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59 再起動中


 初撃


 力いっぱい、剣を振り下ろしただけの攻撃。

 以前なら、簡単に防がれてしまったであろう、安易な奇襲である。

 しかし、それは確実に『魔王』の身体を弾き飛ばした。

 単純な膂力が、『魔王』のそれを上回ったのだ。


 それだけでなく、速い。

 出した呪いは、空を掴む。

 攻撃を受けた瞬間、反射で反撃をしたが、それは届かなかった。

 想定より、遥かに俊敏だ。

 


「『雷光砲』」


「!」



 第五階悌魔法『雷光砲』


 雷を生成し、凝縮し、解き放つ。

 たったそれだけの魔法だが、だからこそ、込められた力によって威力が大幅に変わる。

 単純でも、殺傷能力は折り紙つきだ。


 それに『魔王』は、防御を選ぶ。

 肉体を変形し、切り離した。

 さらに魔力を込めて硬度を強化し、直前の魔力反応から、対抗属性を纏わせる。

 即席の盾だったが、そこらの素材で丁寧に作るより、よほど硬い。

 防御の手段としては、満点だった。



「!」


「割れろ」



 だが、威力はやはり、想定を越える。



「グッ……!」


「――――――!」



 全身が雷で焼かれ、痺れる。

 その隙を突いて、動く影が見えた。

 もちろん、『魔王』は呪いでコレを迎え撃とうとした。

 だが、それは叶わない。

 単純に、動きが速すぎて追いきれなかったからだ。



「…………」



 出血。

 外骨格の隙間を狙われ、確実に肉を削がれた。

 しかも、剣には属性が付与されている。

 確実に神経系にダメージを与えにきていた。



「ナルホド。マルデ別モノ……」


「全ての呪いを、受けに来た」



 確実に、ヒヨコたちは『魔王』を相手に戦えるレベルに至れていた。



 ※※※※※※※※※



 実に厄介。

 彼らに『魔王』が抱いた感想は、それだった。


 基本的な陣形は、クロノが『魔王』と正面から戦い、他二人がサポートする形だ。


 適切なタイミングでアリオスが割り込み、なるべく『魔王』の意識を散らす。アリオスは、魔法も同時に器用に使える。撹乱という役割をこなすには、これ以上ないほど適任だった。

 アリシアは、さらに二人をサポートしつつ、隙を見て大火力を叩き込む。支援のための魔法、防御魔法、足止めの魔法、大魔法。全てを同時に展開し、前衛二人の戦いをスムーズにしている。

 

 格段に、レベルが上がっていた。

 同じことを繰り返し、カンを研ぎ澄まし、出来ることを増やしていく。

 剣技にも魔法にも、練度の違いが明確化している。

 変わった、と言える。しかし、これは覚醒や変異とは言えない。

 当たり前に熟達し、当たり前に上手くなった。とても順当な、そして急速な成長だ。

 その末に辿り着ける、劇的な成長だった。


 だが、何よりも、クロノが凄まじい。



(強スギルナ……)



 剣を打ち合いながら、『魔王』は思う。

 明らかに、出力が上がっているのだ。

 元よりエネルギー量は凄まじかった。だが、それを吐き出す力は、それなりといった印象だ。

 だが、今はまるで違う。

 タガが外れたような、大出力だ。

 その変化は、そのまま攻撃力に現れる。

 攻撃を受ければ、その度痺れるほどの衝撃を受けていた。



「『雷霆』」


「ムゥ……!?」



 雷光の剣が、『魔王』を襲う。

 クロノは剣に雷を纏わせ、戦っているのだ。

 以前、アリオスが見せた技の昇華版だ。

 細かく剣を振り、反撃の隙作らない。しかも、強い電撃によって、動きが阻害される。

 先程からチクチクと、雷系統の魔法で邪魔をし続けるのは、余波が肉体に作用するからだろう。その速度から、ほぼ不可避というのもかるが、一番は『魔王』も、その身体は筋肉で動かしており、僅かなりとも、動きに支障は出てしまうためだろう。

