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システム・サクラメント  作者: Kesuyu
第7部 襲撃する者とされる者
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5【K】風が強く吹いていた




〈ウロボロス〉のボスの拠点の位置を確認したら、Kは渡された地図を管理者Ⅹに返した。管理者Ⅹは前回同様に地図にライターで火をつけた。十分に燃えたら、足もとに落とし、ブーツの底で火を揉み消す。そして念入りに地面にこすりつけた。

「首尾は?」と管理者Ⅹは言った。

「上々です」とオルカが答えた。

 風が強く吹いていた。

 管理者Ⅹは全員の顔を見据える。ハンター・オルカ、ハンター・K、ハンター・レオパード、ハンター・バイパー。彼らは横に並んで管理者Ⅹを見返し、旺盛にうなずいた。

「これが最終決戦や」と彼女は言った。「今回の作戦で、すべてのケリをつけてこい」

「はっ」、彼らは敬礼をした。

 ジープに乗り込むとバイパーがエンジンをかけた。管理者Ⅹの姿が遠のく中、静かな駆動音がする。助手席から空を見上げると、月が朧に霞んでいて、ぼんやりと輝いていた。

 街の出入口でアウルが通信機を使って言った。『準備はいいですか?』

『大丈夫だ』、Kが言った。『先導頼む』

『了解です』

 ちなみに検閲を抜けるには特別な許可証がいる。

 ふと失われた記憶を取り戻す。うちの姉もそうだった。おもむろにKは生き別れた姉のことを思った。被災して、住まいを奪われて、命からがらここへやってきたんだ。でも結局移住の許可は下りなかった。俺は泣きながらこの外側の塀にしがみつき、その背を見送った。今から丁度5年前、それからは女とは一度も寝ていない。あれ以来姉とは会えてもいない。住居も取り壊されたという。ディジーの名で、どこかの修道院でシスターをしていたと聞くが、今どうしているんだろう? どんな形であれ、元気にやっていればいいが――

 バイパーの運転するジープはのろのろと動きだしていた。

「バイパー、高速までひとりでいけるな?」

「ええ、いけます」

「なら俺は少し眠る」とKは助手席で言った。「高速に乗ったら起こしてくれ」

「オーケーです」

 Kはゆっくりと瞼を閉じた。すると、すぐに闇夜の向こう側へと誘われた。


 西新宿に廃校はひとつしかなかった。廃校の周囲をゆっくりと走り、構造を確認する。所々明かりが点いていて、警戒されている感じがした。無理もない、昨日の夜に別の拠点を落としたところなのだ。

 ほとんどの街も寝静まっていた。それでも念を押して2時間待つ。「さっさと始めようぜ」というレオパードの意見は無視する。それをなだめるのはオルカの役目だ。

 月が完全に雲に隠れたとき、4人は車から降りた。レオパードは煙草を踏んで「やっと出番かよ」と言い、「静かにしてろ」とKが釘を刺した。彼らは慎重に校舎裏のフェンスを乗り越えて中に侵入した。「暴れてやるぜ」。レオパードはさっさと渡り廊下を校舎に向かって駆け抜けていった。「ひとりにしちゃ不味い」、オルカが焦ったように言った。「あとを追おう」。Kとバイパーはうなずいた。彼らはそうして校舎に入っていった。

 校舎の一角にはビリヤード台が持ち込まれ、複数の男たちが玉突きに興じていた。レオパードの姿に気づくと一斉に銃弾を浴びせてくる。男の一人がどなった。

「〈鴉〉だ! 〈鴉〉がでたぞ!」

 強風で窓がガタガタと鳴る中、レオパードはその場にいた者も、声を聞きつけてやってきた者も次から次へと始末していった。

「独壇場だな」、Kは言った。

「猛獣みたいですね」、バイパーが言った。

 レオパードは敵がいなくなると階段を一段飛ばしで二階に上がった。

「ほら、ぼさっとしない」とオルカが急かすように言った。「あとを追うよ」

 だが二階でレオパードは足止めをくった。大量の〈蛇〉が物陰に隠れて、銃撃してきたのだ。これまでの有象無象とは違う。フォーメーションを組んでいる様子だ。Kたちもレオパードに追いつくと、それに参戦した。敵が顔を出すところを丁寧に潰していく。バイパーとオルカも正射必中のかまえで応戦した。レオパードは前に出て、銃を乱射していく。

