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システム・サクラメント  作者: Kesuyu
第2部 黒猫と亡霊
18/71

8【L】暗殺者どころじゃないわ

ゴースト=リリィ、シャノワール=K




シャノワール『こんばんは。もしゴーストさんさえよければ、一緒に高難度ミッションに挑戦しませんか?』


 リリィは〈システム・サクラメント〉のそのDMを見るやいなや、慌てふためいた。ままままさかシャノワールさんの方からお誘いがくるなんて。いけない、早く返事をしなくちゃ。そう思ってキーボードを叩く。


ゴースト『お誘いいただきありがとうございます。私でよければ是非ともよろしくお願いします』

 シャノワールもログインしていたので、すぐに返事が届く。

シャノワール『でしたら準備を済ませて、今晩10時半にナインス・シティーの宿屋の前に集合でよろしいですか?』

ゴースト『よろしいです』

シャノワール『ではまたのちほど。よろしくお願いします』

ゴースト『よろしくお願いいたします』


 ログアウトしてパソコンのカバーを閉じるとリリィは大きく息をついた。それから舞い上がった。こんなことってあるんだ。誘いたい相手から誘ってもらえるなんて。彼女は嬉しさのあまり両肩を抱いてその場で悶えた。時計を見ると9時半だった。慌ててシャワーを浴びに行く。お湯を浴びながら、シャノワールさんも高難度ミッションで行き詰っていたんだ、と思う。偶然の一致だ。そして身体を拭き、ドライヤーでちゃんと髪を乾かしたら、パジャマに着替えて自室に戻った。

 小鍋でホットミルクを作り、お手製の食パンのラスク——余り物を再利用したもの——を皿に盛る。それらをテーブルの上に置き、ゲーミングパソコンを開いた。時刻は10時10分だ。リリィはゲーミングパソコンのカバーを開き、〈システム・サクラメント〉にログインした。その後ゲーム内の荷馬車に揺られてナインス・シティーに向かった。

 予定より10分前に宿屋の前で待っていると、ほどなくして、シャノワールが現れた。頭の上に名前が表示されている。アバターの方は黒いドレスを着ていて可愛らしい。ちなみにこちらは濃紺のスーツだ。

シャノワール「こんばんは。今からよろしくお願いします」

ゴースト「kこkこちらこそよrろしくお願いいいたしmす」

シャノワール「そんなに固くならなくてもいいですよ?」

ゴースト「かしこまりました!」

 シャノワールは黙って微笑した。

シャノワール「それではまず宿に泊まってセーブしましょうか?」

ゴースト「かしこまりました!」

シャノワール「もっとリラックスしていいですよ?」

ゴースト「かしこまりました!」

 シャノワールは苦笑した。

 まずシャノワールとゴーストは宿屋に泊まった。ゲーム内において、どの街にも宿屋は一軒しかないのだ。もちろん二人とも別々の部屋に泊まった。寝ているあいだにセーブされる仕組みで時間の経過もない。体力ゲージが満杯になると二人は宿の外で合流した。

シャノワール「まずはパーティに誘いますね?」

ゴースト「お願いいたします」

 ゴーストのパソコンの画面には「シャノワールさんがパーティに招待しています」という表示がでた。ゴーストはパーティに参加するために息をつきながら「承認する」という表示をマウスでクリックした。今度は「シャノワールさんのパーティに参加しました」と表示がでた。

