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第11話 狂気銀翼

「馬鹿の一つ覚えだ」


 一直線に突き進む彼女を見て、人影は吐き捨てるように呟いた。

 力量の差も分からず、無謀な戦いに挑むことほど愚かなことはない。

 影は、突き進む彼女を串刺しにすべく、再び黒き剣山を進路に出現させようとする。

 しかし、イリスの足元の影が具現化すると同時、彼女は視界から姿を消した。


「何……?」


 一体どこに消えたのか。

 その答えはすぐに明らかになる。


四翼銃メローペ!」


 頭上から響く彼女の声と銃声。

 降り注ぐ弾丸の雨を影の傘で防ぎながら、視線を頭上に向ける。

 そこには、黒銀の銃を持つ銀翼の天使しにがみがいた。

 足元の影が具現化すると同時に、イリスは空高く飛びあがることで、彼女の死角に入ったのだ。


「でも、それじゃ調理されるのを待つ食材と一緒でしょ」


 人影が指を鳴らすと、洞窟内の影がうねり、無数の棘となり、空中で身動きの取れない彼女を狙い放たれた。


五翼弦プレイオネ!」


 当然、こうなることはイリスも分かっていた。

 それでも、空中を選んだのは、どうにか出来る手段が彼女にはあったから。

 黒銀の銃は、目に見えない細い弦となり、飛び交う棘の全てを貫いた。

 同時に、洞窟中に張り巡らされた弦を足場に、彼女は人影に向かって急降下する。

 放たれた矢のように一直線に、イリスは人影の背後に着地した。


三翼拳マイア……!」


 そのまま、葬具を拳に纏わせ、人影に向かって拳を伸ばす。

 着地から攻撃まで、ほぼノータイム。

 反応も間に合わない確実な一撃。

 戦闘を静かに見守っていたシオンはそう思っていた。

 だが、攻撃を放ってしまったイリスは、たった一つの大きな過ちに気が付いた。

 それは、着地した場所が、敵の影の上だったこと。

 自らの焦りが招いた事態なのか、敵の誘導によるものなのかは分からない。

 確実なことは、このままでは、足元の影にイリスは殺される。

 自分の影を操作することなど、一番簡単で自由度が高いはずだから。

 その前に、拳を命中させて、人影を討ち取る。


「遅い」


 イリスの推測は間違っていなかった。


「がはっ……」


 一つだけ読み違えているとすれば、それは敵の影を生成する速度だけである。

 拳を当てるよりも早く生み出された影によって、串刺しにされたイリス。


「く、あぁ、あああああああ!!」


 そして、敵もまた一つだけ読み違えをしていた。

 それは、イリスの全身を串刺しにすれば、その動きは止まるであろうという楽観。

 彼女が傷も痛みも無視して、攻撃を放つ可能性を全く考慮していなかったのだ。

 創世の種であるということが生み出した隙を、最弱の種族は決して逃さなかった。

 血に濡れながら振るわれた拳は、人影の顔を捕らえ、岩壁に叩きつけた。


「やっと当たった……!」


 鮮血で地面を染めながら、この機を逃すまいと、人影に向かって全速力で駆け寄る。


「こいつ……!」


 ひび割れた顔を押さえながら、イリスを睨みつける。

 先ほどと同じく、直線で駆け抜けてくる少女だが、先ほどと同じ手は通用しない。

 空中も地中も、洞窟内全てを狙えるように影を展開し、彼女の出方を見極めようとする。

 その瞬間、駆け寄ってくる彼女の姿に違和感を覚えた。

 彼女の腕を覆っていた拳の武装が消えていた。

 槍も、斧も、銃もその手にはなかった。


「まさか……!?」


「今度は、そっちが遅かったみたいね!」


 イリスの策に気が付いた時にはもう手遅れだった。

 人影の身体は、強引に引っ張られ、空中へと放り投げられる。

 彼女は、拳が直撃した瞬間に、武装を切り替え、弦を人影の身体に結び付けていた。


「舐めるな」


 体勢の崩れた人影は、結ばれた弦を断ち切り、影を足場に体勢を立て直そうとする。


「舐めてるわけないでしょ」


 そして、それを考慮していないイリスではなかった。

 弦を切られる前に、葬具を斧へと変化させて、手元に戻し、地面に振り下ろす。

 彼女の放った一撃は地面を割り、洞窟にいくつもの大きな亀裂が走る。


「え……あ、あの、これもしかして」


 戦況を静かに見守っていたシオンは、冷や汗をかき、息を呑む。


「ずっと考えてたの。あなたの影の操作って、影がぐちゃぐちゃになったらうまく機能するのかなって」


「貴様……!」


「あはっ。創世の力、見せてみなよ!!」


 イリスは、楽しそうに笑いながら、もう一度地面に向けて戦斧を振り下ろした。

 その一撃は、洞窟を完全に崩壊させる。


「嘘だろ!?」


 落ちてくる瓦礫を必死に避けながら、出口に向かおうとするシオン。

 だが、必死な彼女を嘲笑うように、彼女の目の前で、出口は崩落した。

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