10話 もう1つの結婚解消
1527年12月。ヘンリー8世の結婚解消に反対する会に、新たな動きがあった。
アン・ブーリンはヘンリー8世に結婚を求められる前、ヘンリー・パーシー伯爵と結婚したがっていたし、ヘンリー・パーシー伯爵もそうしたがっていた。
ヘンリー・パーシー伯爵はイングランドの北部で、長い歴史とそこそこ大きな領地と権力をもつ貴族だ。
そのヘンリー・パーシーの妻であるメアリー・パーシーが、ヘンリー・パーシーと結婚解消したいと言い出したのだ。
メアリー・パーシーは1524年の1月に結婚して以来、ヘンリー・パーシーに愛されたことなど、ただの一度もなかった、といった。
夫妻には子どももおらず、ここ最近は子を産むどころか、まともに会話をすることもないのだという。
陽気で、明るくて、自分勝手で、浪費家なヘンリーと、陰気で、堅実で、気弱な私とでは、幸せになどなれるはずがないのだと。
アン・ブーリンとでも、結ばれていればよかったのに、と。
「そうなんですか..結婚解消の手筈は整えておきますよ。」
トマス・モアが優しく言った。
「で、ヘンリーと結婚解消したら、ほかに結婚するあてはありますか?」
トマス・モアは悪い人ではない。むしろ友達をすごく大切にする人だ。彼は空気を読めないし読まない人だというだけで。
「別にないですけど。あの方の妻でいるよりは、修道院にでも入った方がずーっとましです。」
「ということは...あなたがヘンリー・パーシーと結婚解消して、アン・ブーリンにヘンリー・パーシーと結婚してもらえば、すべて丸く収まりますね。」
「そうでしょう!」
アン・ブーリンがヘンリー・パーシーと結婚すれば、王妃様は結婚解消することもなく、メアリー王女様は王位継承権を失わず、陛下は愛妾としてアン・ブーリンを愛することができる。誰も損しない、穏便な解決策。
早速、トマス・モアはパーシー夫妻の結婚解消の許可をもらいに部下をローマに走らせた。
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こんにちは。私はメアリー。1529年3月。14歳になりました。
あのろ過装置はウルジーに頼んで貴族のお城と国中の大きな教会につけさせました。
教会には、「あの木の桶に入れることで、神からの加護が与えられ、水が清らかになる。大切な時には水を一度木の桶に入れるとよい。」とかいうとっても怪しい文句を添えて。
これはウルジーの、「そういっておいた方が警戒されにくいし、王女様の評判もあがるしいいと思います。」という意見による。「あと、地に落ちてる私の評判が少しマシになりますね。」とかも言ってたがコイツ。自分の評判上げるのに王女様を使うんじゃないぞ。
こいつ別に優しくないし、やたら家を豪華にしてたし、めちゃめちゃ信心深いってわけでもないんだけど、仕事はできるんだよね。憎たらしいぐらいに。だから周りからの好感度最低レベルでも陛下には大切にされてる。アン・ブーリンの次に敵が多い人だと思う。アン・ブーリンと違って仕事ができるっていう確かな美点があるので、彼女よりもずっとましである。好きな奴じゃないけど。
おかげでろ過装置は全国に広がり、順調に使われているようである。
やっぱウルジーは仕事だけはとってもできる。
母を結婚解消させようとしている外道だけど。それは許せない。
ウルジーの好感度が上がりかけたので、「ウルジーはキャサリン王妃を目の敵にし、ぼろい修道院にいれて支配しようとしているカス」という情報を流して好感度を落としてやった。
まあウルジーは母を結婚解消させようとしてるし、イングランドのカトリック教会勢力ではトップだから修道院関係は彼の管轄だし、100%嘘だとは言い切れない。真実に嘘を混ぜると人は信じるって誰かが言ってた。
私がウルジー嫌いなのがこの一件でばれた。でも仕事はできるから使えるなら使うよ。
パーシー夫妻の結婚は"子供が産めないのでOK”という割と雑な理由で解消された。どうやらカール五世が裏で動いていたようだ。カール五世の軍がローマを焼いて以来、教皇は皇帝陛下には逆らえない。
あと、父と母の結婚解消とかいう父の愚かな行為ですが、ウルジーと、ローマからカンペジョとかいう特使が来て、その二人で法廷を行なって決めることにしたようです。1年も前に決まったことですが。
カンペジョは痛風なので、病気を理由に時間を稼ごうという教皇の考えだったようです。まあイングランドもあのアゴも、敵に回すのは厳しいし、ね。
それでやっとカンペジョは昨日ロンドンに到着し、明日から父、母、ウルジー、カンペジョの4人とそのほかの教会メンバーで結婚解消の是非について話し合うそうです。
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