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システム・サクラメント  作者: Kesuyu
第5部 激突と処女懐胎
43/71

3【K】こういう場所はダンジョンの階層を重ねるたびに敵も強くなるんです




 ハンター・ピジョン率いるA班が旅館に潜入すると、しばらくして銃撃戦の音が聞こえた。ハンター・レオパードのどなり声と誰かの悲鳴も聞こえる。

『こちらピジョン。〈蛇〉と遭遇』

『こちらK。敵の数は?』

『わかりません。ぞくぞくと湧いてきます。しかし1階は足止めしますので、B班とC班も追って潜入を』

『了解』

 Kとハンター・オルカは顔を見合わせ、そして頷いた。KはC班のメンバーであるハンター・バイパー、ハンター・ホース、ハンター・モモンガの方を見る。三人とも覚悟を決めたような顔つきをしている。でもこんなところで死なせるわけにはいかない。

「行くぞ」とKは言った。

「はい」と他の三人は言った。

 B班とC班が旅館の中に入ると中は薄暗かった。月明かりを頼りに銃をかまえながら慎重に辺りを見渡した。ロビーの奥にフロントがあり、足もとにはたくさんの死体が転がっている。そしてどの死体の首筋にも蛇のタトゥーがあった。ビンゴだ。ここが〈ウロボロス〉の山梨県でのアジトに間違いない。B班とC班はフロントの横にある階段を駆け上がって行った。そんな中誰かが唾を飲み込む音がした。

 電気が通ってないのでエレベーターは使えず——機能していたとしても危険なので使わないが——二階に到着すると階段の手すり壁に身をかがめてロビーを観察する。八人の男がピストルを持って待ちかまえていた。顔を出したKの目の前を銃弾がかすめる。Kはすんでのところで顔を引っ込めた。

「こっちにも〈鴉〉がいるぞ」と相手は叫んだ。「野郎ども、集まりやがれ」

 応戦しようとするKの肩を、オルカは摑んだ。「二階はB班に任せて。Kたちは上を目指してほしい」

「わかった」、そう言ってKはC班のメンバーを見る。「三階に突っ切るぞ」

「ラジャー」

 まずオルカ率いるB班が階段の手すり壁から銃撃を始めた。そのあいだにK率いるC班は三階に上がる。三階のロビーには誰もいなかった。

 無線が入る。

『こちらピジョン、一階を制圧しました。負傷者なし』

『ほとんど俺が仕留めたぜえ。20人以上ってとこか』とレオパードが言う。

『まさしく鬼神のごとき闘いぶりでした』とウォルラスが賛辞を贈る。

『ハハハ、そうだろう? もっと褒めろ』

『とにかくA班も上に行きます。ご武運を』

『この旅館、何階あるんだ?』とレオパードが声を上げた。

『五階建てだ』とKは指摘する。

『なら全員ぶっ殺してやる』、レオパードは高笑いした。『まだ全然物足りなかったんだ。どいつもこいつも張り合いがない』

 Kたちは三階の部屋を一つひとつまわって、たまに潜んでいる——ベッドの陰などに隠れて——敵を殲滅していった。階を増すごとに敵の熟練度が上がっている。そんな中ホースが敵に背後を取られたのは油断だった。だがモモンガがなんとかそれを銃撃によって打ち倒した。

「ホース、怪我はないか?」とKは訊いた。

「はい、お陰さまで傷ひとつありません」とホースが答えた。

「モモンガもよくやった」

「あ、ありがとうございます」、モモンガは感激した。

「RPGでいうとこういう場所はダンジョンの階層を重ねるたびに敵も強くなるんですよね」とバイパーが言った。「四階からはさらに気をつけた方がいいです」

「何調べだ?」、Kは呆れた。

「だからRPG調べです」、バイパーはキリッとした。

 しかしバイパーも腕を上げたな、とKは思う。まさに正射必中の銃捌きだ。ハンターの中でもバイパーに勝るものは、今やそう多くはないだろう。自分もうかうかしていられない。

『二階に敵の増援。至急応援を頼めないかな?』と無線からオルカの声がする。

『今向かっています』とピジョンが言った。

 KたちC班は三階を一周し、索敵し終えるとKを先頭に階段を上った。

『こちらK。これから四階に足を踏み入れる』

『お気をつけて』とピジョンとオルカが言った。

 C班が四階に到着すると、辺りはしんとしていた。また〈蛇〉の連中がいない。下の階に加勢に行ったのか、それとも逃げ出したのだろうか? Kが階段の手すり壁から顔を覗かせると、すかさず弾丸が飛んできた。Kはそれに対して身をよじってかわす。