 彼女の方はそれを見て感極まった。恥ずかしくて椅子の上で悶えている。

シャノワール「ではさっそく高難度ミッションを受注しますね」

 シャノワールはさっそく高難度ミッションの画面を開き、受注ボタンをマウスでクリックしようとした。

 それを見てゴーストは慌てて受注するのをとめた。

ゴースト「ちょっと待ってください」

 シャノワールは承認ボタンを押そうとした手をとめた。「承認しない」というボタンをマウスでクリックする。高難度ミッションの画面が消える。

シャノワール「どうしました?」

ゴースト「ご教授いただきたいことがございます」

シャノワール「なんでしょう?」 

ゴースト「恥ずかしながら、画面の右下にある『スキル』というものは何でしょうか?」

シャノワール「ああ、それはアバターの性能を高める能力のことですよ」

ゴースト「シャノワールさんも使ってらっしゃる?」

シャノワール「もちろん、使っていますよ?」

ゴースト「何を使えばいいんでしょうか?」

シャノワール「失礼ですが拳銃は何をお使いで?」

ゴースト「S&WⅯ19です」

 ゴーストはそれを取り出してかまえて見せた。

シャノワール「名器ですね。ただ弾丸を6発しか装填できないですね」

ゴースト「そうなんです。そこが難点なんです」

シャノワール「僕は『自動装填』と『クイックモーション』というスキルを装着していますよ。ゴーストさんも同じものを付けたらどうでしょうか?」

ゴースト「それはどういったスキルなんでしょうか?」

シャノワール「『自動装填』は銃の弾薬の補填がオートマティックになるスキルです。『クイックモーション』はアバターのアクションが1.2倍速くなって何かと役立ちます』

ゴースト「ちょっとショップを見てきます」

シャノワール「どうぞ」

 3分後ゴーストは悲しそうにした。

ゴースト「スキルを交換するのに必要なスキルポイントが足りません」

シャノワール「いくら足りないんですか?」

ゴースト「今はポイント532しかありません。スキル二つともゲットしようと思ったらあと468ポイント必要です」

シャノワール「だったら『自動装填』だけ装着したらどうでしょうか? 弾丸を自動でリロードしてくれるので、弾を込める手間が省け、リボルバーの欠点も補われて、格段に強くなりますよ?」

ゴースト「なるほど。そうします」

 ゴーストはショップで「自動装填」のスキルを交換して装着した。

シャノワール「ではそろそろ高難度ミッションを受注しましょうか。高難度ミッションの中で一番難易度の低い——星14の——『色欲』のミッションでいいですね?」

ゴースト「はい、問題ありません」

シャノワール「それじゃあ、行きましょうか」

 ゴーストが頷くと、ラブホテル街に二人は飛ばされた。BGMはおどろおどろしい物に切り替わり、彼女は真剣に画面を睨みつけていた。

シャノワール「僕が前に出て敵を引きつけるので、ゴーストさんは後方からの支援をお願いします」

ゴースト「承知しました」

 すぐに物陰から銃撃が始まった。シャノワールが前線に躍り出て、次々と暗殺者を屠っていく。ゴーストは後方で建物の陰から顔を出した暗殺者を一人ひとり丁寧に潰していった。スキル「自動装填」のおかげで全弾発射した後、次に弾を撃つまでのタイムラグがない。何度も挑戦したミッションだ。これならいけるかも。彼女はターゲットの動きを予測しながら、間髪入れずに銃口を向けていった。

 しばらく前進すると開けた場所に到達する。その奥にある満開の桜並木が壮麗だ。ここだ、とゴーストは思う。大勢の暗殺者が現れるのは。いつもここでミッションに失敗する。すると一気に50体ほどの暗殺者が姿を見せ、烈しい銃撃戦となった。シャノワールが上手く立ち回り敵の攻撃を自身に誘い込んでくれている。その隙をついて、ゴーストは無我夢中に暗殺者を撃ちまくった。5分後、彼女らは見事にすべての暗殺者を排除した。

ゴースト「やりましたね。シャノワールさん」

 シャノワールは黙っている。

ゴースト「どうしたんですか?」

シャノワール「おかしい。ミッションがクリアになっていない」

ゴースト「なんですって?」

 そこで警告音とともに画面全体が赤く明滅し、「WARNING」という文字が画面の中央に浮かび上がった。

ゴースト「何? いったい?」

シャノワール「おそらくまだ敵がいる。こっちへ来てください。固まりましょう」

 その時、頭上から異形の魔物が空から降ってきた。地面がひび割れそうなくらい激しい音を立ててそれは着地した。牛、人、羊の頭にガチョウの足。毒蛇の尻尾。見るからに悪魔だ。それも大きな身体をしている。頭の上には「アスモデウス」と名前が表示されていて、足もとには体力ゲージが表示された。

 アスモデウスは地鳴りのような雄叫びを上ると、口から爆炎を噴き出した。ゴーストとシャノワールはすんでのところでそれをかわした。

シャノワール「ハハ、やってくれる」

ゴースト「暗殺者どころじゃないわ」

シャノワール「なるほど。『色欲』を(つかさど)るからアスモデウスね」

ゴースト「こっちへ飛んで来ますよ」

 アスモデウスが彼女らの方へ突っ込んできて豪快に手に持っていた槍を振り下ろす。地面に直撃し、地響きがした。二人はなんとかそれもかわし、その隙をついて銃でアスモデウスを撃ちまくった。悪魔の体力ゲージがわずかに減った。

シャノワール「いける。このまま押しきりましょう」

ゴースト「でも、すごい長期戦になりそうですね」

シャノワール「長期戦には馴れてる」

ゴースト「頼もしいです」

 アスモデウスが上空に飛び上がり、全身から四方八方に桃色のハートマークを飛散した。ゴーストはコントローラーを手からはなしてキーボードでチャットをしようとしていたので、そのハート型の攻撃をもろにくらった。

 途端にゴーストのアバターが小さなハートのエフェクトで包まれて、彼女は操作不能になる。アスモデウスによるテンプテーション(誘惑)の能力だ。ゴーストは慌ててコントローラーを触るも、アバターは独りでに動いている。

 そしてゴーストは隣にいたシャノワールの顔にリボルバーを突きつけた。




アイリス「リリィ、夜中に大声ださないでくれる?」

リリィ「かしこまりました!」

↑しばらく口癖になった。

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