 繊細な剣の間合いでの戦いに、これは地味に効く。



「こっちだ」


「『ライトニング』」



 唐突に、クロノが離れる。

 目論見は、分かっていた。

 背後の前衛と、後衛による挟撃だ。

 雷が真っ直ぐ『魔王』の心臓へ走り、逃げ場をアリオスが潰す。

 膝と肘を叩かれ、動きの出鼻を挫かれた。

 直撃した雷撃は芯まで響き、痺れを引き起こす。



「鬱陶シイ!」



 一喝。

 そして、魔力と呪いが吹き荒れた。

 取り囲む雷を払う。

 開けた視界の中のどこに、三人が居るかを探して、



「『雷王城』」



 即座に、真っ黒な雲に囲まれた。

 見ただけでも、相当な雷を溜め込んでいた雲であることは、推して知れる。

 バチバチという音が聞こえた瞬間、黒雲から生えた雷の刃が、『魔王』を貫く。



「ケハァ……!」



 口から黒い煙が出てしまった。

 再生の間もなく、雷が通ったのだ。

 切り刻まれた分だけ、電気の通り道が出来ていたのだろう。

 内臓までしっかり焼かれている。

 ギョロギョロと、『魔王』の瞳は動いて、



「ゾ、ゴォォォォ!!」



 黒雲に囲まれた状態でも、『魔王』は敵の位置を把握できる。

 見えないモノを、見通してみせる。

 その能力は、()()()()()()

 目隠しされても、確実に位置を特定できる。

 反撃は、これ以上なく正確だった。



「分かってる」



 だが、その反撃は、さらなる反撃が打ち消した。

 三ヶ所同時の、『雷光砲』だ。

 避けることも出来ず、三発全て着弾する。

 さらに、



「『雷王城』発動」



 ドーム状になって『魔王』を取り囲んでいた雷雲が、活性化する。

 ゴロゴロと、獣が唸るような音が響いた。

 目が潰れるほどの光が漏れ出る。

 雷雲の中では、四方八方から、即死レベルの雷撃が走っている。

 雲は、いわば檻なのだ。

 最後の一撃を、確実に当てるためのもの。



「――――――!!!」



 真上に集まった雷雲が、さらに絞られる。

 それは、エネルギーが、雷がそこに集まっていく事を示している。

 だが、集まるにしても、限度があるのだ。

 限界まで力が集中すれば、どうなるか?

 当然、わななき、墜ちる。


 轟音


 現れたのは、あちこちが焦げ、欠損した『魔王』だ。

 確実に、弱っている。

 だが、その威圧感はさらに増す。



「ゴ、ァァァア」



 ただの咆哮が、衝撃波を伴う。

 危うく飛ばされかける。

 だが、怯まず次の攻撃を仕掛ける。

 


「『エレキバーン』」


「っ!」



 第四階悌『エレキバーン』


 これをアリシアが行えば、殺傷能力に磨きがかかる。

 雷鳴を凝縮し、球状にして打ち出すのだ。

 敵に接すれば、そのまま爆発する。

 数百という爆弾が現れ、動けない『魔王』を襲う。


 それに対して、アリオスはアリシアと同じ程度に距離を取り、剣を振り抜く。

 剣に込められた紫電が、飛んだ。

 紙ほど薄い、鋭い一閃だった。

 

 斬られ、弾ける。

 肩から脇腹にかけて、袈裟斬りにされた。

 再生能力で二つに別れる事はないが、完全に肉体を断たれた。

 この時点で、確実に瀕死。

 そこから、さらに雷の爆弾が起爆した。

 傷口を抉るように電気が走り、体内をさらにズタズタにしていく。



「ガァァァアァァァア!」



 再生のための時間が欲しかった。

 なので、『魔王』は防御を固める。

 結界の魔法で、空間を隔てる。

 だが、



「おおおおおお!!」


 

 そこから、さらにクロノがやって来る。

 完全な死角である、上空からの強襲だった。

 剣先を『魔王』へ向け、落下。

 ただの自由落下ではなく、空気を固めて足場を作り、蹴りあげたのだ。

 さらに、意図はしていなかったのだが、足場と己とで反発する電極を作り出し、速度を上げていた。

 音速を越え、衝撃波が走った。

 


「貴様ァァァア!」


「砕けろ!」



 亀裂。

 そして、轟音。

 

