第30話 出港
一週間が経ち、ユイスの使いと名乗る馬車の運転手が城におと連れた。
事前にマジックバックの中に準備していたため、手ぶらで馬車に乗る。
住民たちが馬車を見かけた途端こっちに手を振り、ルリはそれを返すかのように手を振っていた。いつの間にか馬車が止まっており、扉が開く。
先に見えたのは、戦艦だった。
「でけぇ.....」
「先生。お待ちしてました」
船の上から声が聞こえてくる。
ユイスだ。甲板からこっちに手を振っていた。
俺は振り返す。
「揺れてる......酔いそう……」
「あ~船酔いかぁ。ダメだったら魔法で連れっててやるから」
「お願い」
「おう」
ルリの手を握ったまま、船の甲板に続く階段を上りきると、船が動き出す。
ユイスに船内を案内される。
「ここが先生たちの部屋です」
「ありがとな」
「いえ」
「あ、船酔いやばくなったら転移で国のほうに向かうけど問題ないか?」
「ええ、問題ありません。以前のお泊りいただいた宿にも話をつけております」
「そっか、ありがとな。何から何まで」
「いえいえ、明日には到着すると思いますのでそれまでゆっくりしててください。では」
ユイスが部屋から出ていく。
船酔いで倒れたルリをソファーの上に寝かせる。
「気持ち悪い……」
ルリが口走りに一言いう。
相当つらいのかテーブルに置いてあった水を飲み干す。
「大丈夫かぁ~」
「死ぬかも……」
「船酔いで死ぬのはないと思うが……」
「むー」
ルリに毛布をかぶせ一人用の椅子に座り、部屋の本棚にあった本を読み漁る。ルリはその間、寝ていた。
「すみません、そろそろ夕食ですが、大丈夫ですか?」
部屋の扉の裏側から声が聞こえてきた。
まだ寝ているルリを起こさないように書置きを残し、廊下に出る。
従業員に食堂に案内される。バイキング形式なのか、貴族の格好をした者たちが交流していた。
「俺達の運搬兼貴族の交流場所か」
「そうです。いい考えでしょ? 先生」
後ろから声を掛けられ振り向く。
するとそこには、見慣れぬ女性が立っていた。
彼女には先生と呼ばれることはしてないはずだが。
「良い考えだが、少し困ったな……」
「何がですか?」
「ルリに夕食をと思ってな」
「あーそれなら、これを使えばよろしいかと」
テーブルの上に置かれた弁当箱を渡してきた。
確かにこれなら部屋に寝ているルリに料理を持っていくことができる。
まぁ必要はないが、興味津々だったので持っていくことにしよう。
「あ、先生探しました。て……」
「あなた、どうしたの?」
「いや、先生と一緒にいるなんて珍しいなぁて」
「あー先生が困り果ててたためあなたの妻としてのことをしたまでよ」
ユイスがこの会話で彼女の尻に敷かれていることがよくわかった。
商売には成功したが女には失敗したのか、解せぬな。
「まぁそういうことだ」
俺は自慢げにいう。
「まぁいいでしょう。とりあえずルリ様にこちらをと思いまして持ってきました」
さっきテーブルの上に置かれていた弁当箱を渡された。
重いので何か入っているのだろう。
「ちょうどよかった。ありがとう」
「いえいえ、ではこれで」
そういうとユイスは貴族の方へと向かっていった。
俺がつけている勲章を貴族たちが観るもすべての貴族が距離を置いてしまう。なんでもこの勲章は、賢者の勲章だという。
「俺が何したってんだ……」
「先生。ルリ先生のとこ行ってもよろしいでしょうか?」
ユイスの妻が俺に話しかけている。
そのことを承諾し、部屋の番号を教えユイスから譲り受けた弁当箱を彼女に渡した。
「では、お預かりします」
「頼んだ」
「はい!」
元気よく返事をすると、そのまま食堂の扉から廊下へ出て行った。
その姿を見送った後、俺はテラスで海をじっと見つめていた。
たまに魔物が顔を見せ、挨拶してくるが結構かわいくて好きだ。
「魔王様だ」
「魔王さまぁ~」
俺は、小さくばれないように手を振る。
「バレないうちに帰れよ~」
「「「は~い」」」
返事をしてそのまま暗い海の中へと消えていった。
俺は一息つき、そのまま夜空の月をじっと眺めていると月の方角からドラゴンのような形がをしたものがこっちに近づいていた。
それに気づいた貴族たちが焦りだす。
「静まれ! この船には先生がいるので安心してくれ!」
「先生て、大賢者様では……30年前に行方不明になった」
「私は見たぞ。賢者の勲章を持つ少年を」
「儂もじゃ」
会場があわただしくなる中、向かってくるドラゴンに念話を送る。
だが、拒絶され船の前に立ちはだかる。
「我が故郷を滅ぼし勇者! 我の前に出て戦え」
まだ若いドラゴンなのだろう。
理解が不完全だ。
「でで来ぬならこの船は破壊してくれようぞ!」
ブレスを放とうとした瞬間を狙って、ちいさい火の玉を魔法で生み出し、ドラゴンの頭にぶつける。
「誰だ! 今邪魔したのは!」
俺はテラスから飛行魔法を使い羽をはやさずにドラゴンの前に立ちふさがる。
「貴様か、なら死ね!」
ブレスを放つも、俺が張った結界によって船は無事だった。
ドラゴンはその状況に困惑する隙を狙って、太古のドラゴンにもらった笛をその場で吹く。
すると、俺の周りを、ドラゴンが魔法陣を通じて現れる。
俺の目の前に笛をくれたドラゴンが現れる。
その姿は、雪のように白く、エステナの羽の様だった。
「我が主。どうかしましたか?」
「久しぶりだな。エル」
「ええ、久しぶりです。それでこの不届きものを処刑せよでよろしいでしょうか?」
「いや、監禁で」
「分かりました」
太古のドラゴンは、船を襲ったドラゴンを部下のドラゴンに取り押さえ、そのまま西の方へと飛び去って行った。
俺は飛行魔法の効果を解き、空中から甲板へ着地する。
すると、歓声が上がる。
「さすが大賢者様!」
「大賢者様~!」
俺はその歓声の中、透明化の魔法でルリがいる部屋へと逃げかえる。
「おかえり、大賢者様」
ルリが俺が入ってきた途端言う。
さっきの騒ぎのことを聞いていたのだろう。
「やめてくれ」
「やだ」
俺はため息をつきルリのおでこにキスをする。
一人用の椅子に座り、途中だった本を読みだす。
「もういいのか?」
「ユイに魔法かけてもらったから平気だよ」
「なるほどな。教えてもらったのか?」
「うん。今改良中」
テーブルの上に大量に魔法陣が描かれた紙が散乱していた。
ルリのほうが大賢者にふさわしいと思ってしまう。
なぜ俺なのだろう。




