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Act.18 白晶の幽獣・6

「──どうやら、無事離陸できたようね」


緊張を解いたユーマが、怒らせていた肩を落とす。足元からランディング・ギア(降着装置)を収納する稼動音と、細かな振動が伝わって来た。


「ベアトリーチェ、着替えながらで良いから、アモンを──」


ネルガレーテの声が、スピーカから漏れて来た。どうやらベアトリーチェがブリッジ(艦橋)に戻ったようだが、汚れ(まみ)れの有り様を見て、ネルガレーテもさぞかし苦笑している筈だ。


「意外と大きな揺れだったな」


死骸を吊るすためのリギング・チェーン(玉掛け鎖)を、ジィクが引っ張り出す。


「あんたの言った通り、あたしたちじゃ、いえ、人智だって及ばない何かが、このピュシスで起こっているのかも知れない」ユーマは死骸との位置を計りながら、ウインチ(巻上器)が載ったガーダー(桁)を移動させる。「ひょっとしたら、この気味悪いクローリング・エンジェル(這う天使)も、ここで見せられた幻みたいな異星人も、何か関係あるような気がする」


「もしそうだとしたら、アールスフェポリット社の結晶化現象も、関係ないとは言い切れなくなるぞ」死骸の脇に立ったジィクが、移動して来るウインチ(巻上器)を懐疑的な表情で見上げる。「──この次にエンジェルに襲われる・・・」


ジィクの言葉が終わらぬ端から、いきなりネルガレーテの焦った怒鳴り声が、艦内スピーカから降って来た。


「──ユーマ、ジィク・・・ッ!」


その只ならぬネルガレーテの声音に、ユーマとジィクが思わず顔を見合わせた。


「すぐブリッジ(艦橋)に上がって来て・・・ッ!」ネルガレーテが息を呑む。「ヒゴ社の基地が、いえピュシス自体がちょっとヤバイかも!」


ネルガレーテの興奮し切った口調に、ユーマとジィクが同時に、ラッタル(梯子階段)の方へと駆け出した。ベアトリーチェが乗って上がったリフトを、ちんたらとは待ってはいられない。それにラッタル(梯子階段)の方が艦首側にあるので、メスエリア(会食所)を抜けなくて済む。


2人のドラグゥン(傭われ宇宙艦乗り)が文字通り、一足飛びに折り返しラッタル(梯子階段)を駆け上がる。


「どうしたのッ? ネルガレーテ・・・!」


ブリッジ(艦橋)に勢いよく飛び込むなり、ユーマが怒鳴り声を上げる。


そんなユーマをまるで(たしな)めるように、ベアトリーチェの乾いた可愛い声が、ブリッジ(艦橋)のスピーカから降って来た。


「基地の南東側、プラントと思しきファシリティ(施設)区域に、新たなサーフェイス・フィシュア(地割れ)を確認。プラント設備が倒壊しています」


ユーマとジィクは、ネルガレーテが座っている最前列の、本来ならリサが担当するパイロット(操艦担当)ユニットに小走りに駆け寄る。ブリッジ(艦橋)はウェイトレス・デッキ(無重量環境区画)だが、今はピュシス・プルシャの重力作用を受けている。


「フィシュア(地割れ)? 倒壊だと・・・?」


ベアトリーチェの報告に、前方のメイン・スクリーン・ビジョンに顔を上げたジィクが、思わず絶句する。画面はアモン直下の、先程まで居たヒゴ社の開発基地の一部を捉えていた。


「映っているのって、ひょっとして採掘坑・・・?」


スクリーン・ビジョンを見遣るユーマも、そう言うのが精一杯だった。


「はい。本艦の現在高度が当該施設から1500メートルなので、最大広角でも画角内には全容を収めきれません」ベアトリーチェの声が再び響く。「画面左側が、北西端に位置するピット(採鉱坑)です。右側はスポイル・ダンプ(掘削残廃捨山)です」


映っているのは第3坑らしいが、クラック(亀裂)と呼ぶには、あまりにも規模が大き過ぎた。


メイン・ビジョンに映る地表の起伏は、大雑把に言って左側は採鉱坑で凹んでいて、右側は小さな山々で盛り上がっている筈、だった。だった、としか言えないのは、画面に映っている筈のヒゴ社の基地は、どこがピット(採鉱坑)でどこがスポイル・ダンプ(掘削残廃捨山)か、全く判らない有り様なのだ。


