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132 解決法


「「「………………」」」



 重苦しい雰囲気は、嫌でも伝わる。

 血の匂いがこびりついて、どうしたらいいか分からないって声なき声が聞こえてくる。

 夢なら覚めて欲しいって、皆が思ってる。

 この世の終わりみたいな空気はホントに居心地悪いけど、きっとどうにもならないんだろう。


 

 はーい、ボクだよ。

 朝起きてみたらびっくらぽん。

 あのやさぐれ娘、マジで裏切って仲間殺してやんの。

 予想はしてたし、なんならけしかけたんだけど、まさかまさかだ。

 アイツ、嫌なことに労力割くとは思えんし、ここに来たときに他の連中とくっちゃべってたのを見た時は素直に『へー、意外』って思った。

 あんなだけど、悪く思ってはなかったはずだ。

 アイツのことはよく知らんけど、長い付き合いだったんじゃねぇの?

 

 まあ、もうどうでもいいけど。

 だって、アレが選んだことだし。


 ……それより、これからの展開よ。

 ぜってーひと悶着起こるやん。

 

 巻き込まれる身にもなってくれよ。

 娘の後始末を見守るなんて、罰ゲーム以外の何でもない。

 せめて、達観してる連中が残りゃ良かったけど、軒並み死んで若僧しか残ってねぇ。



「後を追い、あの女を殺しに行くぞ」



 いくら黙ったか知らんが、口を開いたのは若僧その一だ。

 ボクらと『ボス』とやら以外の面子はアレに殺やれたから、あとは三人しか残ってない。

 新入りが居るとかなんとか聞いた気がするけど、覚えてないや。でも、騎士団の古株連中が全員死んだのは間違いないらしい。

 ラッキーだけど、顔に出したらダメなのが辛いところだ。



「性急すぎる! 奴の狙いも何も分からない内から行動を起こすなど!」


「ここで顔を付き合わせても解決しない! 迅速に行動に移すべきだ!」


「罠かもしれない。動くのは愚策よ」


「痕跡が残っている! 奴らの根城に通じているやもしれん!」



 楽しいよなー。

 気が短そうなのがちゃんと場を引っ掻き回してくれてる。

 そういうのは得てして、後衛とかサポーターみたいな全体を俯瞰するポジの性格のとは相性が悪い。

 命がかかった戦闘ならいざ知らず、こういう場では揉めがちだ。

 


「だから、それが罠だと言う!」


「罠なら踏み潰せば良いだろ!」


「全滅の危険。許容できないわ。それこそ、向こうの思う壺」


「なら、お前たちは引っ込んでいろ! 俺が一人で……」


「戦力の分散? 正気で言っているなら、とても頭が悪いわね」



 見事に英雄たちは二対一。

 魔法使いっぽい男と弓兵っぽい女VS剣士っぽい男。

 前者は日和見派、後者は死に急ぎ派。

 愚か者の挙動は見てて飽きない。

 転ぶ方向はこっちが決めたいけど、下手に口も出せんしなー。



「殺されたんだぞ、仲間が! 仇が逃げるのを、指を咥えて見ていろと!?」


「そう言っている。逃がす他にない!」


「何故だ!」


「騎士団の全滅こそ、最も避けるべきだもの」



 とはいえ、本気で冷静なのは一人だけだけども。

 日和見派の男も、あんまり冷静になれてないのを無理矢理理論で納得しようとしてる系だ。

 女は逆に冷静すぎる気もするけど、あんまり情とか無い系かな?

 彼女、ボクらの直前に入ってきた人?

 関わりがそもそも薄いと見た。

 


「なら、貴様だけここに残れ。戦いたい者が戦えばいい」


「戦力の分散は……」


「元より、協力して戦うタチでもないだろう?」


「おい、頭を冷やせ! こんなことをしてる場合か!」



 若いよねー。

 方向性の違いで揉めるなんて、学生かバンドマンくらいしかないよ?

 貴重な経験だから、しとくだけしときなー。

 大人になったら、意外と


 まあ、バトッたら介入だね。

 ボクの立場としては、追わせるのが正解だし。



「とにかく、俺は追う。巣穴に籠るのが好きなら、好きなだけそうしてろ!」


「おい!」


「バカはこれだから困るわ」



 やれやれ調子の女。

 冷静になりきれない男。

 直情バカ男。


 三者三様だけど、混乱や不安の感情は伝わる。

 積み上げてきたモノがあれど、彼らのソレは、殺された英雄たちと比べて脆い。

 年長者なボクからすれば、少し隙を突けば崩せる。

 だけど、もう少し。



「味方同士で争うことに、何の意味があるんだ! これでは、奴らの思う壺……」


「元より、我らは仲間ではない」



 ヒリついた空気だ。

 言っちゃいけないことを言ったね。


 意思統一という面では、彼らは教団の遥か下だった。

 何故って、弱い凡愚と違って、英雄はとても我が強いから。

 寄せ集めの烏合の衆。辛うじて、世界を守るという大目的が一致しただけ。でも、奴らは、本質的なところじゃわかり合えてない。

 使徒は、一度だって欠けたことがない。

 その理由は、



「我らはどうやって、武功を上げた? どんな命を吸い上げて、今に至った?」


「「…………」」



 ボクらが現役だった時代とは違って、今は普通に戦争が起きる。

 魔物だって出るし、それを駆除して多くを救って、英雄と呼ばれるようになった奴も居るだろう。でも、誰一人として人間を殺した事がない奴なんて居ないはずだ。

 敵国同士だって、不承不承で協力してた。

 そうじゃなくても、潜在的な敵対意識はあったはずだ。

 自分の国が一番大事に決まってるし、()()()()()()()()()()()()、動かねー英雄は居ねぇ。



「元より、無理があったのだ。共通の強敵を前に手を取り合う? 不参加は、この騎士団の庇護を得られないのだ。当然だろう?」

 

