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システム・サクラメント  作者: Kesuyu
第7部 襲撃する者とされる者
61/71

1【K】お前はスタート地点をどこからだと考える?




 電話が繋がらない。通話中だろうか? そう思っているとキャッチホンが入った。Kが電話でキャッチホンに繋ぐと相手は管理者Ⅹにとって執事のような役割を任されているハンター・シープだった。

「調子はどうだ?」

「とくに変わりはないですね」とKは答えた。

「それはいいことだ。司令がお呼びだ。早急に本部に来い」

「光栄ですね」

「今回の作戦は非常に重要だ」

「ええ、理解しています」

「ところで、話は変わるが、お前はスタート地点をどこからだと考える?」

「スタート地点?」

 唐突な質問にKは虚を突かれる。

「スタート地点だ」

「号砲が鳴ったところからじゃ?」

 試すようにしばしの沈黙があった。

「違うな。正解は正しい場所に足を置くところからだ。足場の良し悪しによって、勝敗は八割型決まっている。くれぐれも間違った足場に足を取られるな」

 Kは考えた。「なるほど」

「それを、ゆめゆめ忘れるな」

「肝に銘じておきます」

「健闘を祈る」


〈システム〉本部に行くと、ハンター・バイパーとハンター・オルカとハンター・レオパードがいた。しかし呼び出された内容までは誰ひとり知らされていないようだった。おそらくハンター・ウルフが突き止めた〈ウロボロス〉のアジト――つまり作戦――についてだろう。彼らはエレベーターに乗って司令室まで降りた。

「まあ、楽にせえ」

 管理者Ⅹの言葉に四人は少し足を開き姿勢を崩した――そもそもレオパードに至っては最初から堂々と胸を張っているが。

「で、話はなんなんだ?」、レオパードがふんぞり返って訊いた。

 管理者Ⅹは首肯した。「明日の秋葉原の襲撃はあんたらに頼みたい。その際、レオパードはオルカの下についてもらう。こらえ性のないあんたにリーダーは無理や」

「要するに明日の出撃はこの4人だけだということですか?」、Kは尋ねた。

「察しがええ」、管理者Ⅹは微笑んだ。「デジタル家畜が発狂を繰り返とるこの状況下、人手不足なんや。次回のミッションは少数精鋭で挑んでもらう」

「僕は変わらずKさんとバディなんですよね?」とバイパーは尋ねた。

「そうや」

「だったら僕に異論はありません」

 レオパードが悪態をついた。「要は俺が敵全員をやりゃいい話だろ」

「そのとおりや。期待しとるでレオパード」、レオパードは褒めて伸ばしたほうが実力を発揮できることを彼女は熟知していた。「とりあえず出立は夜更けや。今のうちにしっかり準備して休め」

「待ってください」とオルカが口を挟んだ。「せめて僕のバディのスクワロルをメンバーに加えてくれませんか? レオパードの相棒のピジョンでもいいです」

「俺もオルカの意見に賛成です」とKは助け船を出した。

「あかん。レオパードは戦力として外せん。それに色は違えど――同じ車種の車がたくさん並んで走行してたら目立つやろ? できる限り隠密行動を心懸けてほしいねん。だから現状でベストのこの4人で行動してほしい」

「よろしくな、リーダー」、レオパードはオルカの肩を押さえた。

「総指揮はオルカが取ってくれ」と管理者Ⅹが指示した。

「僕がですか?」とオルカは驚いたように聞き返した。

「あんたが一番()()()やからな。適任や」

「御意のままに」、オルカは諦めたように首を垂れた。

「他の3人も頼んだで」

「はい」、3人は声をそろえて返事をした。


 外は曇り空だった。太陽を雲が覆い隠していて、気候は乾燥していた。ときおり凍てつくような風が吹き、手がかじかむようだ。帰り道、道すがら、大役を任されて不安げにうつむくオルカの背をKはやさしく叩いた。

