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システム・サクラメント  作者: Kesuyu
第6部 オメガとデス・ペナルティ
59/71

9【K】あとは任せてください




「そ、それで、アカウントが消滅したわけですね?」

「油断していました」とKは言った。「弁解の余地もありません」、そして深々とお辞儀した。

「か、顔を上げてください」とナキリナキは弁護した。「オ、オメガが〈システム・サクラメント〉のデータを、その、改ざんしてしまったのです。デ、『デス・ペナルティ』がかせられた以上、こ、攻略はほぼ不可能でした。む、むしろ、よくここまで頑張ってくれました」

「面目ない」

 Kはバイパーと共に、チェリーブロッサム社の本社を訪れていた。今は上層の応接室のソファに座って、お茶を飲みながら、ナキリナキとメイと対峙している。直接ナキリナキ本人が話してくれるのはKに馴れたからだろうか? どの道、話が早くてありがたかった。

「そ、それで——〈システム・サクラメント〉は、サ、サービスを終了しようと思います」とナキリナキが言った。

「ちょっと待ってください」、Kは前のめりに言った。「まだ以前うかがっていた予定より3週間ありますよね?」

「その件に関しましては私のほうから説明させていただきます」とメイが凛として口を挟んだ。「現状『デス・ペナルティ』により〈システム・サクラメント〉内でプレイヤーの過疎化が急激に進行しております。と申しますのも、その大半はKさんのようにプレイヤーによってゲーム内で死亡したアカウントだからです。つまりPKが横行しているからです」

「よくわからないんですが——」、バイパーが頭をかいた。「アカウントの復旧って、できないんですか?」

「それが可能ならいいのですが——残念ながら現状オメガにアカウントの復旧のためのシステムはすべて掌握されています」

「そうなんですね」

「ところでKさんのアバターを討ったのはツクヨミというプレイヤーでした。以前、あなたがおっしゃっていた名前です。ツクヨミはオメガと同一視してもいいと思われます。ですがツクヨミはゴーストというプレイヤーにすぐに討ち取られました」

「ゴーストさんが——」とKは呟いた。「我々にできることは何かありませんか?」

「申し出はありがたいのですが」とメイは申し訳なさそうに言った。「あなた方にできることは、現状ございません。私どもも日夜復旧作業に努めておりますが、『デス・ペナルティ』のシステムのロックも異様に堅く、解除しようにも、これ以上、手の施しようもありません」

「お、お二人は、とくにKさんは、こ、これまでよく、が、がんばってくれました」とナキリナキは真っ直ぐな瞳で言った。「あの、あとのことは任せてください」


「〈システム・サクラメント〉に関してはとりあえず捨て置け」

 ナキリナキと瓜二つの管理者Ⅹは椅子に座って、片手に持った指揮杖で、もう片方の手のひらをぺちぺちと叩いていた。Kとバイパーの二人は、チェリーブロッサム社から帰ると、〈システム〉の司令室で背筋を伸ばして並んで立っていた。Kは管理者Ⅹの言葉に疑問を呈した。

「お咎め――なしですか?」

「あんたを信頼して一任したんはうちや。責任なら任せたうちにある。むしろようやってくれた。だから気にすんな」

「気にしますよ――そりゃ。自分のミスで司令のものだったアカウントが無くなったんだから」

「責任感が強いのはええことや。安心して仕事を任せられる。ただ、自惚れんな。いかに腕が立とうが、あんた独りでどうにかなるなんて、うちも考えてない。大体うちらの目下の目標は〈ウロボロス〉を潰すことや。目的を見失うなよ」

「はっ。ご忠告痛み入ります」

「ところで、ハンター・ウルフの意識が前より大分回復した。会うてみるか?」

「是非」とKとバイパーは答えた。

 三人はエレベーターで地下2階の医務室へ行くと、医務室ではハンター・イーグルが枕もとでウルフを見守っていた。彼はこちらに気がつくなり簡易の肘掛け椅子から立ち上がった。

