八十四話 コツを聞いたはずなのに不安要素ばかり出てきた
訓練を開始してからあっという間に時は立ち、武闘会開催まであと二日となった。
エド先輩がみっちりと私達に課した訓練メニューは過酷だった。
おかげで痩せた気がするけども。
それでも正直、この短期間で一八人で連携をバッチリとるなんて、ムリムリのムリだ。
そこで、エド先輩の訓練メニューとは別に、何人かのグループを作って連携の訓練を行った。
試合で部隊を編制する際は、フィールドに合わせて中心となるグループを決めて人数を合わせる形式になる。
そんなグループを指揮する四人がこちら。
エド先輩、エリック様、私、一年生のリータ・フェンネル様。
四人の指揮の元、編成を都度変えて何回か模擬試合を行った。
結果、一番戦績がよかったのはエド先輩。
次いで、エリック様、私、リータ様の順となった。
私は最初、とある無詠唱魔法を使うことで戦況を有利に進めたんだけど、それじゃ指揮の練習にならないと思って止めたことで勝率を下げた。
それと、指示に従ってくれない人がいたことも勝率が下がった要因だと思う。
そうそう、リータ様のことを話そう。
リータ様は伯爵家の四男とのことだ。
Cクラスで下位の火属性魔法が使えるけど、戦闘そのものはあまり得意ではないらしい。
一学期の部隊ではリーダーは務めていないそうだけど、グループでの訓練で的確に声を出せていた方だ。
実力的にはCクラスとあって反発は生みそうだけど、四男とはいえ伯爵家であれば大抵の貴族は従うほかない。
それに、子供の頃から領地を継ぐ兄を補佐しようと大人に混じって色々と勉強していたようで、人間関係を含めて色んな意味で組織的な動きを意識するのが上手な方だった。
武闘会を目前にした私達四人は、訓練はほどほどにして作戦会議を中心に時間を使っている。
様々なフィールドや相手チームの編成によって、作戦を考えているのだ。
「これである程度はまとまったな。戦いは不測の事態の連続だ。細かいことはお前たちの判断に任せる。
明日はチーム全体に方針を伝えるが、フィールド毎の詳細戦術は混乱させるから伝えなくていい」
「了解」
「わかりましたわ」
「は、はい!」
早めに解散になった私は、一人で無詠唱魔法の訓練をしているクレアに近づく。
「どう? 安定してきた?」
「まだまだ発動までに時間が掛かってしまいます。お姉様が言うように特定の行動と結びつけるっていうのが上手くいかなくて……」
「う~ん、そればっかりはイメージの問題だからなぁ。クレアにとって印象に残っているポーズとか、出来事を思い出してみたらどう?」
「あっ、ちょっと試してみたいです! そういうお姉様の方はどうですか?」
「サラに手伝ってもらっているから、形にはなっているけどね。そうね、クレアにも手伝ってもらってもいいかしら?」
「はい! もちろんです!」
無詠唱魔法の訓練を陽が落ちるまで続けて、私達は帰路に着いた。
翌日、訓練は軽めで済ませてチーム全体で作戦会議を行う。
相手チームで要注意な生徒とその戦い方、フィールド毎の大まかな作戦などを共有した。
最後にエド先輩が檄を飛ばす。
「初戦は勢いに乗れるかどうかの大事な試合だ。
当然、白盾も黒剣も同じように考えて主力メンバーが出場してくるだろう。
それをオレとリズ、中位魔法が使えるメンバーを中心とした編成で迎え撃つ。
恐らく全チームフルメンバーになるから、二チームを全滅させることは当然できねぇ。
だが、他の二チームの人数をここで削ることができれば一気に優勝が近づく!
教国の僧兵はな、粘り強くしぶとい。
お前らにもこの二週間、その訓練をしっかりと叩きこんでやったつもりだ。
最後まであきらめずに戦え! そして勝て!