「Kさん、下から敵が駆け上がって来ます」とホースがどなった。

 不味いな。階段で挟み撃ちにあったらひとたまりもない。ホースとモモンガは下から上ってくる敵を迎撃していた。

「ホースとモモンガは階段に居残って下からの敵を頼む」

「任せてください」とホースとモモンガは言った。

「バイパーは俺と一緒に先に行くぞ」

「オーケーです」とバイパーは言った。

 前に踏み出すと銃弾の雨が降った。Kとバイパーは壁に張りつきながら、銃声と弾丸の出処から敵の位置を摑んで迎撃する。敵を屠りながら奥の廊下を進んでいくと、一発の銃弾がバイパーの肩をかすめる。バイパーは思わず「つっ」と言った。

「大丈夫か?」とKは訊いた。

「ええ、かすり傷です」とバイパーは答えた。

 曲がり角から銃弾の主がゆっくりと姿を現す。オリーブ色のジャケットを羽織り、灰色のスラックスを穿いている。髪は長髪で、狂気を宿した左目の下には三日月型の宿命的な傷があった。手にはシルバーのハンドガンを提げ、その佇まいは分厚い氷壁を思わせた。

「プロだな」、Kはすぐさまその臭いを嗅ぎ取った。

「ですね」とバイパーも同意した。「先輩、ここは僕に任せて先に行ってください」

「いけるのか?」

 Kは訝った。だが今日のバイパーを見ていれば、プロとも渡り合えるであろう。あまり過保護になってはいけない。迷っているとバイパーが言った。

「バディですから」、バイパーは微笑した。

「わかった。任せる」

 Kはピストルを撃ちながら長髪の方に突っ込んだ。長髪もそれに反応して迎撃してくる。すかさずバイパーが援護射撃をする。それにも応戦している内に、Kは長髪の傍を通り抜けた。

 階段まで到着するとKは無線を使った。

『こちらK。バイパーが四階で応戦中。援軍を頼む』

『こちらは思ったより数が多くて雑兵の処理で手一杯だよ』とオルカは言った。

『レオパードを向かわせる』とピジョンが返事をした。

『すまない。恩に着る』

『うう、惜しいやつをなくしたなあ』、レオパードが泣き声を発した。

『いや、まだ生きてるから。勝手に殺さないでくれ』とKは訂正した。

 Kは四階をぐるりとまわり、五階への階段を駆け上がった。五階はやけに静かだった。銃をかまえ、慎重に踏み出していく。五階を隈なく調べたところ、この階層には誰ひとりいなかった。見落としがあるか(見落とすはずもないが)、皆、下に降りたのだろうか?

 ふと屋上への入口を見つける。まさか、とは思いつつ、Kは一応確認することにした。扉の鍵は開いている。Kは屋上に繋がるドアをそっと開いた。

 屋上は吹雪いていて、その奥にひとりの男が月明かりの下、背を向けて両手を広げていた。気配を察して顔だけをKに向ける。

「やあ、遅かったね」と男は言った。

 Kは目を細めていた。「お前がボスか?」

「そうだよ。僕が〈ウロボロス〉の最高幹部さ。中々楽しい余興だったよ」

 最高幹部という言葉にKは衝撃を受けた。思わぬ大物を釣り上げた気分だ。ここでこいつを始末すれば無益な争いもなくなるかもしれない。Kは男に銃口を向けた。

「投降すれば命は助けてやる」

「できるのかい? 君に」

 Kは男の足もとをピストルで撃った。

「死なないていどに痛めつけることもできる」

「君、Kだろ? 懸賞金1億7000万円の? 伊達眼鏡をかけていてもわかるよ」

「さあ? 誰かと勘違いしているんじゃないか?」

「いい目をしているね。でも駄目だよ——殺すか捕らえるか、はっきりさせないと。そんな迷いのある銃弾なんて全然恐くないね。もう手遅れだよ」

 男は振り向きざまにホルスターからピストルを抜き取って発砲した。それはKの頬をかすめた。頭なんていつでも撃てるってことか。それはこっちも同じこととKは思い、迎撃する。しかし男は身を翻し、その銃弾をかわした。

「もう手遅れだよ」

 男は冷静に銃弾を放った。それはKの左胸に命中した。彼は思わずその場に膝をついた。

「くっ」

「愉しかったよ。まさか鴉が蛇に噛みつくなんて、ひさびさに興奮しちゃったね。まあ、君たちもがんばった方だよ」

 すると屋上の陰からから青い小型のヘリコプターがブレード音を響かせながら姿を現し、そのドアから下ろされた梯子に男は摑まった。

「ジ・エンド」と男は言った。「余興としては60点くらいかな? アデュー」

 そしてヘリコプターは上空に舞い上がって、彼方へと飛んで行った。




K「確か作戦って相手の寝込みを襲うはずじゃ」

ピジョン「そういった苦情はレオパードに言ってください(ズーン)」

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