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Act.7 地下3000メートルの怪・7

「さあ、ミルシュカ! ランドールがデカい穴を開けてくれたから、すぐ出られるぞ」


痛々しそうな笑顔を浮かべるミルシュカ向かって、ジィクが手を差し出す。同時に顔を上げてユーマを見遣る。リフトへの制圧を終えたらしく、再び履帯トラックの運転席に飛び込むユーマの姿が目に入る。履帯トラックでこっちの3人をピックアップ(回拾)して、坑上への折り返しラッタル(梯子階段)まで移動する足にする算段に違いない。


ユーマの運転するピックアップ・トラックのスプロケット・ホィール(起動輪)が、ギュルンと音を立てて履帯を噛み込んだその矢庭。


乾いた風切り音が、ヒュルルと尾を引く。


しまった、とジィクが(ほぞ)を噛む。完全に油断した。


──ロケット弾だ・・・!


立て続けに2発、強烈な爆発が起こった。


1発が、ユーマの乗り込んだ履帯トラックを直撃した。後部のカーゴベッド(荷台)が破裂するように吹き飛んで、車体自体が一瞬浮き上がり、空き缶が転がるみたいに真横に3転4転する。


遅れてもう1発が、吹き飛ぶユーマの履帯トラックの真後ろを(かす)め抜け、30メートルほど先に弾着し、すさまじい氷粉と爆煙を舞い上げる。その爆煙と氷煙が、転がるトラックをあっと言う間に包み込む。


「ユーマ・・・!」


ユーマの様子は判らないが、間一髪だった。発車がコンマ数秒でも遅れていたら、キャビンを直撃していた筈だ。いや2発とも喰らって、跡形もなくバラバラになっていたかも知れない。


「くそったれ・・・!」


反射的に177デュエルを構えたジィクが、辺りに首を巡らせる。


その駆動音とその姿を、同時に耳目にした。


ジィクたちの氷上車が迂回して来た巨大バケットホィール型掘削機の陰、口を開けている継坑とは反対の、立ち上がる表坑の氷壁側から、まるで煙幕のような氷煙を巻き上げ、猛烈な速度で向かって来ていた。


──ギャリア(建設汎用重機)・・・!


ジィクに、照準を付けている暇はなかった。


()けながら闇雲に、177デュエルのトリガー(引金)を絞る。あっと言う間もなく、(かわ)すジィクの目の前を、6輪ホィール駆動のギャリア(建設汎用重機)が氷粉を上げて駆け抜ける。着弾の効果なんぞ、確認してる余裕はない。


マニピュレート・ヘビー・エクイップメント(建設荷役汎用重機)──通称ギャリア。


その名称通り、元来は自走式の土木建築用重機だ。


最大の特徴は、人間の腕肢に相当するジブ・アームを備えている事だ。装甲車の車台に大きな両腕を持った上半身を載せたような外観で、一般的には全長が4、5メートル、全高が3.5メートルほど。動力は車体後部に積んだ核融合電磁励起エンジンで、上半身のような胴体部がコックピット(操縦席)になっていて、大概は気密機能を有している。


ギャリア(汎用重機)の作業用ジブ・アーム機構は、肩関節に相当する稼働部の他に、肘関節に該当する稼働箇所が2箇所あるが、腕肢の先は人間型の五指ではなく、交換可能なアタッチメント型のグラップルやクラッシャーなどになっている。斜面などで車体が傾いても、コックピット(操縦席)はピッチ(仰俯角)制御システムで、水平を保てる。


襲って来たギャリア(汎用重機)は、このピュシス・プルシャ専用機材なのか、オリーブドラブ一色に塗装され、6つある装輪に氷表走行用のスパイクタイヤを履いていた。しかも両腕部には土木作業用には似付かわしくない2連装レーザー砲、両肩部には19連装の円筒形ロケット弾キャニスター(装弾倉)を、支柱剥き出しで後付け架装してあった。