「司令」、イーグルが軽く会釈する。

「ウルフの調子はどうや?」

「意識はかなり安定して、回復しました。ただ普通の生活を送るのは難しいと思われるであります」

「ちょっと話させてくれ」

「御意に」

 管理者Ⅹはイーグルが座っていた椅子に腰掛けた。

「ウルフ、調子はどうや?」

 ウルフは彼女を見た。

「司令――まだ意識がくらくらしまさあ」とウルフはたどたどしく言った。

「今日は確認したいことがあって来た」、彼女は冷淡だった。「〈蛇〉の拠点はどこや?」

「それは――」、ウルフは言い淀む。「秋葉原にある廃病院だと聞きやした」

「それはどこで得た情報や?」

「それは、ええ、敵の、構成員を尋問したところ吐きやした。でも、自分も、五体満足に帰れなくて、やりきれねえですわ」

 管理者Ⅹは振り返ってKとバイパーを見上げた。

「――と、いうことや。ハンターたちの尽力により、廃病院の場所も特定しとる。明後日未明に襲撃するから、しっかり準備しといてくれ」

 Kとバイパーはうなずいた。

 Kはバイパーと別れると、その足で、リン先生の診療所に行った。中に入ると大勢の呻き声が聞こえる。医務室のベッドは8席埋まっていて、リン先生やスタッフの看護師が忙しそうに立ち働いていた。リン先生は彼に気がつくと瞳をほころばせながら「ちょっと待っていてくれる?」と言い、Kは「忙しそうだからお暇するよ」と言った。でも結局リン先生に押し切られて待つ羽目になる。

 白衣を脱ぐと、彼女は言った。

「最近、近くにレストランができたの」

 Kとリン先生は新しくできたレストランに行った。席に着くと、ポルチーニ茸とマッシュルームのクリームパスタに、アンチョビのピザ、カプレーゼ、十種のサラダを頼んで二人でシェアした。

「こんな店が出来ているのは気づかなかったな」、Kは店内を見渡した。

「悪くないでしょう? すぐに繁盛するだろうから、混む前に、今のうちに来ておいたほうがいいわよ」

 Kはリン先生の顔を見た。きっと激務が続いたのであろう。その顔はいくらかくたびれている。

「リン先生、大分やつれているね」

「ん、最近デジタル家畜の発狂が多くってね」、彼女は溜息をついた。

「悪夢の仕業かい?」、Kは水を飲みながら尋ねた。

「まあね」

「ところで悪夢はどこから生まれるんだろう?」

「人間の脳内」、彼女はサラダを食べながら即答した。「つまり蓄積された人の邪な気持ちよ」

「俺は悪夢を見たことがないな」

「そりゃそう」

「どういうこと?」

「だってKくんには邪な気持ちがないもの」

「どうだろう?」、Kは苦笑いした。「でも悪夢を見た人間はどうやって回復させているのかな?」

「特別な装置で綺麗なお花畑の映像を見させて悪夢を上書きするの。でもその際に大量の瘴気が頭から街の外に向けて放出されるわ。また犠牲者を出さないためにも、瘴気をこの街に留めるわけにはいかないから。そして瘴気が抜けきったら、元の生活に戻すってわけ」

「なるほど」

「ご飯食べていると元気でた。ありがとう」

「どういたしまして」、Kはそう言って微笑んだ。

 そうして二人で会話をしながら昼食をとった。手の込んだものは家では作らないので、街の食堂が増えたのはありがたかった。今度、アウルも連れてきてやろうとKは思う。食事が終わるとリン先生はさらにチーズケーキを優雅に平らげた。

 そのあと彼らは別れ、Kは射撃場に行って訓練を行った。最近ピストルを触っていなかったが、手にした瞬間、たちまち勘を取り戻した。ターゲットシューティングに励む。その様子をハンターたちは集まって見物していた。

 バイパーが歩み寄る。「精が出ますね」

「べつに――見せもんじゃないぞ」、Kは視線もくれずに銃を撃ち続けた。

「僕にも銃の稽古つけてくださいよ、先輩」

「また今度な」

 彼はピストルをホルスターにしまうと、右手を上げて射撃場を去っていった。


 あくる日、Kは街の外周のランニングを終えて、帰宅すると裸になり、さっそくシャワーを浴びた。シャワーを浴び終えると、身体をタオルでふき、髪にドライヤーをかける。そのあと髭を丁寧に剃り、体重計にのった。万事オーケーだった。

 家にはアウルの姿がなかったが、きっと図書館で本を読みふけっているのだろう。まあ、いいさ、とKは思う。そうして昼食のための準備を始めようとした。

 そんな中、Kは大事なことを思い出す。ゴーストさんへの電話だ。Kはデニム地の黒いエプロンを外し、電話機の子機を手にした。

 さて、なんて切り出そう。何も思いつかなかったので場当たり的に電話機の子機のボタンを押した。指先が緊張で汗ばんでいる。1度目のコール、2度目のコール、3度目のコール、4度目のコール――

 8度目のコールで反応があった。




管理者Ⅹ「で? お土産は?」

K(用意してないなんて言えない)

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