プロローグ
──血だまりがあった。
その中心で眠るのは、人形と見紛うほど美しい少女。
笑顔で未来を約束した彼女は、血の海の中心で眠り続けたまま、目を覚ますことはなかった。
彼女の象徴でもある白銀の翼も、赤く染まり、消えていった。
制服を纏う少女・シオンは、その動かなくなった亡骸を抱え、血の海の中で、しばらく呆然としていた。
「……ねえ、起きて。起きてくれよ、イリス……」
どれだけ呼びかけようと、イリスから返事はない。
──彼女は死んだのだ。
「──カノ。どうしたら、この子を生き返らせられる……?」
その事実を受け止めた時、シオンの口から零れたのは縋るような思いで絞り出された小さな呟きだった。
「……普通は無理。どんな生物にも等しく死は存在する。それは変えようのない事実」
その声に答えたのは、少し離れたところからその様子を見ていた、カノと呼ばれる黒い少女だった。
シオンの祈りにも近い疑問を、カノは容赦なく否定する。
余計な希望を持たせる方が、酷なことだと彼女は考えたのだ。
「それに、仮にできたとしても、死者の蘇生なんて何が起きるか分かったもんじゃない。最悪の場合、この世界が滅ぶことになる。それでも──」
「それでも、やるよ。たとえこの世界が滅んだって、オレは彼女を救いたい……!」
シオンは、彼女の言うことを理解していた。
それでも諦めることは出来なかった。
自分を救ってくれたイリスを。
笑顔で自分の夢を語ってくれた彼女を。
明日を、未来を約束した彼女を、このまま諦めて生きるなど、到底受け入れることの出来な話だった。
それに、元より行く当てのない身。
不可能を可能にする時間ならいくらでもある。
その覚悟を感じ取ったのか、カノはため息をつき、呆れたような口調である可能性を口にした。
「はぁ……。そんなに彼女を救いたいなら、始まりの二種族にでも聞いてみれば? 無駄に長く生きてるんだから、知ってるやつが一人くらいはいるんじゃない?」
「始まりの二種族……。霊魔種と精霊種、か」
カノの言葉を聞き、シオンは自分の行く先を定めた。
「……待っててくれ。必ず、君を生き返らせてみせるから」
そして、今はもう動かなくなった大事な彼女に決して揺るがぬ誓いを立てる。
「──行こう」
しばらくの間、亡骸を抱きしめていたシオンは、覚悟を決め立ち上がる。
どれだけ果てしない旅であろうと、必ず彼女を生き返らせると。
──彼女と共に、明日を笑顔で迎えるために。