深く巨大なクラック(亀裂)が2本も3本も走り、その周囲は氷表が地割れを起こしてぐすぐすに崩れ、元のテレイン(地形)など跡形もなかった。ピット(採鉱坑)は何本も入ったクラック(亀裂)で側壁が完全に崩壊し、まるでばっくり割れた柘榴(ざくろ)の実のようで、何が何だかさっぱり判らなくなっていた。しかも生じた巨大なサーフェイス・フィシュア(地割れ)は、差し渡し100メートル以上あり、深さもピット(採鉱坑)と変わらないほど深い。


背後にあったスポイル・ダンプ(掘削残廃捨山)の山々は、一溜まりもなく割れた氷表のクラック(亀裂)へと崩れ落ち、渡って来たベルト・コンベアも捻じ曲がって無残な残骸を(さら)していた。


「──さっきの地震が原因なのか・・・?」


「火山活動は感知していないの? ベアトリーチェ」


ジィクとユーマが、同時にベアトリーチェに問い掛けた。


「申し訳ありません。地殻状態に対する継続的観測データと、分析システムがありませんので、判別しかねます」


そう返事したベアトリーチェは、まだ自席に着いていなかった。


ベアトリーチェの専用シートは、ブリッジ(艦橋)の最前部、半円形に一段下がった中央にあるのだが、ベアトリーチェ自身はそのシートの横で、真っ裸の肢体を(さら)していた。


いや正確に言うと、着替えている最中だった。


ユーマに言われてちゃんと耐寒着に着替えてから、艦外作業に出たのだが、その耐寒着が真っ黒に汚れてしまったので、ネルガレーテに言われて本来のスーツである一世代前の気密服のような銀の服に着替え直しているのだ。


ベアトリーチェはシステムのインターフェイス・デバイスだが、自身は運動器官を人工培養の生物的組織で構成したオーガノイド(被生擬人義工体)だ。皮膚には代謝機能を備えており、白磁色の肌には染み一つない。120センチの肢体はまるで幼子のようで、乳房とは呼べない少女のような胸の膨らみはあるものの乳首はなく、臍に似せた小さな窪みはあるが性器は造作されていないので、素っ裸でも女の子か男の子か判別し辛い。(もっと)も飽く迄もアバターなので、性別が必要な理由はない。


「現在、氷表の走査を広域に行っていますが、サーフェイス・フィシュア(地割れ)の発生範囲を把握しきれていません。大きなクラック(亀裂)は、最大で深さ2000メートル以上と推測しますが、発生全域で地割れを起こしているため高低差は計測できません」


いつものベアトリーチェの声が、ブリッジ(艦橋)のスピーカから聞こえるが、本人の所作自体は淡々と着替えをしている。アバターにも発声機構はあるが、本体は艦体自体の監理システムなので、アバターたるベアトリーチェ自身の発声が必ずしも必要な訳ではない。実際ベアトリーチェにドライブ(操艦)を指示しても、実行するのは本体のシステムであり、アバター自身が手足を動かして操作する訳ではない。


「ヒゴ社の採掘基地・・・」


固唾を呑むネルガレーテの声は、嗄れ上がっていた。


「──壊滅するわね・・・」


「ベアトリーチェ、プラントがあった方へゆっくり移動してくれ」


ジィクが唸るような声を出す。


アイアイサー(了解しました)、との可愛らしい返事があって、アモンのバーニア(姿勢制御推力器)が少しばかり吹け上がる。アモンの浮力はグラヴィテーション・ハイドランス・プレート(重力阻害器)による惑星重力への干渉で作用しており、ロータークラフト(回転翼機)のようなクラブスリップ(横滑り)のマニューバ(空中機動)が可能だ。


アモンの移動に伴い、正面のメイン・ビジョンに、直下の基地の様相が映り込む。


それは余りにも悲惨な状況だった。


女性肌着のモールド・ブラカップを伏せたような山吹色した棟屋群は、その殆どが地割れに()み込まれたようで、辛うじて残っている幾つかの棟屋は、ぐすぐすに崩れて凸凹になった氷表の上で傾き、崖っぷちにぶら下がっていた。


