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第8話 真祖の成長

 あれから一か月ほどが過ぎていた。

 ある日は、海岸にクラーケンが出たと報告が。

 そのまたある日は、ドラゴンが城へ向かっていったなど。

 噂が広がっていた。

 ドラゴンは、ヴァルガで守護龍だと説明し、納得させていた。

 クラーケンが出たという報告は本当であり、ユイスが船で連れてきた冒険者によってクラーケンは数時間のうちに狩られていた。クラーケンの肉はおいしくないが、いい食料だ。


「疲れた」


 書類作業をしていたルリが突然、立ち上がり、認識阻害の魔道具を作っている俺の膝に座ってきた。

 気にせずに作業を進めること五分が過ぎ、完成したが膝に座っていたルリが静かに眠っていたのに気づく。


「ルリ。寝るならベッドで寝ろ」


 ルリのほっぺを人差し指で何度もさす。

 相変わらずの柔らかいほっぺはそれを反発するのだ。


「そうするぅ~」


 ルリが俺の膝から立ち上がり、そのままキングベッドに倒れこみ、すーすーと息が聞こえてきた。

 外は朝だが、徹夜明けのルリにとっては夜なのだろう。

 すると部屋の外からエルフのメイドの声が聞こえてきた。


「魔王様。住民の皆さんがお待ちです」

「ああ、今行く」


 俺は作っていた魔道具を右腕に取り付け、鏡を見て人間になっていることを確認し、ルリに布団をかぶせ部屋を後にした。


「魔王様こちらです」

「ああ、ありがとう」


 獣人の執事から今回の議題の文章を受け取り、王座の間に向かいながら読む。

 内容としては、住民たちの一か月の成果報告だ。

 それぞれ食料部門、兵隊部門、冒険者部門、生産部門と別れており、それぞれの代表が一か月ごとに報告する義務を彼らに命じた。

 それが今日だ。


「皆一か月お疲れ様」


 王座の間で俺の目の前に四人が膝間づく。

 それぞれ疑問の表情でこっちを見つめる。


「あールリなら今日はこない。俺が代理として報告を聞こう」


 疑問がさらに膨らんだのか冒険者部門のギルドマスター、レイガスが部屋全体に響く大きな声で俺に指をさした。


「お主は王女様とどんな関係だ!」

「あー、ルリなら俺の嫁だが。不満か?」


 俺は一瞬、殺気を放つ。

 それに気づいたレイガスが、指を下げ再度膝間づき、態度が急変する。


「申し訳ございませんでした」

「いや別に気にしてないし。というか俺が表に出たくないだけだからとりあえず報告を頼むぞ。レイガス」

「はい! 我が主」


 態度が急変したレイガスが、最初の睨みつける視線から、尊敬する目線に代わっていた。


「あ、このことはレイガスが流しておいてくれ」

「わかりました」


 レイガスに書類と金の延べ棒を渡す。

 その後、食料部門のゲイル。兵隊部門のキリオ。生産部門のリシアとの報告を受け、それぞれに見合った金額を渡す。

 この渡すのは、住民たちの給料だ。大体一人一日銀貨5枚、一か月で金貨五枚だ。それのまとめ払いである。

 すると、王座の間の扉が開きベッドで寝ていたはずのルリが入ってきた。

 寝ぼけているのか、枕を片手で抱き、四人の部門長たちを通り過ぎ、俺に抱き着く。


「みつけたぁ......スース―」


 ルリが俺に抱き着きそのまま目をつむって眠りにつく。

 いつも俺が抱き枕にさせられていたため違和感があったのだろう。

 だがこの状況は気まずい。


「とりあえず、会議は終わりにしましょうか」

「ですな」


 四人は同時に立ち上がり、俺がルリおんぶしてリビングとして使っている部屋に案内する。

 そこのソファーにルリを寝かせ、俺は四人と語りだす。

 今の弟子たちが行っていること、魔王軍のこと、宗教のこと、ヴァルガ連合国がどこまでうわさが広がっているのかを俺は聞いた。

 四人がそろそろ帰ると言い出したため、俺は彼らを見送る。


「ルリ様のこと見てなきゃだめですよ?」


 リシアに言われ、俺は四人を見送った後、ルリの側で彼女の寝顔をじっと見つめる。

 小動物みたいだと思いながら、ルリの髪を触る。

 すると、寝ているルリが俺の手をつかみ、手首をかじる。

 人間の血を毎晩取っているはずだが、毎日必ず、噛まれ血を吸われる。

 癖になっているのか、寝ている間にもこうやって座れることがある。

 すぐ回復するから関係ないが。


「おいし......」


 小声でルリがつぶやいたのが聞こえ、ルリの顔を見つめる。

 ルリが、俺の腕から口を離しいつの間にか目を開けていた。


「俺の血、癖になってるだろ最近」

「人間の血よりおいしいもん」


 口周りの血を人差し指で集め、なめまわす。

 吸血鬼にとっては人間の血がご馳走であるが、魔族の俺の血は、吸血鬼の血とよく似ている。

 だが、それが癖になってしまっているルリはやはり真祖なのだろう。

 あらゆる吸血鬼の祖でありながら、現在も成長しているのだ。

 俺と違って......。

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