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138 一方その頃

 

 アリオスたちが『神父』の分身体と戦ってから、既に半時間が経過した。

 一人残らず、戦略級の力を有するアリオスたちだが、未だに敵を仕留めることが出来ずにいた。


 理由は、二つ。


 アリオスたちに負けず劣らず、敵が強かったこと。

 あまりにも不可思議で、理不尽な力の前に、苦戦を免れなかった。次元の違う場所に立っている、とでも言わんばかりに、『神父』たちへの攻撃は当たらないのだ。

 逆に、『神父』の攻撃は必ず当たり、何かしらの対処がなければ即死する。

 神聖術の攻略をしない限り、突破は不可能。そして、その方法解明の目処は立たない。


 二つ目に、これだけの力を有する敵の目的が、時間稼ぎであることだ。

 小休止に付き合い、常に力をセーブし、打倒ではなく邪魔を目指す。陰湿な戦法が、厄介さを数段上に押し上げている。


 負けない。されど、勝てない。

 もどかしくも、時間は過ぎる。

 

 分かっているのだ。

 この『神父』たちは、時間制限付きの奇跡で成り立つ存在だ。

 力を使い果たせば、自然と奇跡は一夜の夢と消えるはず。

 悪夢は、すぐに覚める。そういう、存在し続けてはいけない術なのだ。


 だが、一向に、泡沫の時間は終わらない。

 桁外れの力と、それに対する理解。

 『神父』は、あまりにも支配することに長けていた。

 己の力はもちろん、相手の心身のコンディションまで含めた実力、状況、戦況を加味して、効果的な手を合理的に指し続ける。


 一手及ばない。

 だが、その一手が永遠に届かない。

 この極致を、アリオスたちは、かつて『武』という形で受けた、この奇妙な体感を思い起こす。

 辿り着ける気がしない境地を見る。

 百年を越える、濃密な研鑽の果て。

 幾万の戦いと、明鏡止水の精神の中にしか生まれない芸術だった。


 ゆえに、焦る。

 

 クロノたちは、どうしているのか。

 この戦力を前にして、心配無用は保てない。

 嫌が応にも、『まさか』がよぎる。

 

 嫌な汗が額から流れた。

 嫌らしいのは、思考の暇があるということ。

 激しい熱戦にならないために、余計な思考を削ぎ落とせない。

 それでミスを犯す素人ではないが、全力を出し惜しむ愚人ではないが、本気を出せていたかというと、そうではなかった。

 だから、



「!」



 外からやってきた何者かに、彼らは寸前まで気づけなかった。

 アリシアの隔絶の壁を貫通し、勢い良く飛び出したナニカは、真っ直ぐに()へと向かう。

 刹那の出来事に、誰も反応できない。

 


「!!?」



 驚愕と痛みで、声を漏らす。

 常に冷静沈着、合理主義者の彼にとって、この結末は想定外だ。

 何故ならば、彼らは合理的に身を引いたから。天秤の揺れに従うと、そう踏んだというのに。


 さらには、まさかソレが出るとは。

 ソレは、容易に切れない切り札のはず。

 この悪い局面で出すのは、通常、愚策と呼ぶ他にない。

 セオリーを無視したやり方をするはずがないと思っていたのだが、



「……宛が外れましたか」



 凶器に倒れたのは、『神父』のひとり。

 オリジナルとは異なり、力をセーブするために、必要に応じて『儀式』を発動しなければならず、無敵化には制限があった。

 これまで、上手く隠しながら攻撃を防ぐ技巧は、達人のソレ。この鉄壁を抜き、命を脅かす外的要因は、動かないと読んでいたのだが、結果は彼の呟きの通りだ。



「よーし! 一旦止まれ!」



 雷が落ちたような轟音が通る。

 喜怒哀楽でいうところの、喜と楽しか感じない、底抜けに明るい空気を感じる。

 この人物の正体に、ヴァロルを除く全員が気付く。



「……貴方は」


「なかなかに、危うい状況であったな!」



 結界が破られている。

 敵である『神父』たちを分け隔てるため、実際に壊れたのは『部屋』のひとつだけだ。

 だが、この光景は、すべての『部屋』の戦闘を止める。

 

 彼が誰か。この場に、どれだけ場違いか。

 この闖入者の正体に、『神父』は小さく息を吐く。

 本当に、『まさか』というものは、いくらでも起きる。

 代表として、殺された『神父』と直前まで戦っていたアリオスが、闖入者に駆け寄った。



「アルベルト、殿下……?」


「そうとも! 私だ!」



 彼の後ろには、三人の人影。

 その中でも、強いプレッシャーを放つ男女は、つい先程、別れた二人。生き残った英雄の、メイガス、カノン。

 そして、影すら残らぬ怪人は、『ボス』と呼ばれた何者か。


 あの一瞬、結界は紙のごとく『ボス』によって切り裂かれる。瞬きの間に、『ボス』は『神父』のひとりの心臓を貫く。

 その後、メイガスとカノンの攻撃が『神父』にとどめを差す。


 だが、驚くべきは、三人の強さではない。

 率いている人物が、意味不明すぎる。

 その空気を察しているらしく、アルベルトは親指を立てながら、



「君たちの居場所は、早い段階から調べが付いていた。特に何かするつもりはなかったのだが、状況がおかしな方向へ進んだのでな!」


「…………」


「別れていく彼らを呼び止め、雇った!」



 二人の方を見ると、疲れた表情で固まっている。

 どんな取引があったかは分からないが、ろくでもないことになったのだろう。

 権謀術数の分野では、凄まじく長けている男だ。

 人としての欲や志が絡む限り、口説き落とせないことはない。

 まだ、理解の及ぶ範囲ではある。


 だが、不可解なのは、幽鬼のごときソレについてだ。

 


「いったい、どうやってソレを動かしたのですか?」



 不可解の極みである、『ボス』とやら。

 もはや、『強者』という概念が体を得て動いている存在だ。

 そもそも、あの場から動かせるのか。誘導によってここまで押し込んだ訳でもあるまい。

 今現在は動きを止めているのだ。それは、恐らくアルベルトが制しているから。

 どんな魔法を使ったのか、検討も付かない。


 アルベルトは、腕を組みながら快活に笑い飛ばして、

 


「分からん!」



 裏があって、手段を隠している風ではない。

 これは、本当に分かっていない。

 無理解のまま、使えるものを使っているだけだ。

 


「莨昴∴縺ェ縺代l縺ー……」


「分からんことを呟くだけの御仁だ。理屈で図れるはずもなし」


「そうですか」



 謎は、残る。

 納得はかなり難しい。

 しかし、今は何より戦力が欲しい。

 なら、



「この先に、敵の親玉と、クロノたちが居ます。どうか、早くそちらに」


「では、そうしようか! お二方、この場はお任せいたします!」



 足早に、アルベルトは進んでいく。

 幽鬼はゆらゆらと、それに従う。

 別れた英雄二人は残ってくれたのだから、戦力の割り振りは理想である。

 不安はあるが、背に腹は代えられない。

 敵は一人減り、味方は増えた。速攻で終わらせて、後を追うのが今の仕事だ。

 


「クロノ、待ってろよ」



 剣を取る。

 志を胸に、強く勇む。

 

 各々の最善を目指し、結びへ迫る。


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