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システム・サクラメント  作者: Kesuyu
第5部 激突と処女懐胎
46/71

6【Ⅼ】これからどうなるんだろう




 リリィとアイリスが〈ウロボロス〉の襲撃を受けたという情報は、即座にシスターたちのあいだで共有された。シスター・アイリス、シスター・リリィ、シスター・ビオラ、シスター・パンジーは、その日の夜、緊急で会議場の円卓の椅子に座り、話し合いを行っていた。周囲には緊張感が漂い、静けさが耳にこびりつくような、そんな不穏な夜だった。

「だからあたしは反対したのよ」とビオラが語気を強める。「二人が出かけるのも、〈ウロボロス〉と関わるのも——」

「そうね」、アイリスがそれに同意した。彼女がビオラの詰問に反論しないのは珍しい。不測の事態に気が滅入っているのだ。「相手を舐めてたってわけじゃないけれど、正直詰めが甘かったわ」

「でも、もう引き返せませんよね?」とパンジーが確認する。

「私たちは〈ウロボロス〉の()()となった」とリリィが静かに言う。「引き返せないわ」

 ビオラは頭を抱える。「なんとか状況を打破できないの?」

「〈蛇〉の頭を取る」、アイリスが即座に言った。「現状考えうる最善の策ね」

「でもどうやって?」

 アイリスは首をひねった。「わかんない」

「ちょっと——」

 リリィが口を開いた。「私がシャノワールさんに相談してみる」

「シャノワールって暗殺の依頼主の?」とビオラが尋ねる。

「そう」、リリィはうなずく。「あの人なら何かアドバイスをしてくれるかもしれない」

「そうね、〈ウロボロス〉のことを知らせてくれて、さらに警告してくれたのもその人だしね」とアイリスが賛同する。「そっちは任せるから、有益な情報を引き出して」

 リリィはうなずいた。

「子供たちはどうするのですか?」とパンジーが不安げに言う。「修道院が私たちの隠れ蓑になっているのは〈ウロボロス〉も嗅ぎつけているのでしょうか?」

「どうだろう」、アイリスが小さく首を振った。「でも万が一に備えて、シスターは子供たちの傍にいてあげましょう。もしここを襲撃されたら、すみやかに子供たちを地下のシェルターに誘導すること」

 他の三人は顔を見合わせて首肯した。

「とにかく今日はもう遅いし、続きは後日行いましょう」

「異議なし」と他の三人は声をそろえて言った。

 自室に戻りリリィが〈システム・サクラメント〉にログインすると、シャノワールから高難度ミッションのお誘いがきていた。それについて返事をすると、彼がゲームにログインしていないことを確認し、ゲーミングパソコンをシャットダウンしてから、蓋を閉じた。ベッドに仰向けになる。

「これからどうなるんだろう、私たち」、彼女は呟いた。

 そして掛布団を深く被ると、そのまま目を瞑った。


 翌朝、リリィは「お腹の子供のこともあるし、今日はゆっくりしてなさい」とシスターたちに諭される。結果、彼女は自室でずっと編み物をして過ごしていた。穏やかなひとときだ。昼前にイチカが部屋に入ってきた——幼いので、いつものようにノックなしで。

