのが彼らなら、尚更こちらに何かしらの選択権を与えるとは思えない」


強いミルシュカの口調に、開きかけた口を半開きにしたまま、ジィクは少しばかり唖然とした。


「結論はこうよ。身柄を保障されても、自由が保障されるとは限らない」


「ミルシュカ」


「気にしないで。本当なら輸送船で死んでいても奇矯(おか)しくはなかった。それがジィクたちに救けられたんだもの。これは神さまの巧妙な演出かも知れない」


長い睫毛の、青林檎色の瞳をぱっちりと見開いて、ミルシュカが小さく笑みを浮かべた。


「サンドラ・ベネスと似たような事を言うんだな」


「サンドラ? ああ、ゴース人ガバナー(堡所長)の秘書ね」


少しばかり険の有るミルシュカの口調に、ジィクは鼻で笑い返すと、改めてエンジン・モードをドライブへ入れ直した。


「んじゃ、オン・ザ・マーク(位置に付いて)、の時間だ」


ジィクの言葉に、改めて深く座り直したミルシュカが、無言で頷く。


「舌を噛むなよ」


ステアリング(操向桿)を握るジィクが、横目にミルシュカを見遣る。


「──メイク・ユア・デイ(楽しませてやるぞ)・・・!」


その言葉と同時に、ジィクがブースト・ペダルを目一杯踏み込んだ。


見上げるばかりの巨大な8つのタイヤが、一瞬空転したかと思ったら、いきなり氷表を掴むとその巨体を前へと蹴り出した。




キャビンを出たユーマが、デッキを抜けて左側面の歪んだラダー(梯子)を跳ねるように降り、途中から氷表へと飛び降りた。氷表は完全に凍て付いているので、決して柔らかではない。


寒気の中を足早に、掩体にしているバケットホィール・エクスカベータ(輪鍬型掘削機)の中央基部へ駆け寄る。陽の上がったピュシス・プルシャは、曇り空ほどの明るさがある。相変わらずの灰色の空から、陽が弱々しく注がれていた。


幅2メートルを超え、それが8本も並ぶ基台車前部の履帯列沿いを、巨躯のユーマが軽く身を屈めながら進む。巨大掘削重機のスプロケット・ホィール(起動輪)自体が1.8メートルもあるので、人影が少し動いたところで全く気付かれない。


淵際一番近くの履帯陰から、ユーマが少し頭を突き出す。


左手奥の氷壁際にタワー(作業監理塔)が見える。真正面に横たわるのは、直径500メートルの継坑だ。そのさらに奥手では、ユーマに撃破され半分融解したギャリア(汎用重機)が、燻った黒煙をまだ少しぶすぶすと棚引かせていた。


継坑の向こう淵の左右に目を走らせるが、ジィクが潰し損ねたロケット弾装備のギャリア(汎用重機)の姿が見当たらない。ここからの角度では、氷上のタイヤ痕が視認できないので轍跡を追えないが、おそらく放置された大型機材の陰に潜んでいるのだろう。ジィクが最初に逃げ込んだバケットホィール型掘削機とタワー(作業監理塔)の位置、それに燻るギャリア(汎用重機)の位置から、潜んでいる車輛陰におおよその見当は付けられる。


巨大掘削重機基部の履帯下、踏み潰されそうな程に身を寄せ込んだユーマが、ヘッケラー・アンド・コッホ社製のプラズマ重装銃、バスター42を伏せ撃ちに構える。


“──さあ出てらっしゃいな、ケンタウロス・タロス(半人半車の木偶坊)・・・!”


レンジ・ファインダー(照準器)を、ユーマが覗き込んだ矢庭。


背後で、巨大なジューサーミキサーが唸りを上げたような音が聞こえた。


ジィクがウルトラ・ホウルトラック(超重量運搬車)のブースト・ペダルを踏み込んだのだ。


トルクコンバータ・ギアがギャンギャン喚き立て、巨大トラックがダッシュする。


ユーマが横目に後ろを垣間見る。


ホウルトラック(超重量運搬車)が巨大な掘削バケット・ホィールの陰に入り、角度的に見えなくなった。遮られるエンジン音が、霞むように伝わり聞こえる。シューティング・アシスト・コンポーネント(射撃支援装置)のファインダー(照準器)を覗くユーマの目付きが険しくなる。目を付けていた巨大なパワード・シャベル(掘削輛機)から少し奥手、50メートルほどの距離にあるブレード・ドーザー(排土輛機)の陰で何かが動いた。反射的に銃口を右に振る。


──居た・・・!