「オルカ、話聞くぞ」

「なんだい、そんなにナイーヴに見えるかい?」

「そりゃな――心配するなってほうが無理な話だ。重責だからな。今回の作戦の意味は大きい」

 オルカは天を仰いだ。「そうだね。非常に重要な作戦だよ。命懸けでアジトを突き止めてくれたハンター・ウルフのためにも失敗は許されないな」

「もっと気を楽にしたほうがいい。今からその調子じゃもたないぞ」

 道の脇にあった自動販売機にKは千円札を突っ込んだ。ボタンのライトが点灯する。

「好きなボタン押せよ」

 Kが促すと、オルカは戸惑ったあとコーンポタージュスープのボタンを押した。缶が落ちてゴトンと音がする。

「温かい」、両手で缶を握りながらオルカは言った。

「そうだな」、Kもホットレモンを口にしながら言った。

「K――訊いてもいいかな?」

「なんでも」

「今回の任務、全員無事に生きて帰れると思う?」

 Kはしばらく考えながらホットレモンを飲み干してペットボトルの容器をゴミ箱に入れた。

「生きて帰れるかじゃなくて、生きて帰るんだよ。そのためのハンターだ」

 オルカの表情がはっとした。「そうだね。そのとおりだよ」

「大丈夫。しっかりサポートしてやるさ」

「ありがとう。迷いが晴れたよ」

「どういたしまして。問題はレオパードだな。頭のネジが焼き切れているからな、あの戦闘狂は」

 オルカがくすくすと笑った。「言えてる」

「まあ、作戦のリーダーなんだから、なんかあったら仲間を頼れ。バイパーもいることだしな」

「ありがとう」、オルカが握手を求めた。「本音で話せてよかったよ」

 Kはうなずいてその手を握り返した。


 自宅に帰ると、リビングで読書をしていたアウルに任務の詳細を告げ、Kは自室で寝間着に着替えて、深夜に向けて仮眠のための準備をした。アウルも寝支度をして、Kの部屋をノックする。

「それじゃあ」、ドアを開けるとアウルは言った。「おやすみなさい」

「おやすみなさい」

 窓の外からはツグミの甲高い鳴き声が規則的に響いていた。Kは中々寝つけなかった。無理もない。まだ夕方なのだ。でも睡眠はしっかりと取っておく必要がある。ベッドに横向きになりながら、色々なことを考えた。今夜未明の廃病院について、回復の兆しを見せたウルフについて、オルカの抱える密かな重圧について、そしてもう連絡が取れなくなってしまったかもしれないゴーストについて。課題は山積みだった。とりあえず今できることから解決していくしかない。そのうち手がかりが見つかるかもしれないし、常に新鮮な脳で事物は考えるべきなのだ。そこでKは頭のスイッチを切った。眠りはゆっくりとやってきた。

 深夜0時、任務にあたるハンターたちはダウンジャケットを着て、本部の前に集結した。送迎役としてゴートとアウルもいる。

「これが廃病院の場所や」、管理者Ⅹは4つに折りたたんだ地図をKに渡した。アナログで非効率的なやり方だが、その方が確実なのだ。

「なるほど」、地図を確認してKはうなずいた。「これなら2時間あれば着けますね」

「今すぐ覚えろ。地図は処分する」

「もう覚えました」

「よし」、管理者Ⅹは地図を受け取るとそれをライターの火で燃やした。「失敗は許されへん。必ず生きて帰れ」

「了解」とハンターたちは言った。

 ジープの助手席に座ると運転席でバイパーが言った。

「ほんとにあんな短時間で地図を覚えたんですか?」

「ああ、以前外回りで近くに行ったこともある。ナビは俺がする。だから運転はよろしく頼む」

「ラジャー」

 ゴートとアウルを乗せたジープが緩慢に発進した。そのあとに従って、Kとバイパー、続いてオルカとレオパードも発進する。街の端に着くと衛兵が二人、背筋を伸ばして立っていた。Kはウィンドウを開けた。

 衛兵のひとりが敬意を込めた挨拶をする。

「お話はうかがっております。どうぞお気をつけて」

「ありがとう。深夜までお疲れ様」

「それはお互い様でしょう?」

「確かに」、Kは唇の端を持ち上げた。「もし明朝に戻らなければ、死んだと思ってくれ」

「縁起でもないです。ご武運を祈ります」、衛兵は敬礼をした。

 Kも座ったまま敬礼をした。

 通信機でレオパードが急かしてくる。「おい、早くしろよ。あとがつっかえてんぞ」

「ああ、待たせた。出発しよう」

 そのようにして3台のジープは樹海の奥へと入っていった。




ど〇たん「どしたん話聞こうか?」

オルカ「いえ、けっこうです」


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