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システム・サクラメント  作者: Kesuyu
第2部 黒猫と亡霊
19/71

9【K】相当厄介な相手やで




 ゴーストはシャノワールの顔面を目がけて銃弾をはなった。

 シャノワールはすんでのところでそれをいなした。危なかった、とシャノワールは思う。「クイックモーション」のスキルがなければ、確実に当たっていた。


ゴースト「シャノワールさん、ごめんなさい。操作できないんです。勝手にアバターが動くんです」


 言いながらもどんどん銃を撃ってくる。シャノワールは距離をとってそれもかわした。やれやれ、もし大所帯でこのミッションに挑んでいたら、あのハートの攻撃で激しい同士討ちだな。二人で挑んで正解だった。それにしてもゴーストさん、銃の腕前は確かだな——まるで何度も修羅場をくぐってきたような。

 そうしてシャノワールはフェイントをかけながらアスモデウスとゴーストの攻撃をかわしていった。防戦一方の状態だ。そして切りがない。息つく暇がないほどの攻防だった。

 5分ほどそうこうしているとゴーストのアバターからハートのエフェクトが消失した。ゴーストが飛び跳ねてアピールをし、アスモデウスへの銃撃をはじめる。状態異常の効果が切れたのだろう。シャノワールも気持ちを切り替えてアスモデウスを攻撃しはじめた。

 それからの二人は類まれなるコンビネーションを発揮した。アスモデウスが火炎を噴こうとも、大きな槍を振り回そうとも、ハートマークを飛ばそうとも、息をそろえて避け、迎撃した。約1時間後、最後は同時に銃弾を放ち、アスモデウスは地面に突っ伏し、その姿は天に還るように霧散した。

シャノワール「ミッションクリアです」

ゴースト「やりましたね」

 彼らはハイタッチのモーションをした。

シャノワール「ゴーストさんのおかげですよ」

ゴースト「いえ、途中でハートの攻撃をくらって面目ないです」

シャノワール「あれは仕方がないですよ。危うく自分もくらうところだった。ところでスキルポイントが一気に800も増えましたね」

 ゴーストもスキル画面を確認する。

ゴースト「ほんとだ。すごい。中難度ミッションだと30ポイントとかだったのに。これで私も『クイックモーション』を習得できますね」

シャノワール「そうですね。『クイックモーション』があると何かと便利です」

ゴースト「すぐにスキル画面で覚えますね」

シャノワール「ええ」

ゴースト「習得しました」

 ゴーストは効果を確認するためにフィールド内をすこし動き回った。

ゴースト「動きが速いです」

シャノワール「ええ。僕は『ブラスター』を覚えようと思います」

ゴースト「『ブラスター』?」

シャノワール「銃の威力が1.5倍になるスキルです。今後もさっきみたいな硬い敵を相手にすることになるのなら、取っておいて損はないかと」

ゴースト「なるほど。確かに火力が上がると戦闘も早く済みますもんね」

シャノワール「そのとおりです。まあ、とりあえず宿に戻って解散しますか」

ゴースト「あの、今度はこちらからもお誘いしてよろしいでしょうか?」

シャノワール「もちろん。近いうちに次の高難度ミッションに挑戦しましょう」

ゴースト「是非」

 彼らは宿屋に戻り、セーブをしたら〈システム・サクラメント〉からログアウトをした。


 翌朝、バイパーが軽トラックを運転してKとアウルの住むアパートまでやってきた。引っ越しの手伝いに来てくれたのだ。

「わざわざ悪いな」とKは言った。

「このくらい朝飯前ですよ」とバイパーは言って笑った。

 Kとバイパーとアウルの三人は一時間かけて部屋の荷物をトラックの荷台に積んだ。額から汗が零れ落ちる。荷物をロープで荷台に縛りつけると近くの〈ルミエールジャルダン〉という四階建てのマンションに荷物を運びこんだ。部屋は402号室だ。ロビーはオートロック完備で、部屋は2LDKである。管理者Ⅹの計らいでそこに住まわせてもらうことになったのだ。

 リビングを除いた二つの部屋はKとアウルそれぞれが使うこととなった。自分の部屋ができたので、Kもアウルの存在を気にせず、〈システム・サクラメント〉をプレイできることになる。何しろ〈システム・サクラメント〉は管理者ⅩとKとのあいだだけの極秘事項なのだから。

 新居に家具を配置してみると、Kの部屋にはベッドと机がなかった。

「軽トラもあることだし、今から家具なんかを買いに行きましょう」とバイパーが言った。

 もちろん異論はなかった。


 軽トラックはバイパーとKのあいだにアウルを乗せてホームセンターに行った。ホームセンターといっても外の世界のような立派なものではない。小ぢんまりとした家具屋だ。Kはそこでベッドに学習机、チェスト、カーテンなどを買い求めた。