「──あっちだッ! ミルシュカ! ランドール!」


2人を追い立てるようにして、ジィクが大声を張り上げる。


ジィクの指さす方向、100メートルほど離れた所に、装輪部をデルタ型履帯駆動に改造したピックアップ・トラックが放置されていた。


ロケット弾でユーマのピックアップ・トラックを砲撃した武装ギャリア(汎用重機)が、外径1メートルの巨大な6つの装輪で、氷表をけたたましく蹴り上げる。同時に、目に見えないエネルギー・パルス弾の火線が、昇華蒸気を伴って氷上に小さな弾痕を(はし)らせる。


「走れッ! ミルシュカ!」


足を(もつ)れさせるミルシュカに、ジィクが叫ぶ。


両腕の連装レーザー砲を乱射しているようだが、所詮は建設重機に後付けの急拵(ごしら)え搭載火器、単なる虚仮威(こけおど)しに過ぎない。唯でさえ走行が酷く揺れる重機なのに、その状態から移動する小さな人間に対しての精密照準など、高度なガン・コントロール(砲撃統制)システムでもあってもほぼ不可能に近い。偶然でも、まず(あた)らない。


それでもミルシュカにしてみれば、(ほとばし)る不可視の火線が、視界の中で氷表に穴を穿たれると、咄嗟に身が(すく)んでしまう。


「ランドール! 先に行って、車輛を確保しろ!」


ミルシュカを後ろから庇うように抱き締めたジィクが、半身を捻りながら銃を突き出す。向かってくるギャリア(汎用重機)に対し、目一杯弾速を上げ、ありったけを連射する。だが通常のアーマー・ピアシング(徹甲)弾では、全く歯が立たない。


土木作業用機材は、頑丈さでは軍用に引けを取らない。ラバリィ・ポリマー(高弾性重合素材)の装輪タイヤは、いかなる不整地でもバーストしない分厚さを持っているため、ライフル弾などの貫徹力を簡単に()いでしまう。その上に回転していれば尚のこと、レーザー・エネルギー弾やフィジクス・ブレット(弾体)などは簡単に弾いてしまい、下手すると車体よりも強靱だ。


──グレネード・ランチャー(榴弾発射器)か、せめてアーマー・ピアシング・エクスプロシブ(徹甲炸薬)弾でも携行していれば・・・!


ブーツのポレイン(護膝)も外してあるので、普段なら内に納携してあるテルミット・キャンドル(高燃焼練粘爆薬)すら無い。


それならとジィクは、胴部のコックピット(操縦席)上半分のキャノピー部を目掛け、引き金を絞る。4、5発被弾させたが、そこで弾が切れた。と同時に目の前にギャリア(汎用重機)が迫った。


小柄な体のミルシュカを抱えるようにして、ジィクが慌てて後ろへ体を投げ出す。


氷表に倒れ込んだ2人のすぐ傍を、時速60キロ近い速度で氷粉を巻き上げ、轢き潰す勢いのギャリア(汎用重機)が走り抜ける。


「くそったれッ!」


息吐()く暇もなく、ジィクは起き上がりながら同時にミルシュカを無理やり引き起こす。ランドールが乗り込もうとしている氷上車の方へ、ミルシュカの小さな腰を押し出しながら、177デュエルのマガジン(弾倉)を交換する。


轢き殺さんばかりの凄まじい速度で襲い来たギャリア(汎用重機)も、さすがに凍てつく氷表の上では急ブレーキも急ターンも出来ない。横転した赤い氷上車の横を(かす)めたギャリア(汎用重機)が、まだ氷塵漂う擱坐したユーマの氷上車の手前で、大きな弧を描くように緩やかにターンする。その鋼鉄の半人半車の姿が、氷粉の(もや)の中に一瞬紛れて見えなくなる。


