1話 かけだし
こんにちは、メアリーです。転生から2日、やっと熱が引いて元気になりました。
「メアリー!元気になったかぁ!!父はうれしいぞぉ!どうなるかほんとに心配だったんだぞぉ。」
「よかった...本当に良かった...(涙)」
二人ともすごく喜んでいる。元気になって本当によかった。背の高くて顔に肉のついてる、痩せたらイケメンだろうと思われる顔の人が父、ヘンリー8世で、その2歩後ろで泣いている女にしては背の高い人が母、キャサリンだろう。
元気になったので、王女として、将来の王としての教育を再開することになった。今後しばらくは立ち居振る舞いの練習をさせるらしい。めんどくさい。
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転生から2か月がたちました。偉そうな(前世視点)、いや王女にふさわしい立ち居ふるまいの練習ばかりすること2か月です。いや、必要なのはわかるんだよ?できてないのもわかるんだよ?でも、1日中同じようなことを何度も練習するのは疲れるし飽きるのよ。だって私子供だもん。そろそろ他のことがしたいよぉ。
それから父と母についても分かったことがある。
母、キャサリンは父の1歩後ろを歩く、基本的に父に従順で、同時に周りの人にも優しくできて、そうしている人だ。ヘンリー8世のブレーキ役になれて、なっている、稀有な人だ。母はこまめに私のことを見に来てくれる。人の名前を覚えるのがめんどくさいとか、そういう他愛のない愚痴も聞いてくれる。私のことを本気で思ってくれる、心配してくれる、本当に優しい人だ。本当に私にとって大事な人だ。離婚させられるような人じゃない。
父、ヘンリー8世は剛腕というか強引というか、そういう人。力強くて、やたら気が強くて、いい意味でも悪い意味でも自分が世界の中心な人。みんなを引っ張るというか、振り回すというか、とにかく君主には向いてる性格だと思う。母ちゃんがそう言ってたし、私もそう思う。あと父は食べることが好きで、機嫌の良いときも悪いときもたくさん食べる。
そして父は、私のことをあまり気にかけてはくれない。いや、勉強はどれぐらい進んだとか、元気かとか、そういうことは聞いてくるよ。でも私のことを、娘というより国の駒として見てる気がする。多分私のことが嫌いなわけではないと思うけど。
あと父はかなり浮気性で、女性に対して飽きっぽい人だ。侍女の話などから考えると、今まで抱いた女性は両手両足の指では収まらず、そのほとんどが2週間とたたずに捨てられるようだ。
歴史によれば、このあとヘンリー8世はアン・ブーリンにドはまりして、英国国教会をつくってまで母と強引に離婚し、アン・ブーリンと結婚するんだけど、そんな情熱を持つ人には到底見えない。母は本当にヘンリー8世のことが大好きで、彼の欠点も理解したうえで愛している。結婚してからずっと、ヘンリー8世以外の男には見向きもしてないって母ちゃんが言ってた。水と油のような二人だけど、意外とうまくいっているらしい。
「今日から新しい教育係を迎えることになりました!!レジナルド・ポール、私の息子です。私よりも物知りな子です!!優しい子なので怖がらなくて大丈夫ですよ、お嬢様!!彼は10時に来ますよ!!」
今度は息子が教育係をやるのか。またハイテンションな奴が増えるのかな。
「はじめまして、本日から姫様の家庭教師を務めさせて頂きます、レジナルド・ポールと申します。神学を専門にしております。以後よろしくお願いいたします。」
「こちらこそよろしくお願いします。」
今度の人はテンションはそんなに高くないな。茶色の髪と細い目、整った肌をもち、無駄に長いひげをもつ背の高くも低くもない優男風の男は、微笑んだ。
「王女様は記憶をなくされたとお聞きしていますが、どの記憶がないとかはお心当たりはございますか。
「父と母の名前の記憶もなくなっていたので、知識はないとみなさい。」
「かしこまりました。こちらでは神学・歴史・ラテン語のことについてお教えしましょう。ただし、私はローマなど外国に行くこともございますので、そのときはお知らせし、代わりのものを手配させていただきます。」
レジナルドはいつもここにいるわけではなさそうだ。そういうこともあるのか。でも、喋れる人が増えたのは素直にうれしい。またやることが増えそうだ。
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