第12話 デート②
「動きにくい……」
「いやいや、逆だろ」
「そお?」
今まで着ていた白いドレスは、ヴァルキリースパイダーと呼ばれる、天使の羽が生えた蜘蛛が吐く、ミスリルの糸である。
白銀とも呼ばれるミスリルは、魔力を込めることによって服を編集することができ、重さや防御力の編集も可能になる。そのため、何も着ていないと思ってしまうほど軽くしてあるため、普通の絹などを使った服では動きにくいのだろう。
「で、どうする?」
「買う!」
「じゃあこれで」
俺は店員に白金貨を渡し、ルリが注文していた服と俺が選んだ分の服の支払いを済ませた。
「着替えるのか」
「うん。こっちのほうが動きやすいし」
ルリは、ミスリルの糸でできたドレスを俺の手から奪い取り試着室へと戻っていった。一般の服だとお忍びに見えてしまうことを考慮したのだろう。
「これから見回りですか?」
店員が、ルリが注文していた服を紙袋に詰めて手渡してきた。
「挨拶がてらですかね。時間が許す限り回る予定です」
「なるほど、そういえばお二人の結婚式ていつなんですか?」
一瞬意識が飛んだ。
いつどこで結婚式のことが出回ったのだと考える暇もなく、とりあえず店員に聞き返す。
「どこで聞いたんだ……」
「あ、いえ。殿下の彼氏連れてくるとか依然いらっしゃったときに言っていたので、つい」
「その話はもう町全体に?」
「ですね。お二人が結婚するてもっぱらのうわさになってますよ!」
「そ、そうなんだ……」
町に来た際、住民たちが何かひそひそ話していたのはそのことなのだろう。
たしかに、個人的に早く式を挙げたいとは思ったいたが、めんどくさくてやりたくないと思ってしまうのが現状だ。
「気になるなら出てこい」
試着室の扉の隙間からの視線を感じ、俺は手招きする。
ルリが、ミスリルでできたドレスを着て顔を赤く染めながらこっちに来た。
殺気の話聞こえてたらしい。
「するの? け、結婚式」
震えた声で、ルリが聞いてきた。
俺はその回答をするためにルリの耳もとでささやく。
「したいなら親父たちに言えよ」
俺はその言葉を残して店を後にした。
親父たちとはかれこれ、一万年ほど連絡が取れていない。
実際に会おうとしても、何らかの制限で神界に行くことができなかった。
もし、親父たちが死んでいるのであればこの世界の均衡が崩れるためなにかとしてわかるが、一万年間一切そんなことはなかった。
加えて勇者というイレギュラーがあったが、それは人間たちが勝手にしたことであり、神である親父たちには関係ないといえる。
「いつでも来てください。陛下!」
「ありがとう」
「いえ」
店の扉についた鈴の音色が鳴り響く中、ルリが店員に出迎えられていた。
その様子を俺は、店の目の前にあるベンチで見つめる。ルリが辺りをキョロキョロ振り返りながら俺のほうに近づいてきた。
だが、その間を馬車が通り過ぎ、目の前にルリの姿がなかった。
「離して!」
大声でルリが叫ぶ声が聞こえた。
猛スピードで走り去る馬車を見つめ、大きなため息をつく。
その瞬間あたりの空気が重くなり、俺にかけていた隠蔽魔法が崩れ落ち、魔王としての姿があらわとなる。
俺の姿を見て、その場で泣き叫ぶものやその場で倒れる者が現れる中、俺は、魔法の詠唱を始める
『破壊と創造を繰り返し、破壊、破滅へと導け』
唱え終わると、俺の足元を超え、町全体に魔法陣の光が現れる。
その中心は馬車を追尾しているかのようにぴったりとくっついていた。
すると、島全体に地震が発生する。あちこちにあった遺跡のほうから光の柱が空に放たれる。
「ぎゃあああああ!」
町の奥で悲鳴が聞こえ、その上空にルリが羽をはやしてそれを飛んでいた。
さっきの魔法は、ルリの真祖の力をすべて開放する魔法。
古代遺跡に島全体の魔力を吸い上げる装置という役目になってもらい、吸い上げた魔力を魔法陣を通じてルリへと流し込んだだけに過ぎない。
「ただいまぁ」
コウモリのような巨大な羽を背中にはやし、俺の目の前にルリが降り立つ。
白いドレスは、血の色で赤く染まっていた。
「おかえり。どうだ? 本調子は」
「うーん。物足りない」
ルリの物足りないという言葉に反応し、すべての住人が一斉に海岸のほうへと逃げだす。襲う気がないルリは、その様子をじっと見つめる。
「血なまぐさいな……」
「我慢して」
ルリに俺はいつものように首元から血を吸われる。
慣れてきてしまったのか気持ちいいとは思わなくなってしまっていた。
首元からルリが口を離すと、赤く染まったドレスが白いドレスに戻り、各遺跡から光の柱が消えた。