「…………」


「そして、この組織は肝心の力すら失った。ならば、騎士団に参加する義理もない。俺は、好きにするだけだ」



 まあ、筋は通ってるね。

 筋だけなんだけども。


 ……組織を成り立たせる上で、新入りが来ないような在り方は論外だ。新陳代謝が起こらないと、後は腐るだけだからね。

 必ず入ることによる旨味を誰かに提示しないといけない。

 ボクなら、互助会としての役目を推す。英雄一人程度では対処不可能な悪役が居たとして、唯一抵抗可な組織に関わりの無い国はどうなるか?

 食い物になるのは目に見えてるわって話よ。

 多少の不和は生まれるもの。

 歴が浅いコイツらなら、仕方がない。


 でも、ズルいよなあ。



「君たちは、どう思う?」



 あ、こっち投げた。

 冷静になりきれない系の中途半端な野郎がよ。

 子供に何を聞いてるんだ、何を。

 


「特に、君。ライラは、師だったのだろう? 君なら、どうする?」



 はー、酷いもんだよ。

 この中じゃあ、一番彼がショック受けてるだろうに。

 傷心中の子供相手に、それを聞いてどうするよ?

 別に現況の打開策を他人に求めるのは間違ってないけど、それが英雄、ていうか大人のやることかね。

 ……まあ、いつまで待っても、マトモな結論にはならんだろうな。

 この辺りが頃合いだろうし、



「まず、落ち着きましょう」



 あえ?



「ヴァロルさん、まず、貴方がそれを言うのは間違っています」



 あ、短期バカの名前って、ヴァロルなんだ。

 多分絶対明日には忘れてる。



「本気で不満なら、仇討ちなんて考えもしないはずです。憤っている貴方自身が、貴方の理屈を否定しています」


「…………」


「使うにしても、理由は選びましょう」

 


 え、え、クロノくん?

 どうしたの? 熱でもある?

 


「メイガスさん、カノンさん。貴方たちも、決して間違ってはいません。ですが、喧嘩腰は良くない。本当に、仲違いしている場合じゃないんです」


「……意見は違えてる。諌めることもできない。無駄じゃないかしら、話し合いなんて」


「そんなことはありません。お互いの意志が分からないまま別れれば、禍根だけが残る」



 はえー、大人になったなあ。

 男子三日会わざればってアレですか?

 なんていうか、もう精神的に熟れたよなあ。まあ、色々あったしなあ。

 そうかそうか、ならしゃーないか。

 


「偉そうに。なら、どうするつもり? 結局、追うか引くか、何も解決はしないのだけど?」


「ええ、とても難しい問題です。きっと、どっちも正しくて、答えなんて、やってみた後にしか分からないのでしょう。俺も、カノンさんが納得することを言えない」



 精悍な顔つきしてるように見えてきた。

 女さん、ちょっと面食らってて笑う。

 


「俺は、師匠の後を追いかけます。あの人は、俺たちを待ってる」


「罠を張ってるなら、そりゃあ待ってるでしょうよ」


「信用できないのは、分かります。でも、そうじゃないんです。あの人は、そんなことする人じゃない」


「……なによ。結局、追いたい奴が追いかけるってだけの話でしょ?」


 

 まあ、答えを出せるほど情報がないしな。

 二分一の賭けしかできんわ。

 何を言っても納得させられる訳ないし、この女の言う通り、やりたいようにするしかないわ。

 クロノくんのやり方も、ただ、禍根が残らないようにそうしようってだけの話だし。



「すみません、俺は、そう言うしかないです」


「…………」


「どうしようもない時だから、解答なんて無いから、選択する時だから、悔いが残らないようにするしか出来ません」



 ここの意志決定なんて、別にクロノくんのすることじゃないよな。

 彼がとても冷静で助かった。

 これで、ボクらがやさぐれ娘を追う理由になったよ。



「お、おい……」


「俺は、追います。そうして、意地でも師匠を連れ戻します。そうしないと、腹の虫が収まりません」



 仲裁を望んでた優柔不断男には、あんまり喜ばしくない決断だけど、まあ知らんわな。

 いやー、それにしても良きかなだわ。

 未熟なところがあったクロノくんだけど、案外成長してたんだね。

 そういや、最後に取り乱したのはいつだったか? 戦場に来る前から覚悟は決まってたけど、ここ最近で本当に仕上がってきた。

 常に命の危機があるっていう環境が上手く作用したかもねぇ。


 そういえば、アイツどうするつもりなんだろう?

 ここまで派手なことしたってことは、ついに始めるってことだよね?

 ていうか、詳細なんも聞いてないけど良いのか?

 ざっくりこうするかも、しか分からんぞ。場の流れに任せるけど、ホントに良いのか?


 ……考えても無駄か。

 無い頭巡らす時間はないな。

 脳筋らしいボクは、頭じゃなくて体が先に動くか。



「俺は行く」


「当然、付き合う」


「言うまでもなく」


「アンタの師匠、祟り殺してやるわ」


「死なない程度にねー」



 さーて、ボクもお仕事頑張りますか。

 今回は過去一しんどくなりそうだし、気合い入れないとなー!



 ……別にどうでもいいけど、クロノくんもアレが裏切った理由が分からんか。

 理解者が欲しいと願うものなのに、人の子も難儀なもんだよ。


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