八十一話 宴はパーッとね!
「さぁ、お嬢ちゃん! これをお食べよ!」
「いやいや、今日収穫したばかりのこっちの方がうめぇよ! こっちにしときな!」
「まぁどちらもおいしそうですね! せっかくですからどちらも頂きますわ!」
「よぉし! おらが躍るだ。みんなも歌えや踊れぇえ!!」
「梨のジュースを作ってきました! お姉様、飲んで下さい!」
軍隊サソリを討伐してから随分と時間が立ち、とっくに陽は沈んでいる
そんな中、テルト村は飲めや歌えやの大騒ぎである。
村の中央に、大きな前世のキャンプファイアーで見るような立派な井桁を組んで、火を焚いている。
その周囲には、その火を使って料理をしたり、この地方に伝わる民謡を歌ったり、踊ったりしている人達が沢山いた。
なぜこんなことになっているかと言うと。
クレアから聞いたエアーズガーデンを使った後のことと、私が目覚めた後のことを語ろう。
あの軍隊サソリは、瀕死ながらもまだ生きていた。
その尻尾と一本のハサミが千切れ、瀕死の状態にもかかわらず、もう一本の千切れかけたハサミで私襲い掛かろうとした。
そこをエリック様が千切れかけだったハサミを落とし、瀕死の軍隊サソリに止めを刺した。
もう一体の軍隊サソリだけど、光の壁を破る頃には村にいた僧兵さんが合流してくれ、壁が破られるのと当時に三人掛かりで討伐したそうな。
主に僧兵さんが。
後は、エリック様と僧兵さんで外にも軍隊ベビーがいないかを確認するため、周囲を見回っていた所で部隊のみんなが合流したようだ。
そして、合流した後すぐに、私は目を覚ましたのだ。
私が目を覚まして状況をクレアから確認した後、部隊のみんなの所に戻った時のことは、今思い出しても背筋が凍りそうになる。
安心した様子のジョルジオ様と、身体から湯気を出しそうな程怒っているリズ先輩がいたのだ。
エド先輩ではなく、リズ先輩である。
エド先輩は呆れているのか、我関せずといった状態だった。
状況が呑み込めない私に、リズ先輩が食って掛かる。
「あたいに何も言わずに何で先に行ったんだい!?
前衛と後衛のバランスが取れてない、それどころか貧弱な前衛しかいない所に、一人で突っ走って!」
「貧弱な前衛……」
エリック先輩の切なく独り言ち、項垂れる。
怒られている私が言うのもアレだけど、頼れるようになってきたリーダーの情けない姿を見てしまった。
「それに、そこ! 服が破けてる! 傷はないみたいだけど、後衛がそんな状態になってどうするんだい!」
リズ先輩のお怒りは収まらない。
あれ? 確かにズボンが破けている……。
軍隊サソリの攻撃は胴だったし、足に服が破けるような攻撃食らった覚えはないんだけど……。
ま、まさか……。
アクセルで走ってた時に、破けた……とか?
いいいいいや、デデ、デブじゃねーし!?
屈んだ時にお尻の所が破けるみたいなことねーし!?
く、このままでは押し切られる!!(何が?)
なんとか、反撃を!
「あ、あの……。えっと、ごめんなさい?
エド先輩には怒られるかもって、思ったんですが、なぜリズ先輩が?」
「エドが行っていいって言っちまったんだろ?
なら、あたいが怒るしかないじゃないか!」
無駄な反抗だったようだ。
「ご、ごめんなさい……」
「何より、いつもいつも気を失うまで魔法を使って!
戦場で意識を失うことがどれほど危険なことかわかってるのかい!?」
一学期のロックホーン、夏休みのワオーンドッグ、ダンジョンアタックのネイルバット、今回。
うん、思い当たる節しかない。
「それは、その……」
「言い訳しない! そうならないように立ち回ることを覚えな!
じゃないと、いつか死ぬのは自分と、一緒にいる人間なんだよ!」
「でも……」
「でもじゃない!」
一際大きな声と、突然動きだしたリズ先輩に、体がビクりと硬直する。
「あたいは、フロストが心配なんだ。
あんたに、死んでほしくなんかないんだよ」
そして、私は暖かい感触に包まれる。
「でも、よく民を守ってくれたね。
よく、無事で生きていてくれたね。
ありがとう、フロスト」
「あ、あぁ……。うぅ……」
暖かい、抱きしめられた感触と言葉に、私の目には涙が溢れてくる。
「それで? オレに怒られるようなことでもしたのか?」
「い、いいえぇ?」
台無しだよ! エド先輩
「ふふふ。お姉様は皆さんに愛されていますね」
「あぁ。全く、大した奴だ」
クレアとジョルジオ様で何いい話風に締めてるのぉ!?