視線移動を感知したシステムが、照準映像をズームする。


一瞬ぼやけた照準画像が、疾駆するギャリア(汎用重機)の姿をはっきり捕らえる。


少し回り込むようにステア(操向)を切ったギャリア(汎用重機)が、一瞬クレーン車の陰に隠れたが、直ぐさま姿を見せた。僅かに車体を揺すって停車すると、(あらかじ)めおおまかな角度を取ってあった、ロケット弾キャニスター(装弾倉)が照準に微調整を掛ける。


ユーマの射線上では、車体を少し斜めに振った格好だ。


キャノピー越しにコックピット(操縦席)を狙いたいところだが、残念ながら右腕肢が中途半端に持ち上がっていて、それが丁度コックピット(操縦席)上半分、キャノピー部を遮蔽する形で隠してしまっている。それならば、と淀みなく照準を下げる。腕肢を掻い潜るような弾道で、コックピット(操縦席)下半分に狙いを絞る。


──貰った・・・!


刹那、ユーマがトリガー(引金)を絞る。


と同時だった。ギャリア(汎用重機)のランチャー(発射架)がバックブラストを噴き出した。


──反撃が早い・・・!


バスター42のプラズマ火球が、発射されたロケット弾と瞬きの差で、ギャリア(汎用重機)の右側面手前で光爆する。氷表の蒸気爆発で大穴が開き、凄まじい蒸気の噴煙が立ち上る。


──外した・・・!


思わずユーマが歯噛みする。


プラズマ火球の弾道が僅かに歪曲されたのだ。原因は、目の前に横たわる直径500メートルの継坑だ。シューティング・アシスト・システム(射撃支援装置)の、パラメータ修正はしてあった。だが空気温度と密度が、表坑氷表面と継坑の上部では、予測以上に違ったのだ。


「あたしとした事が・・・!」


修正の2射目を放とうにも、車体下部からコックピット(操縦席)の高さほどまで、蒸気爆発による水煙が立ち篭めてしまっていた。シューティング・アシスト・システム(射撃支援装置)でも、目標の姿影が曖昧になる。


「あたしが黙らせるまで、(あた)っちゃ駄目よ、ジィク!」


悔しさを明白(あからさま)に滲ませて、ユーマが照準を修正しながら銃口を上げ、息吐()く間もなくトリガー(引金)を絞る。こちらに側面を剥き出しにしている、右肩部のロケット弾キャニスター(装弾倉)に、容赦ないプラズマ火球が叩き込まれる。


3発目がヒット(命中)した刹那、ギャリア(汎用重機)の右肩に轟爆が起こった。


キャニスター(装弾倉)のロケット弾が誘爆したのだ。紅蓮の火球が黒煙に包まれながら、弾け膨らむ。同時にギャリア(汎用重機)自体が発射したロケット弾のバックブラストが、二重に被い漂った。


立て続けに弾け膨らむエネルギー火球に、ギャリア(汎用重機)の姿が霞んだかと思ったら、取り巻く黒煙が渦を巻く。その煙のベールを引き裂くようにして、ギャリア(汎用重機)がこちら側に向かってゆっくりと傾きながら姿を見せた。


外したユーマの初弾がクレーターを穿つと同時に周囲の氷表を緩融し、ギャリア(汎用重機)足元の氷が緩んでぐすぐすになっていたのだ。そこにキャニスター(装弾倉)の誘爆で揺さぶられた振動が伝わり、ギャリア(汎用重機)右側の氷表が一気に溶けて崩落した。


オリーブドラブの輛機が、スローモーション画像を見ているように、派手な氷粉を撒き散らしながら、陥没したクレーターの斜面にめり込み倒れた。




目一杯ブースト・ペダルを踏み込むジィクが、3階ほどの高さのドライバーズ・シート(運転席)から左に目をやる。もう一つのバケットホィール型掘削機の陰に潜む、サンドイエロー(黄土色)の中型ロータークラフト(回転翼機)に目掛け、()も突撃するように掘削バケット・ホィールの陰から飛び出た矢庭だった。


──出て来たな・・・!


