エピローグ
「お前、何してんだ、こんなところで……?」
「……まさか、生きていたとは」
「まあ、ほぼ死んでるけどね。『天空』が、ボクを、生かしてるだけだ。もう、死ぬ」
「…………」
「その様子だと、お前、負けたな?」
「……まだ、私はやれます」
「バカ。死にかけてるくせに、何いってんだよ」
「まだです。命さえあれば、またやり直せる。何度でも、繰り返せばいい」
「バカ。バカかお前。バーカ」
「申し訳ない。返す言葉もない。罵倒する資格は、貴女にはある」
「もう、終わりだ。君は負けたんだ。ボクは、もう死ぬ」
「……貴女抜きでも、私は!」
「ボク抜きで、また四百年もお前が生きられるわけないだろ」
「…………」
「ボクとお前は、一心同体ってやつさ。ボクが死ぬなら、お前も長くない。理屈じゃなく、そういう運命なんだ」
「……私は、そこまで軟弱ではない。貴女を切り捨てたのは、必要ないと思ったからだ。いや、もはや害悪ですらある」
「へー」
「貴女は、揺れていた。彼らと私とで。そして、疲れてもいた。投げ出したいと、考えていただろう?」
「ま、それは否定しないさ」
「仮に失敗したなら、君は次の四百年を耐えられない。どこかで私を止めようと、戦い、そして私は負ける」
「かもしれない」
「事実、私は君を切り捨てた。私は、ライラのためなら君すら殺す。私には、もうそうするしかないからだ」
「…………」
「やはり、切り捨てて正解だった。貴女は、もはやライラから心が離れている。一番の願いは、彼女ではなくなってしまった」
「なあ、オリオン」
「裏切りだ。赦されざる大罪だ」
「ボクは……」
「私は! 例え千年経とうとも、彼女を想い続ける。彼女と過ごした十年にも満たない時間は、私の全てなのだ!」
「…………」
「彼女との時間の、何十倍もの時が過ぎた。だが、また会いたいという願いは、些かも衰えてはいない」
「…………」
「彼女がそれを望まない? そんなことは分かっている! 世界を守った彼女が、私たちの所業を許すものか!」
「オリオン……」
「感謝の言葉も、愛の言葉も必要ない。彼女に殺されたとしても、構わない。それでもいいから、会いたいんだ……」
「……嘘を吐いたね」
「私に欺瞞など……」
「ボクを切り捨てて、のところさ」
「…………」
「お前は考えたはずだ。揺れているボクを見て、こんな旅路に付き合わせていいのかと。ボクもお前と同じ願いを抱いているが、熱量が違うものな」
「…………」
「愛する彼女は、確かに大切さ。でも、彼女に恋するお前には、きっと、ボクより彼女を想ってた」
「貴女は……」
「無謀な挑戦に、また何百年も付き合わせてしまうかもしれない。だから、お前はボクを切り捨てた」
「違う……」
「彼らの目の前で、わざとらしく殺したのも、ボクを『被害者』にするためだ」
「違う、違う……」
「『被害者』なら、彼らの味方になれるものね。ボクに新しい居場所を、作ろうとしたんだろう?」
「違う!」
「残念だけど、お前の考えはすぐ分かったよ。マジで、一瞬どうしたのかと思ったけどさ」
「私は、貴女をただ切り捨てた。貴女は、ただ私を恨んでくれれば……」
「ボクは、お前のために全力で戦った」
「……何故、私のことを責めないのですか」
「死んでも、ボクはお前の親友だからだ」
「貴女を、要らぬ地獄に引き込んだのは、私なんです」
「死んでも、ボクはお前を見捨てない」
「私を、罰してくれないのですね……」
「理由がないさ。お前は、ボクに報復を受けるようなことを、何もしちゃいない」
「私は、彼女に会いたかっただけなのに……」
「時間が経ちすぎたな。罪の意識も、願いへの想いも、ボクへの感情も、入り乱れてグチャグチャになってる」
「四百年は、人には長すぎる時間でした……」
「……だから、もう終わりなんだ」
「……ですが」
「ですがも、何もない。確かに、負けた。失敗した。でも、ボクらはやり抜いた」
「…………」
「これで、終わりだ。ゲームオーバーさ」
「…………」
「潔く、地獄に逝こうぜ。あの世で、罪を償ったら、ライラに、会えるかも、しれん」
「あの世は、ないと、昔、貴女が言ったことでしょう?」
「でも、あった方が、希望があるだろ?」
「……欺瞞です」
「最期くらい、夢を見ようぜ。ボクも、一緒なんだから」
「……愚かなことです」
「そう、だな。だけど、もう、疲れたからさ……」
「……まあ、確かに、ええ、疲れましたね」
「死んだ、後で、あの世でまた、会おう」
「何百年、ぶりかに、ぐっすり、眠れそうです……」
「生きるのも、死ぬのも、一緒なんて、ありがたいなあ……」
「…………」
「オリオン……ほら、向こう見ろよ……」
「…………」
「……久し振りだな、ライラ……」