「ミルシュカ! ランドールの所まで走れッ!」


ジィクが叫ぶ。今がチャンスだ。


ギャリア(汎用重機)はターンの最中なので、ロケット弾ランチャー(発射架)とレーザー砲の照準は、明後日の方を向いている。この隙に氷上車にさえ乗ってしまえば、逃げ切る事もユーマをピックアップ(回拾)する事も可能だ。そのために奴を牽制して、気を引いておく必要がある──その目論見が、ジィクの頭を(よぎ)った刹那。


突如、氷表に小さな弾痕が穿ち走り、昇華ガスが立ち上る。


「──ランドール・・・!」


そうジィクが叫んだときには遅かった。


ジィクの左斜め30メートル先に、レーザー・パルスの火線が(はし)る。


ターンしているギャリア(汎用重機)とは別の、新手の追撃だった。


無数のレーザー弾が氷上車に突き刺さり、乗り込もうとサイドステップに片足掛けていたランドールの身体を、背後からズタズタに撃ち抜いた。ミルシュカの目の前で、ランドールがもんどり打って、氷上に崩れ落ちる。


「ひぃぃぃぃ・・・!」


さすがのミルシュカからも、寒気を切り裂く悲鳴が上がる。


轢き殺そうと駆け抜けて行ったギャリア(汎用重機)とは、明らかに違う角度からの射線だった。その最初に襲って来たギャリア(汎用重機)は、ジィクたちから100メートルほど離れた氷壁側を、まだこちらに照準を向けられないままターンしている最中だ。


──やはり、他にもいたのか・・・!


ジィクが血相を変え、ミルシュカの元に駆け出した。襲撃の武装ギャリア(汎用重機)が他にもいる可能性を、頭の隅では気にしていた。だが周囲を確認する余裕がなかったのだ。


ジィクたちが継坑リフトから来た方向、継坑淵に停まっていたパワード・シャベル(掘削輛機)の陰から、別の武装ギャリア(汎用重機)がそろりと新たに姿を現した。そのギャリア(汎用重機)は、両腕肢の連装レーザー砲だけで、ロケット弾キャニスター(装弾発射架)を装備していなかった。


ジィク1人なら逃げ切れる可能性は大きい。が、取り乱し(すく)んでしまっているミルシュカを、さすがに独り置いては行けない。そのままにして行ったら、ミルシュカが見るも無残な蜂の巣になるのは確実だ。


ゆっくり近付く武装ギャリア(汎用重機)を睨みながら、ジィクが息急き切って駆け寄る。ランドールを(たお)したギャリア(汎用重機)が、腕肢のレーザー砲を向け、じわりじわりと迫って来る。


「ここまでだったな、ドラグゥン(傭われ宇宙艦乗り)」


外部向けスピーカから、品の欠片もない濁声が投げられる。


それでも抱えた銃は下げないジィクが、ちッ、と舌打ちをした矢庭。


ロケット弾の、乾いた風切り音が耳に届く。


首を巡らせるジィクの左手で、爆発が3度起こった。


初弾で氷粉が凄まじく吹き上がり、2発目で横転していた赤い氷上車が爆砕し、3発目がその砕け散る氷上車の上を飛び抜けて、ちょっと先の氷表に着弾し穴を穿って爆裂した。明らかに威嚇のロケット弾だ。放ったのはユーマの氷上車を吹き飛ばした最初に襲撃して来たギャリア(汎用重機)だったが、やはり照準精度はとんでもなく悪い。それでもミルシュカは耳を聾する爆音にすっかり怯えてしまい、自らの両肩を抱き締めジィクの足下にしゃがみ込み、身を縮こまらせていた。


「どうする? ドラグゥン(傭われ宇宙艦乗り)」ギャリア(汎用重機)が20メートルの距離を置き、両腕の連装レーザー砲を向けたまま停まった。「──白旗を揚げるか?」


ちっと舌打ちしたジィクが、ゆっくり銃を下ろす。足元で縮まっていたミルシュカを、支えながら立たせ、庇うように半歩前に出る。


“──やつらは、堅気じゃない”


ドラグゥン(傭われ宇宙艦乗り)と言う名称は、一般人が普通に口にする、馴染みのある言葉ではない。しかも、こっちの正体をはっきり見抜いている、となると──。


「クライアント(受注先)からは、殺すな、ってついさっき指示が降りたらしいが──」


ジィクは確信した。重機の扱いは不慣れのようだが、砲熕(ほうこう)の攻撃には慣れている。かと言って、どこかの軍隊とも毛色が違う。


“──奴等もドラグゥン(傭われ宇宙艦乗り)だ!”