両肩部にロケット弾ランチャー(発射架)を載せた、あのギャリア(汎用重機)だ。


継坑を斜めに隔てること、500メートル弱。ブレード・ドーザー(排土輛機)の陰だった。


肉眼ではっきり視認した刹那、ジィクはいきなり制動を掛けた。ミルシュカの華奢な(からだ)が前に吹っ飛ぶのを、再びシートベルトが食い止める。


ギャリア(汎用重機)のロケット弾ランチャー(発射架)は、確かに此方(こちら)を狙っていた。


500メートル──弾着まで1.5秒から2秒弱。信管は発射後0.5秒ほどで作動する。


間髪を入れず、ジィクがドライブをリバース(後進)に叩き込む。


ギャリア(汎用重機)のランチャーが火を吹くのが同時だった。


巨大なタイヤが、足掻くように氷表を蹴り上げる。


その刹那、ギャリア(汎用重機)に眩いばかりの火球が、1つ2つと立て続けに光爆する。


ユーマのプラズマ重装銃だ。と同時にフロントガラス越し目の前を、ロケット弾が尾炎を吐いて視界を横切った。ロケット弾はそのまま右手の氷壁に突き刺さり、爆発と同時に派手に氷塊を撒き散らす。発射されたのは7発だった。あのまま直進していたら、間違いなく3発が、しかも側面を直撃されていた。運悪く5発以上も側面に喰らったら、さすがの巨体ホウルトラック(超重量運搬車)も走行不能に陥る。


フロントガラス越し、右方向から凄まじい爆煙(ばくえん)が噴き抜け、同時に氷粉が濛々(もうもう)と舞い上がる。あっと言う間に目の前が霞み、周囲が白霧に包まれる。


目一杯後進させたホウルトラック(超重量運搬車)を、ユーマを下ろした辺りで急停車させる。


勿論、ユーマをピックアップ(回拾)するためだ。


通信が使えない現状、実際にユーマを確認してからでないと、拙速には行動できない。かと言って時間が経つと、爆煙(ばくえん)と氷粉による煙幕効果が、それだけ薄れる。ジィクはステア・ハンドル(操向桿)に置いた指を、(はや)る心そのままにコッコッと叩く。


食い縛った口を、ジィクが思わずクッと広げて見せた矢先。


目の端に動く気配を感じた。


ユーマだ。


途端ジィクが条件反射の如く、躊躇なくブースト・ペダルを踏み込む。


三度(みたび)巨大なタイヤが一瞬空転したかと思ったら、トラクション・コントロールの効いたダブルタイヤの全輪が、力強いトルクで氷表を蹴り出した。


キャビンの外では、ラダー(乗降梯子)を上って来ていたユーマが、バスター42を肩に掛け上半身を覗かせていたが、危うく振り落とされそうになっていた。必死でデッキの手摺りに掴まるユーマは、サイドウィンドウ越しに見えるジィクに目を吊り上げ、カムクイック(早漏)、と罵声を浴びせる。


ユーマからの(ののし)りの視線を感じ取ったジィクが、悪びれる様子もなく横目にニヤリとした。


──このタイミングなら、400メートルは抜けられる・・・!


濛々(もうもう)と立ち篭める爆煙と氷粉の霞にベールに、ウルトラ・ホウルトラック(超重量運搬車)が突入する。通信が不能なのは、敵方も同じだ。結構な人数を投入している筈だが、統制だった戦術行動が出来ないなら、切り抜けて氷表へのラッタル(裸階段)まで辿り着ける。


フロント・ウィンドウ越し、撒いていた霞がすうーっと晴れて視界が開ける。


正面ちょい右、目指す九十九(つづら)折れのラッタル(裸階段)が、300メートルほど先に見える。左手少し奥には、駐機している中型ロータークラフト(回転翼機)の後ろ姿を視認する。と同時に、開いたランプ・ゲート(搬出入用斜路扉)の(たもと)に、小さく動く人影にジィクが気付く。


“ちッ、ミュッツェ(擲弾兵)がいたのか──”


咄嗟にジィクがステア(操向)を左に切るのと、人影から強烈な爆煙が巻き上がるのが同時だった。次の瞬間、今度は人影のすぐ左で強烈な光爆が起きたかと思ったら、10メートルにわたり氷表が轟音を立てて弾けるように爆裂する。ジィクの操るホウルトラック(超重量運搬車)が、その巨大な車体の向きを変えた矢庭、甲高い風切り音が尾を引いて、激しい衝撃とともに車体フロント右端に爆煙が立ち上る。


直撃されたのは、人影が担いでいたパンツァファウスト(対装甲誘導推進弾)だった。個人装備の使い捨て単装対装甲ミサイル(誘導推進弾)だ。


だがミュッツェ(擲弾兵)に気付いたのはジィクだけではなかった。デッキに上がってきた矢先、ユーマもその人影を視認していた。慌ててバスター42を腰だめに構え、照準もそこそこにトリガー(引金)を引く。刹那、車体が向きを変えたため、発生した強烈な横ガルを受け、狙いそのものが少しズレた。だが氷表を(えぐ)ったプラズマ・エネルギー弾は強烈だった。パンツァファウスト(対装甲誘導推進弾)を放ったミュッツェ(擲弾兵)の直ぐ左に着弾した火球が、氷表に凄まじい蒸気爆発を誘発し、一瞬にしてミュッツェ(擲弾兵)諸共(もろとも)周囲を根刮(ねこそ)ぎ吹き飛ばした。


