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システム・サクラメント  作者: Kesuyu
第6部 オメガとデス・ペナルティ
57/71

7【K】まだ生きているのが不思議なくらい




 シャノワールが「アシッド・フード」に行くと、パンクに「お連れさん、もう来てるよ」と言われた。事実、奥の個室に行くと、ゴーストは前と同じ席に座ってピンクダイキリを呑んでいた。

シャノワール「待たせてすみません」

ゴースト「いえ、こちらが早く来ただけです。お気になさらないでください」

 シャノワールがギムレットを注文するとパンクはうなずいて去って行った。そして頼んだギムレットが到着すると、話し合いは始まった。

ゴースト「シャノワールさん、ここに来るまでのあいだ、PKは大丈夫でした?」

シャノワール「このとおり、生きていますよ。正直、表を歩くのは神経を使いますけどね。ゴーストさんの方こそどうです?」

ゴースト「こっちは皆さん私を見ると逃げ出しちゃいます。プレイヤー・キラーの称号を認めるや否や慌てたように走り去られます。まるでみんなに嫌われた気分です」

シャノワール「ハハ、役に立っているじゃないですか。プレイヤー・キラーの称号」

ゴースト「もう——笑いごとじゃないですよ」

シャノワール「いや、失敬」

ゴースト「まったく本当に——」

シャノワール「ところで高難度ミッションも残り3つですね。ちょっと話を整理しましょうか」

ゴースト「是非」

シャノワール「では——残る高難度ミッションは3つ。〈暴食〉〈憤怒〉〈傲慢〉です。難易度は〈暴食〉が18、〈憤怒〉が19、〈傲慢〉が20ですね。この先さらに激戦が予想されます。どこから攻めましょうか?」

ゴースト「順当にいくなら、やはり一番難易度の低いミッションじゃないでしょうか? 〈暴食〉?」

シャノワール「ですね。難易度の低いミッションからクリアしてスキルポイントが増えれば、後のミッションのためにもなりますしね。メリットも多いです。ただ問題は、果たしてその難易度が本当に内容に反映されているかどうかですよね。前回の難易度17〈嫉妬〉のミッションは、ちょっと実感としてはこれまでよりも難易度が跳ねすぎです。ボスのレヴィアタンも——なんとか倒せたものの——強すぎました。もしかしたら難易度はあくまでも目安でしかないのかもしれない。それにイレギュラーであるAIの〈オメガ〉が関与していないとも言い切れない。むしろ積極的に関与しているでしょう」

ゴースト「つまり残りのミッションはどこを選んでも最高難度ということですか?」

シャノワール「可能性として——あくまで仮説ですが」

ゴースト「でしたらどのミッションを選択するのか、『せーの』で言い合いませんか?」

シャノワール「わかりました」

ゴースト「せーの——」

シャノワール「せーの——」


 視界には大型の商業施設が立ち並んでいた。シャノワールとゴーストの二人はその渋谷を模したフィールドに降り立っていた。ミッションは難易度19の〈憤怒〉。互いに残りのミッションで難易度が真ん中のものを同時に選んだのだ。難易度MAⅩの〈傲慢〉はさすがに後回しにしても、難易度の低い〈暴食〉より〈憤怒〉を選んだのは二人の知的欲求であった。シャノワールの立てた仮説が正しいのかもしれない。それを実証すべく彼らは商業ビルを見上げていた。何より苦難続きの〈嫉妬〉のミッションを一緒にクリアした二人は、これまでより、絆も深まり、たくましくもなっていた。

シャノワール「行きましょう」

ゴースト「はい」

 前に進むと二人の足もとに砲弾が飛んできた。彼らはすかさずそれを回避する。前方を見るとキャタピラに砲台をそなえた無数の鋼鉄の車輛の影が、建物のあいだから姿を現した。

シャノワール「しょっぱなから大量の戦車かよ」

ゴースト「作戦はどうします?」

シャノワール「いつもどおりでいきましょう」

 いつもどおりというのはシャノワールが前線に出て、ゴーストが後方から援護する布陣だ。

 ミッション開始早々、シャノワールが新しく獲得したスキルが躍動した。手榴弾を投げるスキル——「グレネード」だ。射程距離は短いが、広範囲に爆発させることができる。回数制限もないし、威力も悪くない。彼は前線で敵の攻撃を回避しながら「グレネード」を投げまくった。戦車が次々に爆散していく。ゴーストは後方で砲弾をかわしながら援護している。しまいには12輌あった戦車はあっけなく全滅した。

 その鮮やかな手際にゴーストはいたく感心した。

ゴースト「シャノワールさん、さすがです」

シャノワール「まだ序の口ですよ」

ゴースト「ええ、でもとても頼もしいです」

シャノワール「褒めても何も出ませんよ」

 前進するとターミナル駅に到着する。しかし前回のミッションで苦戦したゴーレムが2体、ターミナル駅の中央で沈黙していた。とおりすぎようとするとその目が赤く光る。ゴーレム2体は駆動音を上げて身を起こした。

