4【Ⅼ】結果はなるようにしかならない
新しいミッションは激戦必至だった。暗殺者が次から次に湧いてきたからだ。もう敵を30体は屠っている。
シャノワール「まったくキリがないな。もっとゲーム調整くらいしてくれてもいいのに——『オメガ』も楽に攻略させるつもりはないようだ」
ゴースト「押し込まれています。どうしますか?」
シャノワール「とりあえず二手に別れて、敵の流れを裂きましょう」
ゴースト「ラジャー」
二人は離れて壁の陰から暗殺者を撃っていった。シャノワールは隙を見て家屋にのぼり、屋根の上から暗殺者を銃撃していく。それを見て、ゴーストも屋根にのぼると相手は路上に固まってしどろもどろになった。そこに銃弾の雨を降らせる。
シャノワール「このまま屋根の上を突っ切りましょう」
ゴースト「承知しました」
彼女らは住居の上を飛び跳ねながら前進していった。すると四方から——50体はあろうか——大量のドローンが飛んできた。そいつが機銃掃射してくる。Kはすかさず屋根から飛び降りた。
シャノワール「高所での戦闘も折り込み済みか」
ゴースト「どうしましょう」
シャノワール「僕がそちらに行きます」
彼は反対側の家屋にのぼり、ゴーストの背後に背中を合わせた。
シャノワール「背中は預けます」
ゴースト「はい」
彼女らはドローンをひたすら撃った。撃ちまくった。ドローンは撃たれるたび煙を上げながら墜落していく。墜落した先ではひりつくような爆発が起きた。
シャノワール「不味い。爆弾を積んでいる。とにかく距離を詰められないようにしましょう」
しかし健闘虚しく、ドローンとの距離はじりじりと縮まっていく。それでもゴーストとシャノワールは正確にドローンを撃ち落としていった。やがてドローンが一斉に二人に向けて飛んできた。自爆攻撃だ。屋根の上では激しい爆発が起こった——視界が爆炎にさえぎられている。終わった、とゴーストは思った。これでアカウントは消滅して、シャノワールさんともお別れだ。シャノワールさんは無事だろうか。それにしても変ね。画面が切り替わらない。ミッションのステージのままだ。
ふと、チャットで呼びかけられる。「ゴーストさん——」。「ゴーストさん、銃を撃ってください」。
我に返るとゴーストは生きていた。ダメージひとつない。シャノワールが「イージスシールド」を展開して、防御シールドのドームを張ったのだ。それをうかがうように、周囲には10体のドローンが飛んでいた。
ゴーストは迅速にドローンを全部撃ち落とした。
ゴースト「撃破しました」
シャノワール「ゴーストさん、大丈夫ですか? 少し休みます?」
ゴースト「お気遣いありがとうございます。大丈夫です。今は前に進みましょう」
前進するとゴシック調の大きな建物の前にたどりついた。庭を取り囲むように外壁が彼女らを包み込む。その中央には一体の——5メートルはあろうか——人型のマシンよろしく巨大なゴーレムが座り込んでいた。目が赤く光り、起き上がる。
シャノワール「どうやら簡単にとおしてくれそうにないな」
ゴースト「ボスまで遠そうですね」
シャノワール「いつもの連携でいきましょう。僕が前に出るので、ゴーストさんは後方から支援してください」
二人は銃を撃ち込みながら分散した。敵の体力ゲージがわずかに減る。
ゴースト「見た目どおり硬いです」
シャノワール「手を休めないで」
ゴーレムがシャノワールに殴りかかってきた。ゴーレムが拳を振り下ろす。すると命中すれば即死レベルの地鳴りが起こる。だがシャノワールはそれを難なくかわしていた。どうやら相手の動きは遅いようだ。シャノワールはすかさずゴーレムの後ろにまわり込んだ。そして銃をチャージすると「キャノンボール」を炸裂させた。ゴーレムの体力ゲージが5%ほど減少した。
するとゴーレムは手を前に掲げ、指が外れた。そこからミサイルが顔を覗かせる。ゴーレムは上空へ向けてミサイル10発を発射した。よく見ると弾の動きが自立している。
シャノワール「ホーミングだ! ゴーストさん、ミサイルに的をしぼって撃ち落として!」
ゴースト「はい!」
ホーミングとは自動追尾のことだ。ミサイルは二手に別れてゴーストとシャノワールを襲った。彼女らは上空から迫りくるミサイルを撃ち落としていく。撃ち落とし損ねたミサイルは、着弾直前に転がり込んでかわした。
そのあとすぐに拳の連打がシャノワールに飛んでくる。彼はそれをなんとかいなした。ゴーストはそのあいだずっと銃を撃ち続けた。一発でも多く当たれ、と願いながら。