居たたまれないまま、私はその後もリズ先輩から魔物との戦闘における立ち回りについて延々とレクチャーを受けるのだった。。
普段怒らない人が怒ると怖いって、本当だよね……。
その後は、魔力をほとんど使ってしまった私とクレアは、なぜかまた持ってきていたクレア特製クッキーを食べ、水分を補給して休ませてもらった。
そのまま少し寝てしまい、起きた後は村長さんから呼び出しが掛かる。
「この度、お三方にはテルト村をお救い下さって、感謝の言葉もございません。
これは少ないですが、村からの感謝の気持ちになります。
村総出で宴の準備もしていますので、どうぞお楽しみください」
村長が、エリック様、クレア、私の前にそれぞれお金が入っているだろう革袋を差し出す。
「あ、いえ、お金なんて……」
「ありがたく頂こう」
クレアが受け取りを拒否しようとした所、エリック様がお金が入った革袋を受け取る。
無償で助けられるというのは、気持ちの受け取り方は人によって様々だと思う。
例えば、恩をいつか返せればいいなとか、強引に恩を売られているとか、助けられるのが当たり前だとか。
感じ方は人それぞれでいいとは思うのだけど、魔物が蔓延るこの世界で無償で助けられるのが当然だと思ってしまうようになったらとても危険だ。
無償で、危険を冒してまで人助けをするような人なんて、滅多なことにはいないのだから。
なので私も受け取ろうとして、ふと思い出す。
ゲームでこの村を救うイベントと夏休みのベルモでのやり取りを。
ゲームでは、主人公であるクレアとエルドレウスがこの村を救った後、今みたいに報酬を差し出され、受け取るか受け取らないかの選択肢が発生する。
エルドレウスルートに入るためには、受け取らないという選択肢を選ばなければならない。
これは、人を守り、助けることが当たり前というクレアの考えと、エルドレウスの思想が一部で一致しているから、クレアという存在が気になっていくという導線なんだと思う。
エド先輩の思想というか考えは、ベルモでの魔物討伐の時、当初お金を受け取らないと言っていたことから垣間見える。
たぶんだけど、エド先輩は金銭に関係なく、民を純粋に守るべきだと考えているのだ。
それは教国という特殊な立場だからではあると思う。
だって、教国は直接お金を貰わずとも、各国、各領地に請求しているし。
横道にそれたけど、今の状況をどう考えるか、である。
クレアはダンジョンアタック後、エド先輩の所に足繁く通っている。
つまり、好意があるんだと思う。
だとすると、クレアのためにもここでエド先輩の好感度を稼いでいた方がいいのではないか?
でも、一貴族としてのけじめのためにも謝礼を受け取るべきだとも思う。
う~む……。
「お姉様?」
謝礼を受け取りもせず、かといって拒否もしない私を不審に思ったんだろう。
うん、受け取ろう。
「村長さん、皆さんが無事でよかったですわ。こちら、ありがたく受け取らせて頂きます。
クレアもせっかくの感謝なのだから受け取りなさい」
「でも……。小さな村に余計なお金なんてないんですよ? お二人を止めはしませんが、私は……」
「クレア。全部、この村でお金を使ってしまいましょう!」
「え?」
「宴を準備して下さっているなら、お食事にお金をお支払いしないとね。それに、今日宿泊させて頂く所にもお金が必要だし。
宴と言えば歌を歌える人や、踊れる人がいたらチップを弾むのもいいわね。
さぁ、今日は豪勢にお金を使ってしまいましょう!」
「あ……。はい! そうですね、お世話になったらお金を支払わないとですね!
村長さん、今日はここに宿泊させてもらっていいですか!?」
「え? あ、あぁ、もちろんだよ、クレアちゃん」
「はぁ……。仕方ない、僕もパーッと使うことにしよう。全く、ただ働きだよ」
「ふふふ。エリック先輩、ありがとうございます!」
「というわけで村長さん、こちらまとめてお支払いさせて下さいまし」
そんなこんなで私とクレアも、村人に負けないくらい歌って踊って、楽しい夜を過ごした。
ちなみに、溝や堀を掘った件については、エド先輩が教国からの報酬として心ばかりの報酬を全員に支払ってくれた。
教国は子爵経由で正式に請求をするとのことなので、こちらはありがたく頂くことにした。
翌日、無事に学院へと帰り、エリック様が教師へ事の顛末を報告し、平日二日間の休養となる。
私とクレアはサラの手料理に舌鼓をうち、今回の出来事を報告する。
楽しい時間はアッという間に過ぎ、夜は三人で寝る。
そんな二日間を過ごした。
サラと過ごしていると、日常に帰ってきた、そんな気がするのだ。
さぁて明日から、今度は武闘会に向けて特訓だ!!
フ・ク・サ)ここまでお読みいただき、ありがとうございます!二学期編 前編完結になります!
サ)いつの間にか前編になってましたね
フ)フロスト争奪戦からすでにざっくり予定話数を大幅に超えてたから……
ク)でもでも、おかげで?二学期前編で沢山のブクマと評価を頂きました!ありがとうございます!
フ・ク・サ)というわけで、ある程度書き溜めができたら幕間を数話投稿後、本編再開予定です!
二学期編前編、面白かった、今後も楽しみ!と思って下さったら、ブクマ・評価をお願いします!
それじゃ、また後編の武闘会でお会い致しましょ~!またね!
改めて、ここまでお読み頂きありがとうございました。
ブクマ・評価を下さった方々本当にありがとうございます。とても励みになりました。
別の物語も書いてみたく、本作はしばらくお休みいたします。
ブクマをして頂き、お待ちいただけますと幸いです。