 クロノの剣は、『魔王』の身体を焼き斬った。

 かなりの大技だ。

 与えられたダメージは、計り知れない。

 だが、それでも、クロノは止まらない。

 


「まだ!」



 呪いが遅れて湧いて出た。

 クロノは、即座に距離を取る。

 


「畳み掛けろ!」



 アリオスの言葉に呼応し、遠距離から数多の魔法が発動された。

 内容は、主に雷を中心にしている。

 全員、元から得意とする術の系統ではなかったが、究める時間はいくらでもあった。

 十全な威力を、乱射可能だ。

 地面がまともであるなら、とっくにガラス化するほどの熱が集まっていた。


 そして、



「AAAAAAAAA!!!」



 あらゆる魔法が、弾かれた。

 視界を覆う魔法が晴れて、『魔王』の様子が明らかになる。

 それは、



「やっぱり、姿を変えた……」


「予想通りですね」



 落ち着いた様子で、呟いた。

 大幅な変化に、再生された肉体に、驚いていない。

 新たに生えた一対の腕も、裂けた口から見える邪悪な牙も、無視した。

 それよりも、注目すべきなのは、



「アリシア!」


「分かっています。『雷光砲』!」



 先も放った、大火力。

 直撃すれば、十二分に効くはずだ。

 しかし、



「効カヌ」



 まったく、堪えた様子はない。

 一瞬前と後とで、別次元の防御力だった。

 これは、



「やっぱり、『進化』してる」


「察シテイタカ。ダガ、ソウデナクテハ」



 進化。

 多種多様な魔物が見せる、数少ない共通の特徴だ。


 魔物は、得た魔力と、年月によって、その力を大幅に変化させる事がある。

 本来、永い年月をかけて、ようやく果たせる進化。種としてしか成し遂げられず、個人が至れるものではない。だが、魔物の特権として、不可能は成立する。

 数多の命を吸い上げる事が条件となるが、彼らは理論上、生きている限り、強くなり続ける事ができる。


 そして、その法則は、『魔王』にも当てはまる。


 

「ですが、あまりにも『進化』するまでの期間が短すぎます。しかも、『進化』には多くのエネルギーを取得する必要があるはず。あり得ません。クロノくん?」


「……最初に見た時とは、まったく別の生命だ。とんでもない化け物だな」


「流石は『魔王』か……」



 異常な耐性獲得。再生。強化。

 あらゆる異常事態の正体が、これなのだ。

 


「正解ダ、若人タチ」



 嬉しそうに、『魔王』は言った。

 己の能力の正体に、気付かれてもなお、楽しんでいる。

 死に瀕している今を、生を。

 その姿勢は、不気味とすら言えた。

 


「我八、攻撃ヲ受ケレバ、ソコカラエネルギーヲ吸収シ、解析、ソノ能力二応ジテ身体ヲ変化サセル。意識セズトモ、自然トソウシテシマウノダ」


「…………」


「変形ノ度二、ソノ能力へ耐性ヲ得テユク。ソシテ、ソノ度二、肉体八癒エテイク」



 予想はしていた。

 しかし、やはりあまりにも理不尽だ。

 どんどんと、こちらの手は潰されていくのに、向こうは加速度的に強くなっていく。

 所見の力で屠れば倒せるが、そんなこと、出来れば苦労はしない。

 先程も、あれだけ攻撃を加えたというのに、その命には届かなかった。

 不死身に近いタフネスを突破しなければならない。それは、本当に途方もない事だ。

 


「……絶望シタカ?」


「まさか」



 しかし、怯みはしない。

 瞳から溢れるのは、並々ならぬ覚悟だけだ。

 それを、容易く悟らせる。

 


「飽きるくらい殺せば、殺せる」


「……脳筋で困りますね。アリオスくん、どう思いますか?」


「仕方がない。本当に、それ以外に手立てが見当たらないんだから」


 

 呆れてしまうくらいに、やることがない。

 完璧すぎる、『魔王』が悪い。

 既に決まってしまった道筋を、辿る。

 遠く、遠く、険しく、激しい道筋だ。

 しかし、やる他にはないと、わかっている。



「ハハハ、良イゾ、若人」


 

 死ぬまで、戦い続ける。

 その覚悟が、身体を突き動かす。


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