 バイパーは店主とにこやかに世間話をしている。誰とでも打ち解けられる――あれもひとつの才能なんだろうなとKは思う。アウルは目を輝かせて、店の品物をひとつひとつ見分していた。何はともあれ、Kの部屋もこれで様になった。

 Kは言う。「バイパー、夕飯食ってけよ」

 色々と必要なものをそろえていたので、いつしか日は沈みかけていた。窓の外を宵闇が覆っている。

「いいんすか?」とバイパーが尋ねる。

「もちろん」、Kは頷く。「尽力してくれたからな。礼だよ」

「ありがとうございます」、バイパーは勢いよく頭を下げた。

「大袈裟だよ」、Kは苦笑した。


「最近、寒くなってきたしな」、Kはそう言ってミトンをはめた手で鍋の蓋を開けた。

 豚バラと白菜のミルフィーユ鍋だ。具材を敷き詰めて煮るだけの簡単な料理だがこれが結構いける。ポン酢やゴマダレをつけて食べる。

 バイパーは美味そうに食べ、アウルは猫舌なのかふーふーしながら口に運んでいた。

「ところで射撃の訓練を受けたいって?」とKはバイパーに尋ねる。

 バイパーは照れ笑いした。「拳銃はナイフほど扱いが得意じゃないので。戦地では大抵ライフルやマシンガンとかでしたし」

「そうか」、Kは考える。「確かにハンターなら、不安の芽は摘んでおきたいな。明日から訓練に入るぞ」

「了解」、バイパーが威勢よく言った。

「アウルもな」とKは言った。

「はい、是非ともよろしくお願いします」とアウルは丁寧に答えた。


「グリップをしっかり握って、銃口をコントロールする」

 翌日、〈システム〉の本部の地下にある射撃場で、Kはバイパーとアウルに銃の扱いを指導していた。バイパーは——以前に傭兵をしていただけあって——まずまずだが、アウルは初めて銃に触ったのですこし怯えている。

「アウル、腰が引けているぞ。そういうときは片足を引いて安定させるんだ。まずは重心をしっかり地面にのせろ」

「は、はい」

「先輩、僕には何かアドバイスないですか?」とバイパーが訊く。

「ない」とKは言った。

「そんな」とバイパーが絶望したように言う。

「いや、バイパーはすでに基礎ができている。だからむやみに口出しできない。後は自分のスタイル次第だな」

「自分のスタイルですか」

「ゆっくり考えるといい」、Kは微笑した。


 夕刻、Kとバイパーは緊急招集された。司令室に行くと管理者Ⅹは椅子に座って、腕を組み、眉間にしわを寄せて難しい顔をしていた。珍しく陰鬱とした空気をただよわせている。

「外周りに行っとったハンター・フロッグが消息を絶った」、しばらくすると管理者Ⅹはそう言った。

「外回り?」とKは言った。「運び屋ですか?」

「ちゃう。武器と弾薬の補充や」

「前から疑問だったのですが、武器や弾薬ってどこで仕入れているんです?」とバイパーが後頭部に手をかけて訊いた。

「チェリーブロッサム社さんのとこや。兵器の密輸入や売買をしとる。VIPしか相手にしてくれへんけどな。それに情報の売買も扱っとる」

「チェリーブロッサム社さんって、()()?」、Kは〈システム・サクラメント〉の名を伏せて尋ねた。

「そうや」と管理者Ⅹは答えた。「()()

「ハンター・フロッグが消息を絶って、どれくらい経つんです?」とバイパーが尋ねた。

「もう丸二日や」、管理者Xは首を振り、大きく息をついた。「殺されたか、拷問されとるか——ハンターは皆拷問に屈するタマやないが」

「相手の目星はついているんですか?」とバイパーはさらに尋ねた。

 Kはピンときた。「まさかチェリーブロッサム社さんのサーバーを攻撃して、俺とバイパーを東京で車から銃撃してきたやつらですか?」

「ご明察」と管理者Ⅹは答えた。「チェリーブロッサム社さん直々の情報提供やからまず間違いない」

「やつら、いったい何者なんですか?」

「地下組織〈ウロボロス〉や――金のためなら殺人から人身売買、果ては臓器の販売までなんでもやる腐れ外道の集団や。ほとんどが素人の寄せ集めやけど、構成員は300人オーバー。相当厄介な相手やで」




アウル「Kさん、こんな深夜にゲームですか……」

K「こ、これは仕事なんだ」

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