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147 歴史を振り返り


「ボクらが教団を作ってから、随分時間が経ったよ」



 コイツにとっては、多分興味もない話だ。

 ボクにも、もうどうでもいいことだし、今さらなことでもある。

 マジでコイツ薄情だから、言い争いのあと、口も利いてくれなくなった。

 だからもう、暇で暇でしゃーない。

 暇っていうのは、この世で一番良くないものだ。

 ペラペラ喋っても別に問題ない相手だし、独り言に付き合ってもらおう。

 本当に、知られても構わない相手で、知られても構わない内容だしさ。

 


「四百年前、ボクらは教団を作った。いや、元は研究をするだけの、二人だけの集まりだったんだけど、五十年もすると情勢が変わってね?」



 心境としては『はあ、やれやれ』だよ。

 ボクと教主、二人いれば良かった。

 二人で研究さえできたなら、それがボクとしては理想だったんだ。

 でも、



「確かに、ボクらは禁忌を破ろうとしたさ。でも、いったいどこで聞き付けたか、騎士団ってのができちゃったんだ」


「…………」


「潰しても潰しても、いつの間にか戦力が集まる。しつこい上に、ボクらの邪魔をする。困ったもんだよ。実験をするにも、既存のアプローチは限界が見えてたし、敵の相手をしないとだし、当時は結構困ってた」



 実験って、結構大がかりになるんよ。

 だって、禁忌に挑むんだもの。

 人体実験はもちろんしたし、色んな素材とかを調達しないとだし。

 雑魚の相手は片手間でもできるけど、邪魔は邪魔だ。潰しても潰しても湧いて出て、ずっと困ってた記憶がある。

 だから、



「人手が欲しくてねー。あの幽霊女は、その意味でとても役に立った。偶然の産物だったけど、力は十分だったし。この頃からだねー。有望な人材をスカウトして、禁忌へのアプローチの手を増やそうって考えてたのは」



 教団も、使徒も、取り敢えずのネーミングだったけど、定着してよかったー。

 教えなんて、魔法の知識を授けただけだけども。

 世に潜んでなんてできないし、開き直れたのは助かったよ。

 幹部が増えて、それらしい組織になった。『神父』が加わってからは、信徒とそのクローンによる人海戦術も使えるようになったし。

 


「それぞれのアプローチで禁忌に挑ませた。教主も未だに研究中だけど、アレも忙しい身だ。お前たちな存在は、本当に助かった」



 集中できるっていうことは素晴らしい。

 教主は優秀な魔法使いで研究者、世界で最も全知全能に近い存在だけど、リソースは有限だ。

 アレは、常に演算を続けている。

 任せられることは、任せるべきだからね。



「幽霊女を造った三十年くらい後に、バカヤンキーをスカウトしたよ。当時は、凄い拾いもんしたなって感じだった」


「…………」


「さっすが教主だ。あんなアリンコみたいな奴をよくぞ見つけた。まさしく砂金探しだよ」



 正直、初見ではゴミだと思った。

 こんなん居ってもしゃーねーやんってね。

 当時は雑魚戦闘員なんて居らんかったし、必要な人材だなんて思えなんだ。

 でも、バカヤンキーはその評価を覆した。

 あり得ないことをやり遂げたんだ。


 バカヤンキーのことは嫌い、ていうか、使徒の連中は基本嫌いだけど、評価はしてる。

 アレで腐ってなかったら最高なんだけどな。

 自己研鑽と他人を貶めることを、なんで同時並行するんだよ。

 自分を高めることだけに集中しろよ!


 ……まあ、それはともかく、バカヤンキーは凄かったんだわ。

 この四百年で一番の奇跡だった。

 んで、



「その五十年後くらいか。今度はお前をスカウトした。この時は分かりやすかったよ。あからさまだったし、勧誘もしやすかった」



 もう、本当に分かりやすかった。

 こんだけヤバけりゃ、ボクでも分かる。

 肌で感じちゃう訳なのよ、コイツのレベルになるとね。

 基本的に異空間に居て、いつ戻ってくるか予測不能だったから、それだけがダルかったけども。まあ、釣りみたいなもんだね。

 

 勧誘も、最初の一回で乗ってきたし。

 バカヤンキーの時は、軽く十回は出直したのにさ。



「『神父』は、お前も知ってるよな。自分から仲間に入りたいってパターンは初めてで、ビックリしたよ。でも、アイツが来てからは人員が増えた。アイツが来てから、研究は飛躍的に進んだ」



 間違いなく有能な奴だった。

 だけど、アイツは有能なだから、バカになれなかった。

 大局が見えすぎる奴だったよ。

 やり遂げるという熱が、もう消えた奴だった。

 でも、だからこそ、アレは素晴らしいものを遺していった。

 


「研究は、進みすぎたな」



 ボクはずっと、道はひとつしかないと思ってた。

 だけど、思ってたよりも、アイツの研究は深かった。

 禁忌を乗り越えるためのやり方は、多分いくつかできてしまった。

 アイツは多分、理論上最も『神』を再誕させやすい方法を取った。んで、コイツらは、自分達の都合に一番合う方法を選んだ。


 誤算だったなあ。

 いや、誤算は数えきれないくらいあるんだけども。

 コイツら、というか、バカヤンキーの熱量を見誤った。

 三百年近く想い続けた目的が、安いはずがない。安くないからこそ、拙速に事を為すとは思えなかった。

 のに、



「バカが夢を見るきっかけを作った……」



 コイツがどんな術を用意してるかなんて知らない。

 だけど、ボクを拘束してる以上は、ボクに止められる可能性を考慮したんだろう。

 失敗するのなら、ボクは普通に止める。

 何故って、それでクロノくんがどうなるか分からないからだ。

 せっかくの金の卵を、何故使い潰すのか。もう『神父』は居ないから、多分同じものを作るのは不可能に近い。


 ボクは慎重だから、このリスクは看過できない。

 誇りとか色んなものをボクは大切にしてるけど、それよりも大切なものがある。

 ボクは、残念ながら教主とは違う。好き勝手させられるほど寛容じゃねぇ。

 


「拙速だった。お前らは、待つべきだった」


「…………」



 だけど、やっぱり時間が足りなかったな。

 全部を対応することは、できなかった。



「アイツらのこと、舐めすぎだ。今も、ボクとクロノくんにかかりきりで、我が弟子たちは放置してるんだろう?」


「…………」


「彼らは、クロノくんを助けるためなら、限界を越えられるクソヤバ共だぞ。あわてふためくお前らの姿が目に見える」



 正直、可能性は低いだろうね。

 それでも、彼らはやってくれる。

 ボクが期待をかける連中だぜ。このアホ共の予測くらい、軽く越えてくるさ。

 


「!」


「な?」

 


 知ってたさ。

 もう、終わりは近いんだもの。


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