私、男女比率が同じくらいの世界に生まれ変わったみたいです
「はぁ?
付き合ってくださいって本気で言ってる?
お前みたいなブスが?
え??
本気?
正気?
なに勘違いしてるのさ?
自分でキモイって思わない」
「ご、ごめん、なさい
や、やっぱりそうですよね」
「ほんとお前ら女って、キモいやつばっかりだよな。
とりあえず2度とこういうことしてくんなよ?
マジで時間の無駄だし。
お前ら女の立場かどういうくらいは、わきまえてくれや」
「は、はい。
わかり……ました」
そういって立ち去っていく、クラスメイトの姿を涙でにじむ目で見送ったあと、私はがっくり崩れ落ちた。
やっぱり無理だった。
中学校を卒業し、クラスで唯一人の男の子である佐伯孝之くんに意を決して告白をしてみたけどもあえなく玉砕。
これ以上ないくらい惨めな振られ方だった。
今まで少しはおしゃべりとかしていたから、もしかしたらって思っていたけど私の勘違いだったみたい。
でも仕方ない、男性は希少で、保護されるべき存在とされている。
圧倒的に女性方が多いのだから仕方ない。
とはいえ心が痛いのはどうしようもない。
私は裏道にひっそりと佇む小さな祠へ、と足を向けた。
第六天社という名前のつけられた鳥居と祠だけの小さな社だ。
このあたりは人通りはあまりなく寂れた様子ではあるけど、きれいにはされているので私以外にも掃除をしている人とか入るんだろうな。。
「はあ、それにしてもなんでこんなにひどく罵られないといけないんだろう。
そんなに私ってキモいのかな?
もっと男の人が多ければこんな事言われないのかな?」
『ふむ、そうであろうな』
なぜか頭上から男性の声が聞こえた。
「えっ?」
そして声の方を見ると半透明の精悍な男性が宙に浮いていた。
「あ、あなたは、だ、誰…ですか?」
男性は顎に手を当てたあとフッと笑って答えた
「私はかつてヴァシャ・ヴァルティン、 あるいは マーラ・パーピーヤスと呼ばれた者。
他化自在天、天魔波旬や第六天魔王、欲界中最勝最尊などとも呼ばれたものだ」
「第六天魔王って織田信長のこと?」
「いや実のところそのものと私はあまり関係はないのだが。
私は自在に化身を作り地上の他の作りだした楽事を受けて自由に自分の楽としする事ができるのだが……。
最近は私に祈念するもの自体が少なくなり多くは苦事を告げるものばかりでな。
それでは困るゆえお前の願いを叶えてやろう。
もっと男の多い男女の数が同じくらいで、男のほうが少しあまり気味な世界のへ送ってやろう』
「そ、そんな事が本当にできるのですか?」
『無論だ。
こことは異なる歴史を歩んだここと同じような世界。
わかりやすく言うなら平行世界に私の化身を作りそこへお前の魂を入れてやろう』
「そうすれば男の人からキモいって言われなくなるんですか?」
『おそらくは。
無論最終的には行動次第だとは思うが。
それとこの世界におけるお前の存在はもとからなかったことになる』
そういう男の人に私は頷く。
「わかりました。
それでも構いません。
ぜひお願いします」
もともと私に対して母親はあまり興味や愛情がなかったように思えた。
私の上には優秀な姉がいるからだ。
私も頑張ったつもりだったが母からの愛情を注がれることはなかった。
『うむ、では早速』
自らを第六天魔王と名乗る男性がそう言うと私の意識は唐突に消失した。
・・・
意識を取り戻したとき、私は自宅の自室のベットので寝ていたようだ。
あれ、そういえば私、いつの間に自分のお部屋に戻っていたんだろう?
目覚まし時計の針を見ればもう9時だ。
今は春休みとはいえ朝寝坊しちゃったな。
そんなことを考えていると、”コンコン”とドアをノックする音が聞こえた。
「はい?」
私が返事をしてすぐにドアが開いて男の人が入ってきた。。
「おーい、美紀?
いくら春休みだからって生活習慣を崩すのは感心しないぞ」
「あ、え?」
ズキッと頭に軽い痛みが走った後、思い出した。
この男の人は私の兄の桜田晶。
東京学芸大学附属高等学校の生徒で眉目秀麗・成績優秀・運動神経も抜群というハイスペック男子。
おそらく”前”は姉だったはずだが、この世界では兄になるらしい。
”前”の世界なら家族に父や兄・弟といった男性がいるだけで勝ち組扱いされていたんだけど、
そして私は兄と同じ学校に行きたくて必死に勉強してなんとか同じ高校に合格したはずだ。
ということになっているんだけど、”前”の世界の男子がいる高校に行くのに比べれば、競争率から考えるとまだまだ楽な方だった気もするけどね。
「まあうちの学校の校則は服装とか髪色とか装飾品とかでも、そんなにうるさくはないけど、流石に遅刻とかはゆるされないからちゃんと朝は起きること」
「うん!
わかったよお兄ちゃん」
「わかればよろしい。
じゃあ着替えてリビングに来なさい」
「はーい」
”前”では母の期待と愛情を一人で受けていた姉とはあまり良い関係ではなかったんだけど、現状の兄との関係はかなりいいみたいだ。
とはいえ父親は仕事人間で土日でもやれバーベキューだゴルフだと会社の取引先との接待に駆り出されて大変みたいだけど。
でも、その御蔭で私は比較的広い中庭がある3ldk+ロフト+納戸付きの一軒家に住めているのだからありがたいと思うべきだけどね。
夏休みとかには中庭でおうちキャンプやバーベキューとかをやってくれるし。
私はパジャマから部屋着に着替えて、下に降りていった。
洗面所で顔を洗い、歯を磨いて、髪の毛を軽く整えてから鏡の中の自分の顔を見る。
やっぱり私自身の顔は変わってないみたいだ。
やっぱり男の人に話しかけたりしたらキモいって言われちゃうのかな。
少々がっかりしながらリビングに向かう。
「お母さんおはようございます」
私がそう言うとお母さんは苦笑い。
「おはようって言うにはもうだいぶ遅いわよ。
今、作ったもの温め直すからちょっと待ってね」
「はーい」
私はダイニングテーブルからダイニングチェアをひいて座って少し待つ。
「はい、おまちどうさま」
お母さんがテーブルに朝食を乗せていく。
今日の朝食は手作りのナンとキーマカレーにレタスとトマトときゅうりのサラダ、飲み物はラッシー。
「ちょっと朝ご飯にしては重くないかなぁ、これ?」
「あなたもお兄ちゃんも育ち盛りなせいでいっぱい食べるでしょ。
冷めないうちに早く食べなさい」
「はーい、じゃあいただきます」
私はナンをちぎってキーマカレーをつけると口に入れた。
「うん、美味しい」
ああ、家族の関係も良好で男の人にキモいだなんだって言われないのは落ち着くなぁ。
食事が終わったら改めて”ここ”がどういう世界なのか調べ直そうかな。