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幸運の王女

百合は初挑戦です。ゆっくり更新

 “幸運の王女”

 それは、血筋だけで次期国王候補に選ばれた中継ぎの者のことを指す。

 国を統べる才能はなく、かといって候補から除外するほどの問題はない凡愚。


「はあ……あほらし……」


 私は窓の外を遊び飛ぶ鳥の群れを眺めながら、大きなため息を一つ吐いた。

 蘇った前世の記憶は曖昧で断片的。

 とてもじゃないが、前世の記憶で国を変えることはできそうにない。

 十二歳の私でも、さすがにそれぐらいは分かる。


 王家に生まれた唯一の娘。

 ゆくゆくは伴侶を迎え入れて、次代の王を産み育てる。

 それが私の役割で、それ以外はまるで求められていない。

 両親は国政を重視していて、家臣たちに私の教育を丸投げしている状況だ。


 離宮から外に出ることは許されず、偶の顔見せや会議への出席では近衛騎士や側付きの侍女たちが周辺を固めて監視の目を光らせる。

 対等な友人など出来るはずもなく、周囲の大人たちから傅かれながら見下される毎日だ。


「私、何のために生まれてきたんだろ……」


 自由になりたいと願っても、身分がそれを許さない。

 鳥のように色んな場所に行けたら、きっとこの異世界転生も楽しむことが出来ただろう。


 ────コンコン


 部屋にノックの音が転がる。

 扉を薄く開けたのは、側仕えの侍女たちだ。


「メルシア様、まもなく祭りが始まります。ご準備の支度をさせていただきたく、馳せ参じました」


 侍女たちは、統一された黒のワンピースに編み目の細かいレースで顔を覆っている。背丈の違いも厚底の靴で統一するため、外見で区別することは困難を極める。

 近衛騎士から侍女に至るまで、試験によって選りすぐりの精鋭が構成している。彼らはあらゆる身分から独立して、王家にだけ忠誠を誓うのだ。


「今日は騎士トーナメントね。新たな騎士候補生に向けてスピーチをするのが、私の仕事で間違いなかったかしら」


 侍女の一人が銀のトレーに乗せたピアスを恭しく私の前に差し出す。

 幼い頃に作ったピアスホールに装着すれば、文官がすらすらと読み上げるスピーチの内容が聞こえてくる。

 歴代王家のなかでも私の記憶力に難があると判断した役人たちが考案し、作り上げた『蓄音のピアス』と呼ばれる魔道具だ。事前に吹き込んだ音を、込めた魔力の限り再生し続ける。


 私に魔法を使う才能があれば、悩める人々を救えただろう。

 私に言葉を使う才能があれば、励む人々を鼓舞できた。

 私に、王族としての才能があれば……。


 ぼんやりとしていた私の意識を、侍女たちが締め上げたコルセットの紐で現実に引き戻す。

 重たいドレスの裾を引きずって、陽気な天気に不釣り合いな長袖の下にいくつものアクセサリーを身につける。


 侍女たちに誘導されながら、離宮を出て、祭りの舞台となる中庭へ向かう。

 すれ違う家臣や役人たちは宮廷儀礼に則って壁を背にし、私に道を譲り、片膝を地に着けて首を垂れる。

 口々に王家を讃え、賛美の言葉を呟くが、その瞳には私への軽蔑に彩られていた。


 すれ違いざまに貴族の一人が呟く。


「“不相応の幸運を掴んだ王女”」


 例え嘲りの言葉を向けられても、決して取り乱してはいけない。

 王家の者として、聞かなかったことにしなくてはいけないのだ。

 過度な言葉であれば、後日に罰せられることもあるらしいが、王女の私に伝えられることはない。

 全ては家臣が議会で決めるからだ。そこに私の意思は関係ない。


「“虚飾と欺瞞の姫”が偉そうに」


 市井では、吟遊詩人や遊び人が、私のことをそう吹聴しているらしい。

 女王が君臨したことのない国だから、才能のない私より婚約者となる王配に期待が寄せられるのも仕方がない。

 そう頭で理解していても、心の柔い部分に突き刺さって抜けないのだ。


 侍女たちに導かれた場所は、闘技場を眺めるバルコニー。

 騎士志望者たちが一列に並び、太陽を背にする王女を見上げている。彼らに微笑みを浮かべながら小さく手を振れば、歓声が群衆から湧き起こった。

 娯楽に飢えた民にとって、才能のない凡愚な姫であれど、それに仕える騎士たちの活躍を目にするのは喜びなのだ。


 深く息を吸い、喉の筋肉を意識して声を発する。


「今日という良き日に、これほど多くの騎士を志願する者たちを目に出来る事に勝る喜びはありません。一人でも多くの者が騎士となれることを期待しています」


 文官の作り上げた演説の通りに語る。

 五十年近く戦争のない国で騎士となる者の多くは、宮廷内に繋がりを持つことを目的としている。

 訓練を嫌がって逃げ出すものも多いと聞く。

 果たして、この中に国を想う者はいるのだろうか。


 厳かに始まる騎士トーナメントを眺めながら、疑問を抱く。

 前世の記憶は役に立つどころか、時々こうやって私に答えのない問いを生じさせるのだ。


 王家のない国があることを知りながら、生まれ持った身分に縛られて日々を過ごす。

 私は今日も『メルシア王女』を演じる。

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