この有り様では、生存者がいるとはとても思えない。また居たとしても、とても救出できる状況にはなかった。さすがのドラグゥン(傭われ宇宙艦乗り)も、手の出しようが無かった。


「途轍も無い変動のエネルギーだわ・・・」文字通り天変地異の様相に、ユーマもただただ見詰めるしかなかった。「ピュシスの地殻って、こんなに不安定だったのかしら・・・」


結晶化した異星人を見せられた第1坑は、坑自体が判らなくなっていた。第2坑は何となく大きな穴があったと思わせるものが残っていたが、底が抜けたように巨大なクラック(亀裂)が坑を真っ二つに裂いていて、凄惨さを一層はっきりと際立っている。ギルステンビュッテルがネルガレーテに自嘲気味に語った、広大な製錬プラントも見るも無残な姿を(さら)していた。何かの大きな棟屋が、地割れを起こして崩れた離れた氷表の間で、弓反って垂れ下がっている。大きなランディング・ポート(離着場)もズタズタに引き裂かれ、跡形もなくなっていた。


「全容を把握するため、高度を上げましょうか?」


着替え終わったベアトリーチェが、パイロット(操艦担当)ユニットに(たむろ)している3人のドラグゥン(傭われ宇宙艦乗り)を振り返った。可愛らしい太腿も露なローレッグカットのスーツに、ニー(膝下丈)・ブーツがハイヒールではなく平底なのが不釣り合いで、煽情的と言うより愛らしい雰囲気の姿態だ。


「クライアント(受注先)でもない企業の施設だもの。そこまでする必要はないわ」


ネルガレーテが険しい顔付きで首を振る。


ユーマは深く息を吸い込むと、球面になったブリッジ(艦橋)内壁の、360度全方位ヴィジュアライズド・スクリーンを見渡した。


伸し掛かるような、どんよりした白夜の灰色の幻想的な空の下、まるで楔を打ち込まれた枯れた薪のように、深く奥底まで割れ込んだ氷床が彼方まで広がっていた。地底がどうなっているのかはさっぱり見当が付かないが、指でちょんと弾けば苦もなくグスグスに崩れていまいそうだった。


「光学映像からのみ考察する限り、深い地層部分で液状化現象が生じたと類推します」


いつもの席に着きながら、ベアトリーチェが淡々と報告を入れる。


「サーフェイス・フィシュア(地割れ)はまだ続いているようです。中央のピット(採鉱坑)を走るクラック(亀裂)の、両側の断崖が次々と崩落して、ますます裂け目を大きくしており、下から氷粉らしき(もや)が発生しています」


ベアトリーチェの言葉に、正面のメイン・ビジョンの画像が切り替わる。


第1坑があった辺りの映像らしいが、元よりの掘り下げた坑の痕なのか、地割れで新しく陥没した痕なのか、さっぱり判らなくなっていた。勿論、案内されて結晶化した異星人を見せられた、メンブレーン(膜)構造の棟屋など影も形もない。ベアトリーチェの報告通り、大きく発達したクラック(亀裂)は全長が数キロ、差し渡しが最大で500メートルを超えている。地獄に直結するような、深い裂け目の奥の漆黒の闇から、水蒸気らしき(もや)が大量に噴き上がって来ていた。この裂け目に落ちたら、現在のどんな技術と技倆(ぎりょう)を以てしても、救い出しようが無い。


「私たちに出来ることは、無いわ」


ネルガレーテが(かぶり)を振って瞑目し、深い息を吐き出した。


「ベアトリーチェ、現空域を離脱するけど、念のため映像だけは残しておいて。ステイ・アバウト(展開域)は、トトのプライベート・ラボ(私設研究舎)がある──」


そう言い掛けたネルガレーテの声を、ユーマの大声が遮った。


「──見て、ネルガレーテ・・・ッ!」


いきなり頬を()たれたように、顔を上げたネルガレーテがあんぐりとした。


「──な、何よ、あれ・・・ッ!」


メイン・ビジョンに映る一番大きくて深い地割れで、一層濃くなった水蒸気の(もや)が漂う中を、白い氷粉を舞い踊らせながら、ゆっくりと立ち昇ってくるものがあった。深い裂け目の奥底で、新しいアイスライザー(噴氷山)でも噴氷したのかと思われたが、全く違った。