「どうしたの、イチカ?」とリリィは尋ねた。

「リリ」とイチカは言って駆け寄って来る。「リリ」

 飛び込んできたイチカをリリィはぎゅっと抱きしめる。その肌からはイチカの温もりが伝わる。

「あったかい」とイチカは言う。

「みんなと遊ばなくていいの?」

「うん、リリといる」

「仕方ない子ね」

 そう言いながらも、彼女はイチカの愛くるしさに、どうにも抵抗できそうになかった。

「リリ」とイチカは言った。「とおくにいっちゃう、やだ」

「遠く?」とリリィは聞き返す。「行かないよ?」

「ほんと?」

「ええ、本当よ」

 部屋の扉が三回ノックされる。この乱雑な音はビオラだ。リリィは入口に向かって「どうぞ」とどなった。ドアが開くとビオラが部屋に入って来た。

「駄目じゃない、イチカ」、ビオラがイチカの後ろに立つ。「シスター・リリィは今日、お休みなの」

「いや、いや」

「ごめんね、イチカ」、リリィはイチカの頭をなでる。「また今度相手してあげるからね」

「いや、いや」

 ビオラがイチカを強引に抱っこする。するとイチカはまるで今生の別れとでもいうように泣きわめいた。

「いや、いや」

「あとはこっちで面倒見るから」とビオラが言った。

「うん、お願い」、リリィはうなずいた。

 そしてビオラは泣き叫ぶイチカを胸に抱えたまま部屋を後にした。


 夜になるとリリィはゲーミングパソコンを起動した――〈システム・サクラメント〉にログインするために。待っているあいだ、ホットココアを飲んで一息つく。それから天井を見上げる。ゲーミングパソコンが起動すると、彼女はさっそく〈システム・サクラメント〉にログインした。

 メールボックスにDMが届いている。シャノワールさんからだ。


〈ウロボロスの襲撃を受けたということですが、大丈夫ですか?〉


 シャノワールはログインしている様子だった。リリィはすぐに返事をした。


ゴースト『ご心配おかけしました。襲撃してきた人たちは全員撃退したので私たちは無事です』

 15秒後。

シャノワール『やはり巻き込んでしまって改めて申し訳ありません。せめてゴーストさんが無事で何よりです』

ゴースト『いえ、誰も怪我すらしていませんし。お気になさらないでください』

シャノワール『お心遣い感謝です』

 8秒後。

ゴースト『ところで〈ウロボロス〉の本拠地はおわかりですか?』

シャノワール『いえ、捜索中です。〈ウロボロス〉の拠点はいくつか存在して幹部は定期的に場所を移動するそうです』

ゴースト『ということは、こちらからは仕掛けられない?』

シャノワール『要約すると、現状そういうことですが、山梨にある拠点は先日我々が潰しました』

ゴースト『拠点を突き止めたのですか?』

シャノワール『ええ、仲間の尽力によって。敵の幹部には逃げられましたが』

 4秒後。

ゴースト『そうなんですね。私どもとしましては、〈ウロボロス〉を壊滅させたいというのが組織の本懐です。敵のトップの居所が判明したら、ぜひ情報を教えてほしいのです』

 12秒後。

シャノワール『我々も同じ考えで動いていますが、もし〈ウロボロス〉の拠点がわかればゴーストさんたちだけで攻め込むというのですか? 危険ですよ』

ゴースト『問題ありません。私たちはプロです。死線は何度も超えています』

 7秒後。

シャノワール『そうですか。失礼しました。情報が入り次第お伝えできるように取り計らってみます』

ゴースト『ありがとうございます』

 4秒後。

シャノワール『話は変わりますが、高難度ミッションって前回から少しは進みましたか?』

ゴースト『いえ、何度か挑戦したのですが、ひとりでは太刀打ちできませんでした』

シャノワール『だったら今から一緒にやりませんか?』

ゴースト『お誘いありがとうございます。是非、お供させてください』

 10秒後。

シャノワール『順当にいけば次は難易度16〈強欲〉のミッションですね』

ゴースト『はい』

シャノワール『例によって、またナインス・シティーの宿屋の前で落ち合いましょうか』

ゴースト『かしこまりました』


 ゴーストがナインス・シティーの宿屋の前で待っていると、ほどなくしてシャノワールがやって来た。

シャノワール「お待たせしました」

ゴースト「いえ、そんなに待ってはいません」

シャノワール「ではまずはセーブを取って、パーティを組みましょうか」

ゴースト「はい」

 宿屋でセーブを取り、二人はパーティを組む。

シャノワール「それではミッションの準備はいいですね?」

ゴースト「いつでも」

 シャノワールがミッションを受注すると、二人は夜の歓楽街のフィールドに飛ばされた。クラブやパブ、バーなどが軒を連ねており、派手な原色のネオンサインがいたるところに輝いて眩しい。そして画面奥にはライトアップされた東京タワーが臨める。

 新たなステージは六本木だった。




ギロッポン!

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