オレ達が優勝するぞ!!」
「「「オォオーー!!」」」
エド先輩によって、チームの士気は上がる。
明日に備えて解散となるが、熱にあてられたのか何人かは残って訓練をするようだ。
私とクレアは程よい緊張と興奮を消費させずに、寮へと戻ることにした。
寮に戻り、訓練で掻いた汗をお風呂に入って流し、サラが用意してくれた夕食を三人で食べる。
「ねぇサラ。今更なんだけど中規模で戦闘をする時の心得って何かある?」
「経験や連携は言うまでもありませんが、即席であれば指揮命令系統が徹底されているかはかなり重要だと思います。訓練で指示を守れない人は実践でも当然指示を聞きません。
難しい点は訓練で指示を守れても、実戦となると暴走することもありえることでしょうか」
「あ~わかる気がするわ。パニックになっちゃって、周りの声が聞こえなくなったりするもんね。
それに訓練の段階ですでに指示に従ってくれない人も実際いるし……」
例えばラグ様。
同じシトロン伯爵家の傘下にある家で、パーティーなどでのけ者にされていた私に良い印象を持っておらず、軽視されているのか指示に従ってくれなかった。
ベルガモット領での魔物討伐ではベルガモット家に仕える領館の者達と守備隊の人間を率いていたから、指示に従わないということはない。
だからこそ、今回の件はなかなかに衝撃的な経験だった。
私自身、正直彼に良い印象を持っていない。
指示に従わないことより、軍隊サソリからテルト村を守る準備の時、私をデブとこっそり言っていたのを知っているのだからっ!
「後は乱戦になった時ですね。自分達が劣勢になった時、味方を切り捨てる判断も必要なことを覚悟しておいてください」
「え? さすがに見捨てるのはちょっと……」
「お嬢様の気持ちはわかります。魔物討伐であれば見捨てるという選択肢はないかもしれません。
ですが、今回はあくまで対人戦であり、試合です。
ルールをお聞きしましたが、次の試合に人数を残して繋げることはかなり重要だと思います。
人数の差は戦力の差ですし、最終的には護石の修復にも関係してきます。
だからこそ、厳しい判断をすることも覚悟しておいてください」
「う、うん……考えておく……」
「後は指揮官は最前線に出過ぎないことでしょうか。お嬢様は結構無茶をなさるので、クレアがしっかりとお目付け役になって抑えるように」
「はい! わかりました!」
「えぇ……私そんな無鉄砲じゃなくない?」
「え?」
「え?」
「え?」
上から順に、クレア、サラ、私の「え?」である。
「いやだって、クレアの方がよっぽど無鉄砲じゃない?」
「……確かに、特定の状況ではそうかもしれませんね……」
「私ですか!?」
「自覚がないと?」
サラが私の方をじっと見ながら言う。
何故に?
「えっと……それはその……時々?」
「逆に言えば、お嬢様さえ絡まなければ普段から思い切りがいい所はあるけど無鉄砲という程ではないわね。だから、お嬢様のことを頼むわ」
「まかせて下さい!」
えぇ……なんか腑に落ちないんですが……。
「ま、まぁいいわ。もう武闘会のことは忘れてご飯を楽しみましょ」
「そうですね。今日はちーとでーですよ。一杯ご用意してますから、どんどん食べて下さい」
「お姉様は最近随分とお痩せになったから、もうダイエットは必要ないんじゃないですか?」
「うふ。うふふふ。そうなのよ! 痩せた時用の制服でも全然余裕で着れるのよね!」
「エド先輩の訓練メニューはなかなかハードでしたもんね」
「そうやってすぐ油断するから元に戻っちゃうんですよ。お嬢様のせいで私が何キロ痩せたことか……」
「えぇ!? 私より先に痩せてたの!?」
「嘘です」
「何故嘘を!?」
「まぁまぁ、今は食事を楽しみましょう!」
「そ、そうね。そしてそして~明日からの武闘会頑張って勝つぞー!」
「おー!」
「はい。お嬢様の活躍を観客席から拝見させて頂きます」
食事を終えると私達は三人で寝る。
何かイベントがある直前は、三人で寝るのが定番化してきた私達だった。