新しく噴き上がっているものは氷粉のようだが、青白い(かがや)きを放ち、舞い散ったり漂い拡散することもなく、まるで脈打つように膨らんだり凹んだりしていた。


その有り様は、前に見た光景に似ていた。


「──まさか、あの結晶獣が・・・?」


ネルガレーテが思わず息を呑む。


それにしてはスケールが、規模が違いすぎる。


青白い(かがや)きを伴ったそれは確かに、徐々に何かの形を作ろうと、上へ上へと伸び上がる。クラック(亀裂)の規模から推測しても、優に500メートル以上ある。結晶のように(かがや)きながら、ますます形をはっきりさせていく。それはまるで──。


「巨人だ・・・氷の・・・魔人だ・・・」


ジィクが絞り出すように声を上げた。


それは正しく、魔人、と言うに相応しかった。


前屈みに曲げた腰を、徐々に伸ばすように体を起こしていく。両の肩から伸びた其処彼処(そこかしこ)からゴツゴツとした角のようなものが生えた腕は、力なくぶら下がっているだけのようだ。下を向いたままの頭は、まるで鷲と虎を掛け合わせたような、不気味な様相を呈している。


「ネルガレーテ・・・!」


「ビーチェ!」


「もっと高度を取ってッ! 急いで!」


ジィクが叫び、ユーマが怒鳴り、ネルガレーテが悲鳴のような声で言った。


アイアイマァム(了解しました)、とベアトリーチェの返事がした途端、バーニア(姿勢制御推力)の吹け上がる轟音が轟いて、いきなり床に()し付けられるような感覚に襲われる。不意を()かれたジィクとユーマが、強烈な加速ガルに膝が崩れて蹌踉(よろ)めき、ネルガレーテが座るパイロット(操艦担当)ユニットに掴まった。


「5000メートル、いえ1万メートルは離れて!」


「バイ・オール・ミーンズ(了解しました)、現在高度3500メートル」


ネルガレーテの指示に、ベアトリーチェが即座に反応する。


「──見ろ、更に大きくなってるぞ・・・!」


メイン・ビジョンに映る氷のように輝く魔人に、ジィクが驚愕の声を上げる。


「あれって、1000メートルくらいはあるんじゃないの・・・?」


ユーマも深緑色の目を剥いた。


スクリーン・ビジョンに映る青白く濛々(もうもう)とした魔人は、真上から撮像しているのでスケール感が判りづらい。見えているのは、人間で言うところの腰から上の上半身だけで、そこから下は水蒸気が(もや)掛かる大きなクラック(裂け目)の深遠の闇に溶け込んでいて、本当に下半身があるのか判らない。


「相対疑似スケールを入れます」


ベアトリーチェの言葉に、画面に1目盛り100メートルのスケールが表示される。それから判断すると、大きなクラック(亀裂)の幅は600メートルほどで、茫昧(ぼうまい)とする巨魔人は跡形もなくなった第1坑の辺りから湧き出ている。見上げる巨体の向きは、クラック(亀裂)が走る方向に沿ってではなく、居住区やプラントがあった断崖の方を向いていた。


「あの化け物の高さ、計測できる?」


ネルガレーテが前のめりに、映像に食い入る。画像の中の(おぼろ)げな巨魔人は、上半身を前後にゆらゆらゆらしながら、筋張ったような感じの両腕をゆっくりと持ち上げようとしていた。


「はい。レーザー計測によると、クラック(亀裂)表面からの高さ、約1100メートルです」


「実体があるのか、彼奴(あいつ)・・・!」


困惑するような声を上げるジィクに、ブリッジ(艦橋)に居合わせる白橡(しろつるばみ)色とユーマも、揃って顔を(しか)めた。何せ見た目が大きすぎるので、結晶化したアールスフェポリット社の遺骸や、ヒゴ社のピット(採鉱坑)奥で見せられた結晶化異星人のように、視認できるが実体の伴わない存在だとばかり思っていたからだ。