ゴーレムの攻撃パターンはパンチとミサイルの交互の繰り返しに思えた。だが体力が3分の1になると、足と背中から放射状の光を放ちながら宙を舞った。ゴーストをとらえるとブーストして、飛び込んできた。彼女はたまらず、外壁の陰に滑り込んだ。なんとか直撃は避けたものの、ゴーレムの激しいパンチは外壁を薙ぎ倒していた。次にビームのサーベルをゴーレムは取り出す。それも2本——片手ずつだ。今度はシャノワール目がけて飛んできて、その激しい連撃にシャノワールは押されていた。
それからゴーレムはまた宙に舞い上がり、ミサイルを放った。
ゴースト「こんなのありなの?」
シャノワール「もはやSFだな」
彼女らがミサイルを撃ち落とすと、ゴーレムが旋回してシャノワールを襲った。ビームのサーベルを間断なく斬りつけてきて、シャノワールは防戦一方となる。シャノワールは壁際まで押し込まれる。するとゴーレムの動きがはたと止まった——体力ゲージはまだ4分の1ほどあるのに。
ゴースト「新スキルの『スタンショット』です。撃った相手を麻痺状態にします。ボス戦までとっておきたかったのですが、今のうちに攻撃しましょう」
シャノワール「ハハ、さすが。助かりました」
二人は協力してゴーストを撃破した。一旦立ち止まり、態勢を立て直す。
シャノワール「ゴーストさん、『スタンショット』ってあと何回使えますか?」
ゴースト「1日3回なので、あと2回です」
シャノワール「『イージスシールド』もあと2回か——」
ゴースト「なんとかなりますよ」
シャノワール「そうですね。思いつめるのはよくないですね。今さら引き返せないし、準備したならゴールまで全力で走る。結果はなるようにしかならない」
ゴースト「はい! その意気です!」
再び閑静な住宅街を歩く、暗殺者やドローンが大量に表れたが彼女らはノーミスでそれをクリアしていった。坂道をのぼるときは細心の注意を払った。ゲームの中とはいえど、上空はくっきりと澄んでいて、果てしなく青を讃えていた。最後にたどりついたのは美術館だった。
敷地内に入ると夜の帳が一気に降りた。画面が暗転する。案の定、警告音が鳴り響き、画面が赤く明滅しだした。画面中央に「WARNING」という文字が躍り出る。二人の足もとの前は渦を巻き、その中央から巨大な竜の頭が顔を出したと思ったら、途端に天高く蛇のような胴体を晒した。体力ゲージが表示され、頭の上には「レヴィアタン」と名前が表示される。その体躯は大きく、鱗は盾のようで、攻撃が通るか疑問だった。でもやるしかない。
レヴィアタンは挨拶とばかりに口から光線を噴き出してきた。彼女らはそれをよけるも分断される。二人は迎撃すべく銃を放つが、レヴィアタンは意に介す素振りもなく、今度は炎を噴き出してきた。それもなんとかかわす。
シャノワール「ハハ、レヴィアタン、今までになく重量級だな」
ゴースト「攻撃が全然通らない」
シャノワール「でも的が大きいから当てやすい。できるだけ距離をとって、長期戦を覚悟しましょう」
ゴースト「はい」
レヴィアタンが首を振りかぶって噛みついてきた。ゴーストはバックステップでそれをかわす。そして銃撃した。すかさずシャノワールはレヴィアタンの懐に潜り近距離射撃した。するとレヴィアタンは尾をしならせて今度はシャノワールを吹き飛ばした。粉塵の中、彼は立っていた。「イージスシールド」を張っている。すんでのところで攻撃を防いだのだ。
シャノワール「ゴーストさん、スタンショットを」
ゴーストはスタンショットを放った。レヴィアタンの動きが止まる。麻痺効果のあいだ中、二人は我武者羅に銃を撃った。撃ち続けた。
結果レヴィアタンの体力ゲージが10%ほど減少した。
ゴースト「これだけ猛攻を浴びせて1割?」
シャノワール「仕方ない。致命傷は避け、地道にやりましょう」
レヴィアタンは後方に下がった。そのままじっとしている。彼女らは黙々と銃を撃った。ふいにレヴィアタンが天に向かって叫び声を上げる。
シャノワール「不味い。僕の後ろに隠れて」
ゴースト「はい」
レヴィアタンの後方からは烈しい津波が押し寄せてきた。まさに怒涛の攻撃だ。その勢いは目に映るすべてを薙ぎ倒す。彼女は津波によってもう駄目かと思った。もう死んだかと思った。気がつけば何もない廃墟に佇んでいる。シャノワールさんは? 彼の姿を捜したら、目の前で彼は「イージスシールド」を展開していた。
シャノワール「絶対勝ちますよ」
ゴースト「はい!」
彼がいれば私は大丈夫だと彼女は思った。
スキルポイントはかなり重要なものです。一度クリアしたミッションの周回もできなないので割り振りが難しいのです。