「ところが生憎とこっちには、掛ける情けが品切れなんだよ」


まあ、予想した通りだった。投降して簡単に許してくれる手合ではない。そして十中八九、輸送船ゴーダム救出の際に襲って来たのも、この連中だとジィクは推断した。


どうするか──。


ミルシュカを抱えて()ければ、初撃だけは何とか(かわ)せる。


問題はその後だ。ミルシュカを連れて走り出すか、それともギャリア(汎用重機)の懐に飛び込んで、至近距離から徹甲弾を叩き込むか。


“まずは頭部のモニター・カメラを潰し、キャノピー越しに徹甲弾を叩き込む”


レーザー砲の射撃システムは安物だろうが、頭部のカメラには連動している筈だ。それに加えてキャノピーを(ひび)だらけのグスグスにして、有視界を奪う。その間にミルシュカが、距離をとって死角に逃げ込んでくれれば、なんとかなる。


「まあ後の祭り、ちょっと遅かったって事で、一旦敵になった同業者は──」


“行くぞ、ミルシュカ・・・!”


そろりと半歩、ジィクがミルシュカから離れる。視界の隅では、横転させられロケット弾を喰らった、ボウラー・ハット(山高帽)みたいな赤い氷上車が爆煙を上げていた。


「──消えてもらうに限る」


そう、兇漢の言葉が終わらぬ内に。


ジィクはミルシュカを抱え込み、そのまま横っ飛びに氷表に身を投げ出していた。


ギャリア(汎用重機)の放ったレーザー火線が、ジィクたちの体を(かす)める。ミルシュカは驚きすぎて言葉も出ない。ジィクはがっちりとミルシュカを懐に抱え込み、そのまま氷表を転がった。


往生際の悪い奴め、と罵声が聞こえ、その矢先、何かが弾け潰れるクラッシュ音が、豪快に轟きわたる。濛々(もうもう)と立ち篭める黒煙の陰から突如、鉄屑となった赤い氷上車を弾き潰し、得体の知れない巨塊が姿を現した。


ミルシュカを抱え、ぐるぐる回る視界の中に、ジィクは見た。


黒鉄(くろてつ)一色の、見上げるばかりに巨大なホウルトラック(超重量運搬車)。


この表坑内に何台か放置されていた中の1台で、全長21.5メートル、全幅10.5メートル、全高9メートル、積載能力500トンのダンプ式ベッセル(搬台)を備えた採石搬載用のウルトラ・ホウルトラック(超重量運搬車)だ。


車重が重戦車の優に4、5倍はあり、ダブルタイヤ式4輪は強力なトルクを得るため、駆動用モーターを各装輪に個別に備えた4軸全輪駆動で、トルクコンバータ・ギアを介して装輪を直接駆動するので、ドライブ・シャフトの類いを持たない。モーターへの電力が、主機である核融合電磁励起エンジンから給電されるのは、一般的な混成パワー・トレーン同様だが、そのエンジンも特別製の大出力タイプを2基搭載し、当然コンバータもそれに見合った強力なものを備えている。


その戦車よりも巨大なトラックが、氷粉を巻き上げ凄まじい速度で、真っ直ぐジィクたち向かって突進して来ていた。





★Act.7 地下3000メートルの怪・7/次Act.8 砲火轟く氷坑・1

 written by サザン 初人(ういど) plot featuring アキ・ミッドフォレスト

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