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第8話 悪寒と地獄鍋

 「じゃあ、水汲み任せるからね」


 「任せてっ……!」


 魔獣オルバスを仕留めた二人は、しばらく歩いた先にあった洞窟の中で、少し遅めの昼食の準備を始めた。

 昼食の支度は、自信満々に任せてと告げたイリスに託し、シオンは近くの川に飲み水を汲みに行った。

 土地勘など全くない異世界を一人で歩くのは不安だったが、幸い、二人の休憩地点から小川はそう離れてはいなかった

 イリスの持っていた何本かの水筒に水を汲み、ついでにシオンも水分補給をしておく。


 「ふぅ……美味しい」


 この地に降り立ってから、何度か水分補給をしているが、地球で飲む水よりも格段においしいと感じていた。

 自然が豊富だからなのか、自然を汚すものがないからなのか。

 それとも、誰かが不純物を浄化しているのか。


 「……よく分からないけど、自然が豊かななのは良いことだよな」


 乾いていた喉を潤した彼女は、口元に着いた水を拭いながら、改めて周囲を見渡す。

 この近くに町があるようには見えず、あるのは今来た道と、巨大な森だけだった。

 彼女の目的地はまだ先なのだろうか。

 そもそも、彼女は何をしに機械種の国に行くのだろう。


 「──あの時、イリスは何をしてたんだろう」


 ふと、シオンは彼女と初めて出会った時のことを思い出した。

 森の中に転がる兵士の死体と屍の海の中で佇んでいた彼女。

 まぶたに焼き付いたあの光景の意味を、彼女に問いたい自分と、彼女の問題に簡単に踏み込んでいいのかと思う自分が戦っていた。


 「はぁ……。戻ろう」


 そんなことに頭を悩ませている自分に呆れながら、イリスの元へと戻ろうと歩き出す。


 「……っ!?」

 そして、洞窟に入ろうと、一歩足を踏み出した瞬間、シオンの背筋を寒気が走る。

 すぐに周囲を見渡すが、怪しい人物がいるような気配はなかった。

 それでも、しばらくは周囲を警戒していたが、特に異常はなかった。


 「……気のせい、だったのか?」


 まだこの世界に慣れていないせいで、感覚が過敏になっているのかもしれない。

 そう思いながら、シオンは洞窟の中へと入っていった。


 「──よし、出来たぁっ!」


 すると、焚火の近くでイリスが何かを作っていた。

 自分のために何を作ってくれていたのか。

 女子に料理を作ってもらうなんて初めてだとウキウキしながら、鍋の中をこっそり覗き見るシオン。


 「なっ……何、作ってるの……?」


 だが、鍋の中身を見て、彼女は絶句した。


 「あ。おかえり、シオン。迷わなかった?」


 「そ、それは大丈夫だったけど……その地獄のような鍋は何……?」


 イリスの手元にある紫色の鍋に怯えながら、シオンは彼女が一体何を作ったのか説明を求めた。


 「え? オルバスを野草と煮たんだけど……」


 「野草と煮ただけでそんなことになる……!?」


 単純な工程だけに、ますます理解が追い付かなくなる。

 ただ煮詰めただけで、どうしてこの世の終わりのような料理が出来上がるのか。


 「ちょっと味見してもいい……?」


 「お腹空いちゃった? 今日のは自信作だから、沢山食べていいからね!」


 「えーっと……まあ、うん。いただきます」


 シオンは苦笑いを浮かべながら、鍋の中の料理を少しだけ舐めてみる。


 「うっ……こ、これは……」


 彼女の手作り料理は、一言で言って、最低の味だった。

 魔獣の生臭さと、野草のえぐみが混ざり合い、とても食べられるような味ではなかった。


 「え、あれ? お、美味しくなかった……?」


 シオンの反応に、自分の料理が美味しくなかったのではないかと心配するイリス。


 「い、いや……美味しすぎ言葉が見つからなかっただけだよ……! これ全部食べてもいい? お腹空いちゃって」


 「いいけど、これ全部……!?」


 彼女の驚く反応を見ながら、シオンは鍋を両手でつかむ。

 そして、彼女の尊厳を傷つけないために、胃の中へとかきこんでいく。

 吐きそうになるのを堪え、彼女への感謝だけで、全てを呑み込んだ。


 「ご、ごちそうさまでした……」


 「おー……見てるこっちが気持ちよくなるくらいの食べっぷり。よっぽどお腹空いてたんだね。おかわりいる?」


 食べ終えるなり、地面に突っ伏したシオンの様子を不思議に思うが、それほどまでに空腹だったのだと納得するイリス。

 まだ空腹ならばいくらでも料理すると張り切る彼女を見て、シオンは弱弱しく顔を上げて呟いた。


 「も、もう十分です……」


 そして、シオンは再び地面に突っ伏した。

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