シャノワール「今度はゴーレム2体かよ」

ゴースト「1体は私が引き受けます。散りましょう」

シャノワール「いけますか?」

ゴースト「2度目なんで、前回動きをよく観察していました」

シャノワール「ならお願いします」

ゴースト「はい」

 結果、彼らはそれぞれにゴーレムを見事撃破した。ただシャノワールは「イージスシールド」を1回、ゴーストにいたっては「スタンショット」を全弾使い切った。そのまま後から湧いた暗殺者たちを倒しながらターミナル駅エリアを抜けていく。その先には巨大な百貨店があった。

 百貨店の前には、勇壮な一頭の馬のようなものがいた。ライオンの尾にヤギのあごひげ、二つに割れた蹄。額の中央からは螺旋状に筋の入った一本の角——その長く鋭く尖ったまっすぐな角を天に向けてかざしている。ユニコーンだ。

 前肢を地面に叩きつけ、雄々しいいななきを鳴らすと、ユニコーンは彼らの方に角を向け、疾風のごとく突進してきた。目にも止まらぬ速さにシャノワールは思わず「イージスシールド」でその攻撃を防いだ。後方からはゴーストが銃撃しているが、ユニコーンは意にも介さない様子だった。「イージスシールド」の効果が切れるとシャノワールは走りながら「キャノンボール」を放ち、命中するとユニコーンは彼を追いかけた。

シャノワール「とにかく速い。ゴーストさん、動き続けて」

ゴースト「はい」

 ユニコーンが閃光のように突っ込んでくる。それを彼らはなんとかすれすれにかわしていた。立ち止まればゲームオーバーだ。画面には嫌な緊張感がそこはかとなく漂っていた。

 シャノワールは距離を保ちながら「グレネード」を投げ、そして銃を撃ちまくった。ゴーストもさらに後方で旋回しながら銃を撃ち続けている。二人とも動きまわりながらも、その手を休めなかった。一方、ユニコーンはそのフィールドを縦横無尽に駆け巡っている。

シャノワール「まるで闘牛だな」

ゴースト「ですね」

 ユニコーンの体力が半分まで削れると、その背から光の翼が生えてきた。そして翼を広げると宙を舞い始め、つむじ風を巻き起こす。つむじ風は地面から天に向けてあらゆる粉塵を巻き上げながら彼らに襲い来る。その隙をついてユニコーン自身もプレイヤー目がけて突進してくるのだ。

シャノワール「退避だ」

 防戦一方となる。

 彼らは逃げまわった。最終的につむじ風は3つ出現し、さらにその中をユニコーンが駆け巡る。だが次第にシャノワールの目は未だかつてないほどのユニコーンの速度に馴れてきた。相手の進行方向に「グレネード」を投げ、退避する。見事、爆発にユニコーンは巻き込まれた。それを何度も繰り返す。それこそまさにマタドールだ。そのあいだゴーストも懸命に銃を撃ち続けていた。

 彼らはユニコーンを撃破した。

シャノワール「かなり消耗しましたね」

ゴースト「もうわけがわからないです。まだ生きているのが不思議なくらい」

シャノワール「僕もです」

ゴースト「なんと!」

シャノワール「やはりこのゲーム、バグってますよ。クリアできる仕様じゃない」

ゴースト「それでも進むんですね?」

シャノワール「もちろん」

ゴースト「お供します」

シャノワール「心強い」

 シャノワールは自身を奮い立たせた。画面の向こう側で左胸を叩く。ゲームがバグっていようがいまいが失敗は許されない。タフに冷静に、任務に忠実であれ。

 しばらく暗殺者を屠りながら前進すると、誰もいないスクランブル交差点が見えた。その奥には天を衝く、一際巨大な商業ビルがある。

シャノワール「おそらくこの先がボスです」

ゴースト「わかるんですか?」

シャノワール「まあ、なんとなく、経験的に——」

ゴースト「その勘、信じます。進みましょう」

シャノワール「ええ、行きましょう」

 商業ビルの正面に歩み出ると、辺りは夜になった。赤い明滅が画面上を支配し、その中央には「WARNING」という文字が躍り出る。妙な静けさが彼らを包んでいるが、ボスどころか敵の姿も見られない。シャノワールはふと天を仰いだ。

シャノワール「ゴーストさん、見てください。あのひと際高い商業ビルの頂上」

 遥か彼方、商業ビルのてっぺんには黒いブラックホールのような球体のねじれが発生していた。やがてそこから2対6枚の漆黒の羽を持つ美しい青年が一糸まとわぬ姿で膝を抱えて現れた。その足もとには体力ゲージが表示され、頭の上には敵の名前も表示される。その名前は「サタン」だった。




ゴーレムさん「秒殺すな!」

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