「走査して、構成物質を分析できる?」


ネルガレーテの言葉に、やや間が合ってベアトリーチェが声を上げた。その間に、(かがや)く結晶の巨魔人は、両腕を振り上げながら少しばかり背を()け反らせていた。


「励起紫外線元素分析と分光スペクトル分析、超音波エコー分析、いずれも整合性が取れない非論理的データを示していて、解析不能です」


「正体不明、って訳ね・・・」


淡々としたベアトリーチェの報告に、ユーマが忌々しそうに口をヘの字に曲げた。


「──当艦は、現在高度が1万メートルに達しました」


ベアトリーチェに促されたように、ふと上方を見上げたジィクが一驚した。


「高空を見てみろ! 凄いオーロラ(電離層磁気燭光)だ・・・!」


前方のメイン・ビジョンの右上方の一端と、360度全方位ヴィジュアライズド・スクリーンになったブリッジ(艦橋)球面内壁の天井部分に、荘厳な光の緞帳がゆらゆらと波打ち揺れている。青緑から青紫に美しさを変化させ、時折り鮮赤の帯が所々に瞬く。下端の高度はおよそ100キロ、(うね)っているにしろ全長は数百キロに(わた)っている。


「いつの間に・・・!」


浮世離れした青白い巨魔人の登場を着飾る美しい光の緞帳に、ネルガレーテも唖然とする。


「──オーロラ(電離層磁気燭光)は、あの魔人の所為(せい)・・・?」ユーマも困惑頻(しき)りの口調で呟く。「いえ、逆かしら・・・?」


「少し、様子を見て──」


ユーマの言葉に、思案に余るネルガレーテが声を上げた矢庭。


万歳するように、両手を高く上げた結晶の魔人が、一瞬天に向かって吼え上げたように見えた。


「あいつ、何をするつもりだ・・・?」


ジィクが唸り、ユーマとネルガレーテが固唾を呑んで見詰める先、映像の中の魔人が振り上げた両の手を腕を、勢いよく下に向かって振り下ろす。砕け割れた氷表の地に向かってひれ伏すように、その不気味な上半身から倒れ込んでいく。


「倒れる・・・?」


怪訝そうな面持ちのユーマが、まさか、と言う思いを口走る。


だが画面の漠とした巨魔人は、ユーマの言葉通り、しかも勢いを持ったまま、地割れでグスグスに崩れ跡形もないヒゴ社の開発基地址に向かって、(おお)きな身体を文字通り倒れ込ませる。


(くたば)った・・・?」


ネルガレーテが枯れ上がった声で、そう口にした刹那。


青白く(かがや)く身体が、(ひび)割れた見るも無残な氷地にぶつかった瞬間、煌めきの爆発と共に、巨魔人の全身がまるでぶちまけられたバケツの水のように砕けて飛び散る。飛沫のような破片が、開発基地のあった址に降り注いだと思ったら、いきなり青白い巨炎が舞い上がった。


「な、何だッ? 何が起きた・・・ッ?」


あっと言う間に、ヒゴ社の広大な開発基地のあった場所に、不思議な青白い炎が燃え広がる。


燃えている──それは、そう表現するしかなかった。


何かの可燃物や、可爆性の物質が溢れ出て、それに引火したのではない。


あの巨大な模糊とした魔人が、砕けて飛び散り、炎となって広大な氷地を燃やし尽くしているのだ。


青白い炎が、広範囲に、揺れて踊っていた。


野火で燃え広がる森林火災のように、手が付けられないほどの火勢だった。瞬く間に、四方八方へと延焼する青白い炎が、全てを飲み込んで行く。


そもそもこれは、“常識的な”火災ではない。消火の手立てなどあろう筈もない。


僅かに残って見えていた、ヒゴ社の施設や残骸は、まるでその青白い炎で浄化されるように、爆ぜる事も黒煙を上げる事もなく、包まれた炎の中でただ静かに徐々に徐々に消滅して行く。


「ヒゴ社の基地が・・・跡形も無くなってしまった・・・」


200平方キロにも及ぶ広大な採鉱基地が3000人を超える人間を抱えたまま、あれよあれよという間に消えていく様に、ネルガレーテは、そう言うのが精一杯だった。





★Act.18 白晶の幽獣・6/次Act.19 グリフィン・デュエット・1

 written by サザン 初人(ういど) plot featuring アキ・ミッドフォレスト

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