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プロローグ 始まりの旅立ち

「このくそ若作りじじぃ! さっさとこの魔界から出て行ってくれ!」

 

 魔王軍の幹部の中で一番強いユリウスが魔王である俺の前で言い放つ。

 魔王城の王の間にいた魔族たちが、ざわつき始める。


———仕方ないじゃん。魔神と契約したら不老不死になってしまった。


 独り言をぶつぶつと言っていることに気付く。

 部下たちがユリウスを不快な目で睨みつける。


「いいだろう。ただし今更誤って戻ってくれと言われても戻ってこないからな!」

 

 と言って、ユリウスの肩を叩き、王座の間の扉を後にした。 

 ユリウスから、「自分が最強だ」という妬みの感情を毎日浴びるのがなくなり、清々した。

 王座の間の扉から、誰かが出てきて、「待って」と言っているのが聞こえてくるも、「ユリウスが魔王を続ける限り、魔界には、帰らない」と言って廊下を思いっきり走った。

 背後に見慣れた銀髪が目に留まり、走るのをやめる。


「お兄ちゃん?」


 小さい手で右手を掴まれ、後ろを振り返る。

 そこにいたのは、魔導書を左手で抱きかかえ、透き通るように綺麗な長い銀髪、緋色の瞳、漆黒のドレスを身にまとった俺の許嫁、吸血鬼の真祖のルリだった。


「お兄ちゃんは、もうやめてくれ……」

 

 義理の妹ということが、初めて出会ったときに親父が義理の兄として紹介したため、兄呼ばわりしたため、それ以来お兄ちゃん呼びが主流になってしまった。

 ルリの頭を撫でると、その手を頭から離し、笑顔でほっぺに手を触れさせ、すりすりし始めた。


———か、かわいい。


「だめ?」


 うつろな瞳で、じっと俺を見つめる。


「だめ、呼ぶなら——————その、名前にしてくれ」

「——————お兄ちゃん?」


 一度思い出したのだろう。俺の長すぎる名前を。

 俺こと、デュルク・エバ・ユイ・ハーフ・フォン・ユライト・クロス・へベルダイン皆からは、デュルクと呼ばれたいと思っていたが、誰一人として呼んでくれなかった。

 皆「魔王様」と敬意を表して呼ぶのだ。


「デュルクで頼む」


 もう一度お願いしてみる。


「解ったよ。お兄ちゃん」


 だが、全く進展がない。恋人同士なのだから、名前で呼ばれたい。

 そういう気持ちが、あふれ出す中で、部下たちが俺を呼んでいる声が近くまで迫っていた。


「ルリ。一緒にここを出よう」


 俺は、ルリの右手を掴み、一緒に広い廊下を走りだす。

 後ろから部下が呼ぶもそれを無視して、城を飛び出した。


 紅の色の月が魔界全体を照らすで、夜空へと黒いコウモリ羽を背中に生やし飛び立つ。

 魔王城の城下町が次第に小さくなっていくのが見え、紅の色の月が地上から見るよりも少し大きくなっていた。

 

——————プロポーズすれば、お兄ちゃん呼びではなくなるのでは?


 緊張で心臓の鼓動が激しくなっていくのがわかる。

 落ち着け、落ち着け、俺ならできる。

 勇気を絞り、声を出す。


「なぁルリ」

 

 不思議そうにルリが、首をかしげる。


「好きだ! 結婚してくれ!」


 俺は、魔界中に響く声でいう。

 今までずっと許嫁のままだった。

 魔王じゃなくなったこれを機に、ユリウスに奪われるくらいなら俺が……


「ばーか」


 真横を、紅の月が照らす中でルリは、俺にキスをした。

 ルリは、俺の口から離すと首元を噛み血を啜り始める。

 

——————痛い......。なんだこれ......。心地いいような......。


 最初に痛みが全身に走るも、全身の血が吸い上げられるような感覚に襲われる。

 身体の意識が抜け、羽の羽ばたきが止まる。


「お兄ちゃん」


 両手を俺の腹に触れ、上目遣い遣いでじっと見つめる。

 快楽に浸って意識が飛びかけていたところをルリの声で正気に戻り、羽が止まっているのに気づく。ルリが支えてくれたおかげで落ちずに済んだらしい。


「ん?」


 その一言を言い放つと、ニコっと笑い、左手に赤い心臓を持っていた。

気づくと、右胸に穴が空いており、血が滴り落ちている。痛い、痛い!

翼が止まる。急速に高度が落ちていくのがわかる。


「た……すけ……て」


意識が朦朧とし始め、ルリが俺の心臓を食べている。

やっぱり吸血鬼なんだな。

改めてルリを吸血鬼だと確信した。

だが、とんがっている岩が俺の腹を貫いていた。

いてぇ………だけど、もう意識が……


「大丈夫?」


突き刺さった岩の上にルリがしゃがみこんでいた。

パンツが見える。白か………白なのかぁ………

意識が戻り始めている。再生が始まったようだ。


「いきなり心臓抉るな!」


大声で叫ぶ。

痛い、痛い、今でも叫びたくなる。激痛だ。

ルリが俺の様子を見てニヤニヤしている。

楽しんでいるのだろう。

心臓や骨が再生したのか、ルリに抜き取られた右胸は、傷がふさがっていた。

岩が刺さってしまった腹はまだ再生していないようだ。


「食べたくなったからつい」

「ついじゃねー……」


少し呆れてしまう。

なんでルリはこんなに俺の血が好きなのだろう。

本来吸血鬼は、人間の血を好むはずだ。


「そろそろ、先行こ」


ルリが右手を俺の方に向ける。

俺はその右手に左手で掴む。

ルリは俺が右手を掴んだ途端、空へと思いっきり跳ねた。


「いってえええええ! もう少し優しくしろよ!」


岩が抜け、腹に大穴が空いた所を撫でながら言う。


「やーだ」


ちょっとムカつく。だが、そういうとこがいい。

小悪魔みたいな性格が。

ルリが俺の腹を指さす。

大穴が空いた腹がいつの間にか再生が終わっていた。

相変わらず凄まじい再生速度だ。


「あ、お兄ちゃん」


ルリが突然空中で止まる。

何かを忘れ物でもしたのだろうか?

すると、俺の方を向いて笑顔で言った。


「大好き」


俺も好きだ………。殺されかけたけど

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