それでもユーマからの射撃効果を確認する(いとま)もなく、ジィクが強引にステア(操向)を戻す。


ジィクの操る巨大なホウルトラック(超重量運搬車)は、蛇行の軌跡を残してラッタル(裸階段)へと、残り200メートルを氷粉を蹴り上げ猪突猛進する。疾駆する巨象は、速度を落とす気配が全くない。


「ジィク・・・?」


ユーマが気付いたときには遅かった。


「──あ、無茶しないで・・・!」


目の前に、折り返しラッタル(裸階段)と高さ100メートルの氷壁が迫った刹那。


ホウルトラック(超重量運搬車)が真正面からぶつからんとする速度で、いきなり向きを変えたかと思ったら、三度(みたび)強烈な横ガルを発生させた。


「何度、急“印度人(ハンドル)”を切れば気が済むのッ! 馬鹿ジィク!」


直ぐそこまで迫って来ていたラッタル(裸階段)が、いきなり右へ流れていったかと思ったら、そのまま横合いからぐんぐんと近付いて来る。放り出されそうになったユーマの、ほん目と鼻の先にラッタル(裸階段)の支柱が襲い来る。


強烈な衝撃を伴って、ドガングシャンと響き渉るクラッシュ音。


ウルトラ・ホウルトラック(超重量運搬車)が、その巨体左側の一部を食い込ませて、ラッタル(裸階段)に横付けしていた。


「どうだ? “ポーチ(車寄せ)”に、ばっちり到着だ」


運転席キャビンの左ドアが開いて、ジィクが勢いよく飛び出して来た。


「何がばっちりよ・・・外に居るあたしの事も考えて!」


ユーマが溜め息交じりに、捻じ曲がった手摺りに寄り掛かる。氷壁の折り返しラッタル(裸階段)は(ひしゃ)げて潰され、ホウルトラック(超重量運搬車)の運転キャビンがあるデッキと、混然と一体化してしまっている。ひん曲がった手摺りと、(ねじ)くれたラッタル(裸階段)の支柱を跨いで潜れば、そのままラッタル(裸階段)側へ乗り移れる。トラックのデッキから下にあるラッタル(裸階段)部分は、とても人が上がって来れそうにない程に、完全に(ひしゃ)げ押し潰されて、氷壁側でぺしゃんこになっていた。


「ちょっと足場は覚束ないが、2階分くらいは登らずに済む」


運転キャビンを覗き込むジィクが、さあ、とミルシュカに手を伸ばす。


ジィクの手を取って姿を見せたミルシュカは、ぱっちりした目をさらに見開いて少しばかり息が荒い。まだ興奮冷めやらないその様子から、ジィクの横で相当なスリルを味わったようだ。


「ヴェルト・イェーガー(宇宙猟兵)たちは、まだこっちに回り込んで来ていないようね」


100メートル近い氷壁の折り返しラッタル(裸階段)を、ユーマが見上げる。


「さあ、今のうちだ」


ジィクはミルシュカの小さな体を抱え上げると、(ねじ)くれたデッキの手摺り越し、くの字に曲がったラッタル(裸階段)の支柱の脇にそっと下ろした。ジィクの首を両手で抱え込んだミルシュカが、危なげなく足を着ける。続いてひょいと手摺りを飛び越したジィクが、ミルシュカの脇から、曲がった支柱の間をすり抜け、ラッタル(裸階段)へと乗り移る。ジィクの重みで、ラッタル(裸階段)が一瞬グワンと揺れた。


「大丈夫だ。崩れたりしない」


ジィクがミルシュカに手を差し出す。再びジィクの手を取ったミルシュカが、おっかなびっくりにぴょんと跳ねるように乗り移る。揺れるラッタル(裸階段)に、ミルシュカが反射的にジィクに抱き付く。


「ちょっと草臥(くたび)れるが、その魅力的な両脚を駆使してくれ」


ジィクの言葉に、ミルシュカが強ばった笑みを浮かべ、無言で頷く。


3段ほど足を繰り、踊り場に上がったジィクが、俺に付いて来い、とジィクがミルシュカに手招きする。ミルシュカが階段の手摺りに手を掛け、足元を確かめるように慎重に足を出す。


怖々(こわごわ)ながらも、ジィクの後からしっかりとラッタル(裸階段)を上がるミルシュカを見て、その殿(しんがり)に付こうとユーマが手摺りに手を掛けた矢先。


鳥肌の立つような、あの甲高い風切り音が耳に届く。





★Act.8 砲火轟く氷坑・3/次Act.8 砲火轟く氷坑・4

 written by サザン 初人(ういど) plot featuring アキ・ミッドフォレスト

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