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システム・サクラメント  作者: Kesuyu
第6部 オメガとデス・ペナルティ
53/71

3【K】はがす方法はないですよ




 シャノワールは〈アシッド・フード〉の個室に座って、カクテルグラスを傾けながらゴーストを待っていた。もう半時間も経っている。おまけにDMを送っても返信がない。これを呑み終えたら諦めて店を出ようと思っていると、ゴーストが駆け足にやって来た。

ゴースト「待たせてごめんなさい」

シャノワール「いえ、そんなに待っていないですよ」

ゴースト「何を呑んでいるんですか?」

シャノワール「ダイキリ」

 ゴーストは入口に待機しているパンクに言った。

ゴースト「じゃあ、同じので——」

パンク「あいよ」

 向かい合わせに座ると、シャノワールはゴーストの名前の末尾にドクロマークがついているのが気になった。ドクロマークはプレイヤー・キラーの証。一度でもPKを行うと強制的に付与される。他プレイヤーに嫌われるのはおろか、出入りできる店も少なくなる。

シャノワール「ゴーストさん、PKの称号が付与されていますよ」

ゴースト「そうなんですよ。これ、はがせなくって」

シャノワール「はがす方法はないですよ」

ゴースト「そうなんですか? 襲ってきた人たちを倒しただけなのに」

 そこでパンクがやってきてダイキリをテーブルに置いた。

パンク「ごゆっくり」

シャノワール「ありがとう」

ゴースト「恐れ入ります」

 パンクは音もなく部屋を後にした。

シャノワール「まずは乾杯しましょう」

 二人は乾杯をした。

シャノワール「それにしても襲ってきたプレイヤーをひとりで倒したのですか?」

ゴースト「倒しました。でも運がよかったんです。前回のマモン戦で『女神の偶像』というアイテムをドロップしていて、一度HPが0になったのですが、身代わりに『女神の偶像』が砕けてHP1で復活しました。そのあと、敵を撃退したわけです」

 シャノワールは自身のアイテム欄を表示して眺めてみた。「女神の偶像」などというアイテムはない。レアドロップアイテムなのだろうか?

シャノワール「相手はどんな奴でした?」

ゴースト「それが——初期装備のプレイヤーに見えました」

シャノワール「だったら相手は捨て垢かもしれないですね」

ゴースト「捨て垢?」

シャノワール「使い捨てのアカウントのことです。なんにせよゴーストさんが無事でよかったです」

ゴースト「それにしてもなぜPKなど行う人がいるのでしょう? 何かメリットがあるとでも?」

シャノワール「一応PKに成功すれば相手の所持品の約1%をドロップすることができます。ただし、プレイヤー・キラーの称号を得ると、多くの施設に出入りできなくなり、デメリットの方が遥かに大きいですね。PKを行う人の大半は愉快犯だと思ってください。ネット上には他者へ嫌がらせをして愉しむ輩がごまんといるので」

ゴースト「そうなんですね。それにしてもプレイヤー・キラーだなんて私には不名誉な称号です」

シャノワール「ハハ、よく似合ってますよ。まあ、どの道『デス・ペナルティ』の発動以降、状況は一変しています。もはや施設を利用できなくなっても、それほど意味をなさないでしょう。宿屋でセーブしたところで復活できないのですから」

ゴースト「言われてみれば、確かにそうですね」

シャノワール「前向きに考えましょう」

ゴースト「はい」

 ゴーストはダイキリをひとくち飲むと、カクテルグラスをテーブルに置いた。

ゴースト「ところでやはりこういう場所にはよく来られるんですか? 馴れてらっしゃると言いますか——」

シャノワール「それはゲームの話ですか? それともリアル?」

ゴースト「リアルで」

シャノワール「仕事柄、バーにに立ち寄る機会は滅多にないですが、都合がつけば稀に入りますね」

ゴースト「私はリアルでもこういうところには入ったことがありませんので、だからなんだかまるで異世界に来たような気分で楽しいです」

 シャノワールはうなずいた。

シャノワール「ちなみに我々が今飲んでいるダイキリは、文豪アーネスト・ヘミングウェイが愛したことで名高いカクテルですよ。補足すると、ヘミングウェイが好きだったのはクラッシュアイスをたっぷりと加えたフローズンタイプですが」

ゴースト「ヘミングウェイって、あの『老人と海』の?」

シャノワール「そう、あの『日はまた昇る』の」

 そこでパンクが注文を訊きに来た。シャノワールはモヒートを頼み、ゴーストも「同じものを」と言った。パンクはうなずくと空いているグラスを下げ、しばらくするとモヒートを二つテーブルに置いて去って行った。ひとくち飲むとお互いに本題を切り出した。

シャノワール「あの——」

ゴースト「あの——」

シャノワール「どうぞ」

ゴースト「あ、はい。あのDMでもお話したとおり、検討の末、高難度ミッションの完全制覇をお供させてもらおうと思います。ここまで一緒にやってきましたし、何よりシャノワールさんを独りにさせたくありません」

シャノワール「アカウントが消滅する覚悟はおありですか?」

ゴースト「どのみち〈システム・サクラメント〉のサービスが終了するのであれば、精一杯あがいてみたいのです」

 シャノワールはしばらく黙ってモヒートを呑んだ。そして空になったカクテルグラスをテーブルに置いた。

シャノワール「そうですね。おっしゃるとおり、精一杯あがきましょう。死なばもろともです」

ゴースト「はい。一蓮托生ですね」

シャノワール「ちなみに今からミッションに行くことは可能ですか?」

ゴースト「可能です」

シャノワール「パーティに招待しますね」

 ゴーストはシャノワールからのパーティの招待を承認した。

シャノワール「順当に行けば、次は難易度17の〈嫉妬〉のミッションかな?」

ゴースト「あの——」

シャノワール「どうしました?」

ゴースト「もしアカウントが消滅したときのために、連絡先を交換しませんか?」

シャノワール「交換したいのはやまやまですが、僕は携帯電話を持っていません。組織的に禁じられている上、山深い街で暮らしているので」

ゴースト「私も職業上、携帯電話は持っていません。ですが住まいに固定電話はないのですか?」

シャノワール「あります」

ゴースト「でしたら、何かありましたら03********にかけてください。リリィと言う名前を告げれば繋げてもらえるはずです」

シャノワール「わかりました。メモしておきます。ただ、電話は盗聴の恐れがあるので、万が一の場合だけ使わせてもらいますね」

ゴースト「そうですね。あまり気軽にはいきませんよね——」

シャノワール「うちの電話番号は05********です。名前はケイ」

シャノワール「これでおあいこですよね?」

ゴースト「おあいこです。ありがとうございます」

シャノワール「では話もまとまったところで、外に出ましょうか。屋内からではステージに飛べないので」

ゴースト「はい」

シャノワール「ミッションは難易度17〈嫉妬〉」

 ゴーストはうなずいた。

シャノワール「準備はいいですか?」

ゴースト「いつでも」

 シャノワールは七つの大罪〈嫉妬〉のミッションを受注した。途端にシャノワールとゴーストは閑静な住宅街に飛ばされる。沿道の住居は大きく、立派だった。

 そこは白金を模したマップだった。

シャノワール「慎重に進みましょう」

ゴースト「はい」

 彼らはマップの奥へと進んで行った。




ゴースト(シャノワールさんの連絡先ゲット!)

シャノワール「緊急用ですよ」

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