 レオパードはピストル二挺を手にアクロバティックに敵の銃弾をかわしていった。

「もはや曲芸だな」

「遅れを取らないように援護しよう」

 レオパードが〈蛇〉の銃弾に倒れたのは三階の大広間だった。階段上から〈ウロボロス〉の最高幹部――Kが以前山梨で取り逃した男だ――から、一撃をもらい、そのあと四方八方から銃撃が続いた。レオパードはその場で糸の切れた操り人形が舞うように二度三度ステップを踏み、やがて()せった。刹那の出来事だったのでKたちはつい唖然とした。

「レオパード!」

 他の3人はレオパードを敵の死角に引きずって回収した。Kが呼吸を見る。

「まだ息がある」とKは言った。「オルカ、レオパードを連れて帰ってくれないか?」

「わかった」、オルカは神妙にうなずいた。「Kはどうするの?」

「一瞬だが姿を見せた最高幹部をやる。おそらく奴がヒイラギだ。頭を取らない限り〈蛇〉は死なない」

「でも独りは危険じゃ――」

「僕もいます」とバイパーは口を挟んだ。「Kさんのお供は任せてください」

 オルカはリーダーとしての決断を迫られた。危険を伴うが、〈ウロボロス〉を解体するチャンスに変わりはないのだ。逡巡(しゅんじゅん)したあと息をつく。

「わかったよ。その代わり、無謀だと思ったら必ず引くんだよ」

「もちろんだ」、Kはうなずいた。

「了解です」、バイパーは両の拳を握った。

「いくぞ、バイパー」

「はい!」

「気をつけてね」、オルカはそう言って二人の背を見送った。

 三階を占拠すると、敵は四階に逃げ込んだ。慎重に階段をのぼる。いつ何時、待ち伏せされたり、襲撃を受けるかわからない。ここは〈蛇〉の根城なのだ。

 階段の手すりから顔を出すと、すぐに銃弾が飛んできた。

「応戦するぞ」とKは言った。「確実に仕留めていけ」

「ラジャー」

 彼らは連携して階段上で待ちかまえている敵を倒していった。

「ヒイラギの姿がないな」

「逃げたんでしょうか?」

「いや、この階で行き止まりだ。捜索しよう」

「オーケーです」

 二人は警戒しながら廊下を抜けた。しかし死体の他、誰もいなかった。引き返してみると階段付近に人影があった。ヒイラギかと思ったが、三日月型の傷が目の下にある殺し屋だった。

 バイパーはピストルをスライドした。

「ここは僕に任せてください。こいつとは二度も取り逃した因縁(いんねん)があります」

「お前より格上なんだろう?」、Kは躊躇(ちゅうちょ)した。

「大丈夫です」、バイパーは笑顔を作って見せた。「それよりボスを打ち倒すチャンスなんです。Kさんはなんとしても、ヒイラギとかいうクズを探して仕留めてください」

「わかった。必ず勝て」

「ラジャー」

 Kは〈ウロボロス〉の残党を狩りながら、もういちど四階を隈なく探索した。下の階に逃げられたのか? でも細心の注意は払った。なんにせよ今が〈ウロボロス〉を殲滅する好機なのだ。このチャンスを逃せば二度とヒイラギは姿を現さないだろう。そんなことを考えながら、Kはふと見落としがあることに気づいた。初めてヒイラギと対面したことのある場所。屋上だ――

 屋上への扉を開くと突風が吹き荒れた。思わず目を細める。視界の先には、小型のヘリコプター。そしてその足もとにはベージュのスーツに黒いネクタイの男が佇んでいた。

「お前がヒイラギか」とKは尋ねた。

 ヒイラギはそれには答えなかった。「久しいね、K。どうだい? 〈ウロボロス〉に加入しないかい? 君なら報酬は弾むよ。金ならありあまるほどあるからさ」

反吐(へど)が出る」

「つれないなあ」

 Kはヒイラギの背後をちらりと見る。「またヘリで逃げる気か?」

 ヒイラギは人差し指を立てた。「ひとつの可能性ではある。でもこの強風では飛ばないな」

 Kはピストルをスライドして、今いちどピントを合わせた。

「ハンター・フロッグを拷問したのもお前か?」

「フロッグ? ああ、あの逃げ出した彼か。察しがいいね。そうだよ。この僕だよ。口が堅くて、絞り上げるのも愉快だったね」

 Kは一瞬頭に血がのぼりそうになった。それをなんとか押し留める。

「おしゃべりは(しま)いだ」

 二人は銃口を向け合っていた。

「ケリをつけようか」




オルカ「レオパード、担ぐよ(ヒョイ)」

↑実はオルカは大柄で力持ち。周りに色々と頼りにされている。

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