表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/14

ep2.商会長 メルミーツェ=ブラン

■後神暦 1325年 / 春の月 / 黄昏の日 pm 00:00


――スラム街 孤児院


 久しぶり、と控えめに微笑む女性。

 ボクはこの人に今回の嬉しい出来事をどうしても話したかった。


 メルミーツェ=ブラン、雲のように真っ白な髪に銀の瞳の猫人族びょうじんぞく

 年齢は知らないけれど、恐らくボクとそう変わらない14~5歳だと思っている。


 そんな彼女を『姐さん』と呼んでいるのは、この人はボクの、いや、孤児院にいる子供たちの恩人だからだ。

 スラムで虐げられた人たちと共に商会を立ち上げて、この街の大商会の代表たちと協力して孤児院を建てたのもこの人。



「いつも配達の仕事、ありがとうね」


「こちらこそっスよー! 姐さん、聞いてください!」


「どうしたの?」


「ボク、街の外に配達にいくんスよ!!」


 どんな反応をしてくれるだろう?

 姐さんは反対はしないだろうけれど、出来れば『頑張れ』と応援して欲しい。

 そんなことを考えていたが、彼女から返ってきた言葉は少し違った。



「うん、知ってるよ。だって依頼したの僕だもん」


「はぇ?」


「いや~、セイルってば飛び出して行っちゃうしさ。

僕、エリーゼさんの隣にいたんだよ?」


「また姐さんの特技っスか……」


 姐さんは姿を隠すことができる。

 曰く、魔法ではない、らしいけれどボクには違いが分からない。



「それでさ、依頼を受けてくれたセイルにプレゼントがあるんだよ」


「マジっスか!? 姐さんから貰えるなら何でも嬉しいっスよ!」


「ふふ、そっか。じゃあ行こうか」


 そう言って姐さんはボクを連れて街の中央地区へ向かった。

 正直、配達以外でスラムからあまり出ないボクとしては街の中心地は緊張する。


 店に入るのも躊躇われるのに、姐さんが『ここだよ』と足を止めたそこは、緊張を通り越して吐き気を覚える場所だった。



――セルリアン工房



「姐さん……ここってセルリアン商会じゃないっスか……」


「そうだよ?」


「そうだよじゃないっスよ!! この街の大商会じゃないっスか!?」


「大丈夫だよ~、みんな良い人たちだよ? ちょっと怖いけど」


 最後!! 最後の一言!!

 あ、ダメだ、意識飛びそう……


 まぁまぁと姐さんに背中を押され、工房の扉をくぐる。

 工房では厳つい職人さんたちが険しい顔でよく分からない作業に没頭していた。

 威圧感たっぷりの人たちの中でひと際、存在感を放つ人がボクたちに近づいてくる。


 もう帰りたい……



「おう、嬢ちゃん! よく来たな!」


「こんにちは、今日はよろしくお願いします、()()()()()


 ベリルさん……?

 その名前はボクでも知ってる、セルリアン商会の代表だ!!

 姐さん、なんてところに連れてきてくれたんスか……


 二人は有無を言わさずボクをイスに座らせ靴を脱がせる。


 子供のころのボクは想像できただろうか?

 魔導具の最大手、それもそこの代表自らに足のサイズを測られるなんて光景を……


 もう、起こること全てが非日常過ぎる。

 その日は孤児院に帰るまで記憶が曖昧だった。



――10日後……



 セルリアン商会へ連れていかれた日から慌ただしく日々は過ぎて、あっという間に出発の日となった。



「気をつけて行ってきてね」


「姐さん! 見送りに来てくれてありがとうっス!」


「おう、セイル! 帰ったら靴の使い心地を教えてくれよ!」


「ベリルさん! 了解っス、ばっちり使いこなして感想もいっぱいできるようにするっス!」


 初めは怖かったベリル代表にも、今ではすっかり可愛がられている。

 姐さんが言ってた『怖いけど良い人』は本当だった。


 目的地はアルコヴァン(この国)の第二都市パクス=シェル。

 馬車でひと月はかかる距離でも今のボクなら、その半分でいける。



――『重さを変える魔法』



 ボクの特技だ。

 姐さんは”重力操作”と言っていたけれど、難しいことは分からない。


 ベリルさんに造ってもらった、靴底から風を噴射する魔導具、そして姐さんに貰った腕に羽のようなものが付いている上着、そしてボクの魔法。

 これでボクは空を飛ぶことができる。


 川も、丘も、森も、全てを飛び越えてパクス=シェルまで一直線だ!!



「あのさ、セイル……

拳上げて意気込んでるとこ悪いんだけど……この子も連れてってくれないかな……?」


 姐さんが気まずそうに言うと彼女の背中から、肩に乗れるくらい小さな女の子が顔を覗かせた。


 それはこの国でもとても珍しい種族……


「妖精族……!?」



 驚きで口を開けたボクの顔を一陣の風が撫でていった。


【メルミーツェ イメージ】

挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